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異世界4-11 闇の最期

「──やれやれ。まさかボクがやられるなんてね……本当に魔王様並みか……いや、その物なのかな?」


「まだ息があるか。魔王軍の幹部はしぶといな。エレという者も脇腹が抉れたままで話していたぞ。最期は自害したがな」


「へえ……ボクの知り合いはしかと忠義を見せたという事か。他者の為に尽くす気概が理解し難い」


 “他者”。少なくともダクが人と認めているのは魔王軍の幹部仲間だけ。他者とはそう言う事だろう。だとしても魔王は“人間”ではなく、更なる上位的存在と認識してるっぽいけどな。

 ダクは片手で抉れた半身に触れ、言葉を続けた。


「ならボクも……生まれて初めてそうしてみようか」

「……!」


 瞬間、無数の闇が大きく舞い上がった。

 その闇は空中にて軌道を変え、ダクの方へと降下。全身を貫く。


「……! まさか……! アイツ……!」

「グラドさん?」


 その自害にも等しき光景を前に、肉体が再生したグラドさんが声を上げる。

 俺も疑問符は浮かべたが、闇魔法の効果を知った今、何をしようとしているのかなんとなく分かった。


「既に察しは付いているようだね。ボクは死なない兵力となる。闇魔法はその命をも食らい、生と死の輪廻を永遠に彷徨さまよう存在とさせる。自分の体で試したのは初めてだけど、中々に痛いし苦しいね。その分永遠の命が手に入る……!」


「……っ」


 闇魔法。それは相手を普通に殺められるが、この街を見ての通り生も死も無い屍を量産させる事も可能。

 その力をみずからに使う事によってダクは既に死した死なない肉体を手に入れたようだ。

 加えて己の意思はそのまま。確かな苦痛は感じているようだが、相変わらずの態度だった。


「さて、第2ラウンドだ」

「……!」

「グラドさん!」


 次の瞬間、闇が薙ぎ払われてグラドさんを含めた周りの死者達が貫かれ、操られる。

 ルティアの力すら凌駕するダクの力。素の戦闘能力じゃ元々上回っていたんだろうけど、得意分野も越えられてしまったか。

 だがそれは己の身を砕く勢いでのバフ。死なないから長く持つだろうし、力も健在で厄介だな。こう言うパワーアップって普通は時間制限とかあったり自分から瓦解するけど、そんな雰囲気も無さそうだ。


「フッ、面白い……良きサンドバッグがまた増えたな」

「この体でも結構痛いんだ。お手柔らかに頼むよ」


 瞬時にルシが詰め寄り、ダクは動かず闇を放射。

 縦横無尽に飛び回る闇の鞭が空気を切り、瓦礫や木々を粉々にしながら打ち込まれる。

 その全てをルシは紙一重で見切ってかわし、ダクの懐へと入って蹴り飛ばした。


「うん、やっぱりおかしいよね。痛みを感じるのは。痛みとは危険を知らせる信号。既に死なないボクに危険なんて無い筈だ……だったらそうしよう」


「何をブツブツと言っているのか分からないが、我に追い付けるのか?」


「そうだね。少なくとも痛みはもう感じない」


 己の体を闇で改造し、痛覚を消し去った様子。メチャクチャな事するな。

 痛みの感じる場所をいじれば無くせるとは思うが、痛みが消えるまでの激痛は計り知れない。それに耐えたのか。


「さあ、ゴミも上手く利用しようか」

「「「…………」」」


 ダクが指示を出し、グラドさん含む死者やアンデッドの行進が始まった。

 俺も指を咥えて見ている訳にはいかないか。ダクの方はルシが止めてくれているし、俺だってやらなくちゃならない……!


「──!」

「「「…………」」」


 “身体能力強化”+“遠吠え”。からの“モーニングスター”にて拘束。

 鞭系スキルはあってもその物にダメージが付与されてしまっているからな。ちょっと無理矢理だけど、鎖球を上手く活用していく。


「皆を止めるのは一苦労じゃぞ!」

「ご主人様。此処に頑丈な縄を用意致しました」

「おお! ナイスじゃラナ!」

「いえ、貴女様の為なら」


 ルティアも飛び交い、死者達の機動力を止めてからラナさんがどこからか用意したロープで拘束。いや、ホントにどこから持ってきたんだ?

 まあいいや。どの道死なない存在。悪いとは思うけど、ちょっと手荒にやってしまおうか。


「そら!」


 “無限鉄矢”にて手足を大地に深く突き刺し停止。意思はある筈だから痛みが生じるが、ダクが倒されるまでの辛抱だ。

 とは言え使用人さん達は既に避難済み。此処に居るのはほぼダク直属の部下達だけだろう。


「……」

「……! グラドさん……!」


 ──1人を除いて。

 グラドさんは元々戦場に居たのもあって戦闘力が高い。しかもグールの身体能力。これは骨が折れそうだが、こっちにはルティア達も居る。


「させぬぞ! 元に戻れ!」

「すみません。グラドさん!」


 ルティアが風にてグラドさんの体を浮かせ、俺が“大岩石”にて押し潰す。更に鋼鉄圧球にて完全に動きを止め、拘束が完了した。

 大変だけど、俺達の方はなんとかなりそうだな。後はルシとダクの戦闘が問題だ。


「言うなら、粘着カーペットクリーナーかな」

「確かに粘着しそうだな。食らった者の血によって」


 枝分かれした闇が全方位からルシを覆い、全てを魔力の放出にて破壊。

 破壊された旁からおびただしい数が肉迫し、舞うようにそれらを回避。

 闇の上へ乗って駆け、ダクも己の速度を高めた。


「まだまだだね」

「お互いにな」


 闇の上にてせめぎ合い。攻防が繰り返される。

 ダク自身と闇が肉弾戦を仕掛け、ルシがそれらをいなしていく。闇は払い、腕も払い、腹部へ拳を。れど動きは止まらず、怯む事なく攻め立てる。

 目にも止まらぬ攻防は更に、更に速く加速していく。


「…………」

「…………」


 互いに軽口の叩き合いは終わらせ、ただひたすらに打ち合う。

 闇と共に拳が叩き込まれ、身を翻してかわす。余波は前方へと飛び去り、衝撃は地面や大岩を破砕する。

 拳から放たれるは神速の突き。躱し、受け流し、いなし、反撃を叩き込む。

 連撃が放たれれば捌き切り、払い除けられれば真正面から打ち砕く。

 一撃一撃が大気を揺らし、震わせる。次第に速度は増し、拳の嵐に間隙は無くなっていく。更に速くなる一合一合に込められる重みは増していき、今一度闇が一点に込められた。


「“殺虫剤”」

「既に防いだ」


 闇の波動が突き抜け……っても、既に森なんて無くなっている。本来なら星をも揺るがす技の応酬。互いに打ち消し合うからこそ被害がこの程度で済んでいるのだろう。


「クク……面白い……! なれば我も現状の全霊を持ってお相手しよう」


「まだその段階じゃなかったのか。少しショックだな」


 高揚感が溢れ、ルシの周りを禍々しい魔力が包む。

 ダクは指先に己の闇を込め、速度と貫通力を高めて迎え撃つ。


「魅せてみろ。その力を……!」

「魔王様にも同じような事を言われたっけ」


 細く鋭い闇が放たれ、ルシは己の魔力で防御。兼、攻撃。

 見た目はそんなに威力が高くなさそうだが、よく見たらルシの足元の地面が少し抉れてる。若干押されているのか? いや、闇魔法に適応していってるみたいだ。

 その証拠に闇は徐々にルシの防壁魔力へとまとわり、重い一歩を踏み込んだ。


「これで終わりだ。この世界の我の部下よ」

「やはりキミは、魔王様本人のようだね」

「強いて違いを挙げるのなら、この世界の魔王は我の分身だ」

「成る程……道理で──」


 言葉を続けるよりも前に拳が貫き、ダクの半身のみならず上半身全てが消滅した。

 次の瞬間、ダクの体に溜まっていたであろう闇が暴走を……──え?


「オ、オイ! ルシ! これってヤバイんじゃ……!?」

「そうだな。まあ気にするな。この星が消え去るだけだ。我や君は生き残る」

「ちょ、冗談じゃない! ルティアや他のみんなが……!」


 どれ程の魔力を込めていたのか。既に闇の一斉放射で大半以上の力を消費し、その上での余波で惑星が消滅。

 改めてとんでもないが、驚きやツッコミをしている暇はない! けど、俺にはどうにも出来ない!


「どどどどうすればばば!?」

「慌て過ぎだ。……非常に癪で不愉快極まりないが、この世界の崩壊は止められる」

「……!」


 その言葉でハッとした。

 今この場に居ない、もう1人の最大戦力の存在。

 上を見れば月明かりに照らされて透き通る白髪の者が浮いており、白い力を込めて降下。ダクの下半身を包み込み、消失。次の刹那に大爆発が巻き起こった。


「……ディテ……」


「とんでもないわね。別空間に送ったのに次元を超えて影響が及ぶなんて。力の衰えた私でどうなるか不安だったけれど、なんとかなったわね」


 呆気からんと話す。

 だが実際、ディテが軽薄な表情を消して言うんだから本当に危なかったのだろう。敵が状態変化で戦闘継続はRPGじゃよくある事だが、こんなにもパワーアップするなんてな。初見じゃ負けイベントかと錯覚しようだ。……まあここは現実なんだけどな。


「何はともあれ、これで終了ね。あの街も魔王軍の支配下から抜けるでしょう」


「ああ。他の人達、結局アンデッドのまま生きていくのかな」


 一仕事終え、空を見上げて話す。

 既に夜明け前。東側の空が白み掛かっていた。思ったより長い事戦っていたんだな。

 拘束したアンデッドの人達を早く救助しなきゃ消滅……はしなくなっているけど、色々大変な事になりそうだ。グラドさんも押し潰したままだし。

 俺達とダクの織り成す戦闘。それはルシが存在を消し去る事で完全決着となるのだった。


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