異世界4-8 暗い夜
「厄介でも、ゴミ相手にやる事は変わらない」
夜よりも暗い無数の闇が迫り、俺は自身の所有スキルにて防御と反撃。
鬩ぎ合いによって辺りが吹き飛び、それによって生じた粉塵の中からルティアが飛び出してダクの腹部へ蹴りを放った。
「……フム」
「まだまだじゃあ!」
その勢いで距離が置かれ、追撃するよう雷を正面へ放出。世にも珍しい直進する稲妻だ。
雷は闇によって消し去られ、左右を暴風が包み込む。それをも払い除けて鋭利な闇が突き出し、ルティアの体を貫いた。
しかし背後には既にラナさんが。
「やはりゴミは気付かないうちに近付いているか」
「……」
背部を蹴り抜き、俺の方へと飛ばす。既に力は込めており、迫ったダクの眼前へ足を寄越していた。
「そ━━ら!」
「……また知り合いの技か」
“光蹴”にて蹴り飛ばし、複数の木々を貫いて遠方へ。
果たしてこの吹き飛ばしに意味があるのかは分からないが、何となく映えるだろう。
そう思った矢先、木々の隙間から闇が迫って俺は再び絶命した。既に得ているスキルだから反応はしなかったけどな。
「……手応えあったが……ああ、そうか。ボクの知り合いが言っていた存在がキミか。ボクの力は模倣されていたって訳だ」
「今更かよ」
本当に他人へは興味関心が無いんだな。既に共有されていた筈の情報をやっと思い出した様子。
別段このまま思い出してくれなくて良かったんだけどな。その方が色んなスキルが手に入れられたし。
「まあいいや。物真似が得意なゴミも居るだろう。埃は柔軟で色んな形に変えられるからね」
「ホントにゴミの例え豊富だな。てか埃を触るなよバッチぃ。あれってダニの死骸とかだぞ」
「そうだね。だから触れないようにしてるじゃないか」
闇が放たれ、肉壁には適正な俺が迎撃。
左右からルティアとラナさんのコンビネーションで攻め立てる形だが、イマイチ決定打に欠ける。もう少し主軸を整えたいところだな。
このままジリ貧の攻防が続くのかと思った時、
「見つけたぞ! ダク!」
「おや、ゴミに知り合いは居ない筈だが……どこかで会ったかな?」
「忘れているなら思い出させてやる!」
「グラドさん……!」
ゴミに知り合いはいないと豪語するダクへ向け、グラドさんが加速して拳を打ち込む。
武器などは持っていない。グールの伝承では鉄嫌いとかがあったし、ヴァンパイアの銀みたいに何らかのダメージを負っちゃうんだろうな。
だがグールの腕力からなる一撃は確かに効くだろう。
「思い出すも何も……」
「……ッ!」
しかし闇によって防がれ、明確なダメージとはならなかった。
そのまま切り刻まれるが再生し、怯まず拳を放つ。それも防がれ、まとまりのある闇に吹き飛ばされた。
「くっ……やはり力には差があるか……だが、今の私には人間の時より高い再生力と腕力がある……! 魔法も健在だ……!」
片手に力を込め、魔力を放出。
弾かれるが詰め寄り、側頭部へ蹴りを打ち込んで少し逸らした。
「死なないゴミが多いな」
全方位に闇を散らして薙ぎ払う。
流石に煩わしさが出てきたのかもな。まあ、ヴァンパイアに死ねない俺にグールのグラドさん。ほぼ不死身なので相手からしたら面倒極まりないものだろう。
余裕が無くなってきたのは明確な隙になる。
「行くぞラナ!」
「はい、ご主人様」
「……!」
闇の中からルティアとラナさんが迫り、ダクはピクリと反応を示す。
そう、この闇の一部は俺がコピーした闇魔法。それで2人を包み込んで差し向けたのだ。
咄嗟の事で反応し切れず、闇によるガードよりも前に腕力で打ちのめされた。
「……ッ! ゴミによるアレルギー反応みたいなものか……!」
「それでも通すって徹底してんな」
ちょっとしたアザとなり、それでもなお激昂するという訳でもない。
元々全生物をゴミって言ってるからな。豹変したりはしないのだろう。
「箒で地道に掃いてくか」
「「……!」」
天から闇が降り注ぎ、無数に集って束となる。その闇が動き、周りの森や建物を飲み込みながら迫り来た。
あれがほうきのつもりか。あんなのでサッサッてやられたら一堪りもないな。
既にその威力の片鱗は見えており、自分が住んでいた屋敷ごと消し飛ばした。
《認証しました。新たなスキルを登録します》
そして無論、俺も掃かれて絶命。新たなスキルを得る。
と言うか屋敷ごとって……。
改めてそちらを見、気分が悪くなった。
「自分の部下ごと殺したのか……!」
「ボクに部下なんていないさ。ゴミには変わりないだろう? 意思なんてない。……それに、こうすればゴミを払う便利なゴミの完成だ」
「……っ」
屋敷や闇の下敷きとなり、グチャグチャの肉塊になった部下達に闇を突き刺して偽りの蘇生と共に操り人形とする。
生者からだけじゃなく、死者にも魂的な何かを付与させる事が出来るのか。
操られた部下だった人形は動き出し、武器や杖を構えて俺達の方へ駆け出した。
「「「…………」」」
「意思のない奴隷……!」
「だったら妾だって!」
迫り来る者達を前に、再生途中のルティアが行動を起こす。
そうなれば俺はダクに妨害されないよう足止めするのみ。
無数の闇を生み出してダクへと嗾け、向こうも闇で防御。この時間があればルティアなら敵を無力化出来るだろう。
「さあ、妾の眷属となれ!」
「「「───」」」
1体に噛み付き、死体の血液から己の再生を促進。同時にエキスを注入し、こちら側が操り人形にし返した。
殺された身なのでダクへの忠誠心が残っているかは分からないが、念の為に意思も奪った状態。
しかしダクと違って思考がそのままでないのは良心的だろう。
「何個かは向こう側にされたか。まあいいや。ゴミはいくらでも溢れてくるからね」
「「「…………」」」
時間も時間だし全てを操り返す事は叶わなかったな。
けれど向こうの兵力とこちらの兵力は均等。お互いの勢力が鬩ぎ合い、俺達も再びダクへと仕掛ける。
「更に掃除範囲を広げようか」
「……!」
地面に闇が伝い、夜の暗さが更に深く。ダクは下方へ手を付けた。
「今は夜。夜は影。影は闇。──ボクの闇は顕現する」
「な、なんだこれ……!」
「でっかいのぅ」
足元から広がった闇はダクの元に戻り、巨大な影の巨人が姿を現した。
高過ぎて頭が見えない程の存在。周りでお互いの戦力が争い続ける中、ダクは言葉を続ける。
「世界中の“夜”の範囲を知ってるかい? この巨人は夜その物だ。夜は闇。太陽の光が届かない影。その全てが具現化したものが今の存在だ」
「夜の具現化……」
まさかここまでとはな。夜って言うと単純に考えれば世界の半分。脅威的な範囲だ。世界の半分をくれてやる処か相手にしてやると来た。
この星の夜。その全てを集めて顕現させ、1つの巨人とした夜その物の範囲。これ程までに巨躯な存在を果たして倒せるのか……。
次の瞬間、巨大な夜の闇が大きく揺らいだ。
「……おや?」
「……!」
小さく反応を示すダク。
夜その物を揺らす。こんな事が出来る存在、俺は現状2人しか知らない。
その者は降り立ち、爆風と共にクレーターを地面に造り出した。
「何やら面白そうになっているな。少し早いが、出てきてしまったぞ」
「ルシ!」
「魔王様? いや、よく似てるけど違うね。まあいいけど」
「流石に魔王にゃ様付けか」
余裕の表情は消さないダク。様は付けてもまあいいと割り切る程度の忠誠か。
基本的にルシ達は魔王による援軍を避ける為、幹部クラスとの戦闘は後半に控えている。今回は早めの登場って訳だな。
俺達とダクによる戦闘。それは夜の巨人とルシの参戦で混沌としてきた。
所有スキル
・───
・光球・光剣・肉光変化・光線・光蹴
・遠吠え・お手
・魔弾・魔衝波・火球・肉体強化×7・溶岩球・大水球・暴風球・大岩石
・モーニングスター(武器)
・熱光線・熱爆発・火炎鞭・炎爆球
・飛翔・貫通・風圧・メテオウィング
・自爆発・爆破・大噴火・付与爆破・核分裂・超爆発
・火炎息・雷降・暴風波・洪水衝・突進・流星・槍尾・崩星光波
・直視の即死・肉体変化(槍)・認識発狂
・空想顕現(槍)・インフェルノ・反射・無限鉄矢・鋼鉄圧球・死付与・蘇生阻止・存在抹消・石化
・闇操作・闇突・闇箒




