異世界4-7 塵も積もれば山となる
「さて、掃除をしようか」
「どこまでいってもゴミ扱いかよ……!」
「生き物に対して扱いも何もないだろう。ゴミはゴミ箱に。自然の摂理さ」
「ゴミ箱は自然発生しねえよ!」
「何を言っている? この世界全てボクのゴミ箱にしても良いという話じゃないか」
「アンタの話は理解不能だ!」
「ゴミ相手に話なんて通じる訳が無いだろう」
「そうだな。アンタ相手に話なんて無駄だ!」
互いに挑発し合い、俺は光球を展開してダク目掛けて放った。
この狭い屋敷で放つのは問題かもしれないが、正直コイツの屋敷なんかさっさと崩壊してしまえばいい。俺にしては珍しく明瞭な殺意を込めた一撃だ。
「光魔法……知り合いが使っていた気がするな」
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そう言い、黒い魔力にて粉砕。そのまま魔力は伸び、俺達の位置を貫き俺は絶命した。
俺の死はどうでもいいとして、光魔法の使い手はダク曰く“知り合い”との事。
全生物をゴミと断定する奴にとっては最大限の敬称なんだろうな。
まあいい。お返しだ。
「そら!」
「……! ボクの闇魔法……?」
“闇魔法”。
黒い魔力の時点で大凡予想はしていたが、やっぱりそう言う系統の魔法か。
光に全てのエレメントに爆発に闇。これが魔法世界魔王軍幹部の力。
確かにどれも魔法や魔術を題材にした作品じゃ特別視されるような力だな。イメージの世界だからこそ強い魔法はこれっていう方程式が組み立てられたのだろう。
「ゴミの癖にボクの魔法を模倣するなんてね」
「………」
さて、この手の者は自分の力を使われたりすると激昂するタイプと見た。
何故なら見下している存在に全く同じ性質のモノをやられたんだからな。今に怒るぞ。
「やはり崇高なボクの力はよく使われるんだね。存在がこの世の全てに影響を与えてしまう。罪な存在だ」
「……!?」
予想のナナメ上に来たな。
自分が最も優れていると思い込んでいるからこそ、自分の力が使われるのは仕方無いと割り切っているようだ。
無駄に前向きなのがまた厄介。怒ってくれた方が動きが単調になってやりやすいんだけどな。まあ俺は動きに付いて行けないから怒っても平常でもあんま変わんないけどな。
「妾を無視するでない!」
「埃は無視するんじゃなくて、気付かないんだよ」
ルティアが飛び掛かり、横から伸びた闇に貫かれた。
ヴァンパイアだから死にはしないと思うが、あの闇魔法に付与された効果は如何なものか。既にアンデッドであるルティアにどんな影響を及ぼすのか。疑問は尽きない。
「ならばその埃に吹き飛ばされるお主はなんじゃ!」
「おっと」
そう考えていたが、問題無く再生して懐へ拳を。
咄嗟に闇でガードしたがヴァンパイアの怪力からなる一撃は凄まじく、ダクの体を吹き飛ばしていくつかの部屋を貫通させた。
「確かに埃が噛んでくる事はないか。血も吸うしダニやノミの類いだね」
「主様に謝罪し、罪を償う為に死せよ」
「おや、虫のお仲間か」
ルティアがどこへ吹き飛ばしたのか即座に判断したラナさんが死角へと回って蹴りを。
ルティアの拳とラナさんの蹴り。それを受けてもなおピンピンしており、更に飛ばされて大浴場に来ていた。
「お風呂場。いいね。ゴミにたくさん触れたしそろそろ体を洗うのもアリだ」
「そんな余裕があるかよ!」
「爆発魔法。また知り合いの力だ。それに帰ってこないボクの知り合い達……」
エクの爆発魔法にて追撃。風呂場ごと吹き飛ばして外に出る。
やはり魔王軍幹部仲間は知り合い扱いか。そう言う意味なら俺も同じだな。リヒト達とは知り合いだ。
「これはやられちゃったのかなぁ。色んな魔法を使う知り合いみたいに。みんなボクが大好きだったから寂しいなぁ~」
「心にもないことを……!」
「何を言っている。本心だよ」
ダクの場合、ホントに本心なんだろうな。寧ろ避けられていたのに自分の事が好きだったと考える。
いや、全生物がゴミ扱いで全生物に好かれてるって考えているからコイツは……。
「お前は毛布か」
「……え?」
思わずツッコミが口走った。
流石のダクも素っ頓狂な声を上げる。
布団とかマットって定期的に洗浄しないと叩いたらスゴい量の埃が出るからな。ハウスダストアレルギーがよく居るのも頷ける。
俺達がゴミってんならさながらコイツは埃まみれの毛布だな。
「ちゃんと叩いて綺麗にしなきゃな!」
「……羽」
“メテオウィング”にて無数の羽を飛ばす。
1つ1つの破壊力は隕石並み。山河どころか大陸も沈められる。流石にそのレベルの事はしないが、威力はお墨付きだ。
その羽々を魔力で防ぎ、返されるように闇が伸び来る。
俺も先程コピーした闇魔法で応戦し、闇と闇のぶつかり合いで夜が更に深い黒に包まれた。そこへ一筋の光が。
「やっぱ、闇を照らすのは光だよな」
「……!」
“光線”のスキルにてダクの肩を貫いた。
貫通の痛みと後から来る熱の不快感。俺はもう二度と受けたくないね。
肩を貫かれたダクは抑えながら膝を着く。
「やっとまともなダメージが入ったみたいだな」
「いや、まだ余裕はあるよ。けどボクを傷付けるなんて、さながら割れたガラス片かちょっと鋭利なアルミかな?」
「結局ゴミで例えるのかよ」
アルミという概念がある異世界だったのか。もしかしたら缶ジュースとかもあるのかもしれない。
何はともあれ、ダメージが入ったのは収穫だな。
しかし顔色を変えない。コイツからしたらゴミ扱いって訳なら、確かに捨てようとした破片とかで傷付いても短気な人以外は怒らないと思うが、肩を貫いたんだからそれ以前の問題な気もする。
要するにどこまでいっても無関心って訳だ。
「ゴミの処理は手間だな」
そう言い、再び無数の闇を展開。それからなる槍がいくつも伸び迫る。
この手の攻撃はよく見る。単純な思考の元、鋭く貫通力のある攻撃が一番手っ取り早いのだろう。
闇で迎撃するのもいいが、それでは永遠に決着が付かない。手数なら負けていないスキルがあるのでそれで仕掛けるとしよう。
「これで行こう」
「へえ……」
──“空想顕現(槍)”。
隠居生活を送っていたジイさんの攻撃。闇よりも更に多大な槍が迫り、無数同士の無数の衝突。
そこから更に嗾ける。合わせ技で行こう。
「押し切る!」
「ふうん?」
次いで行うは“無限鉄矢”。
誇張や「絶対無限もないじゃん!」って言われるようなハッタリではない。マジもんの無限からなる無限の矢。
手数では此方が圧倒的に有利。ダクは攻撃の手を止め、全身を闇で包んだ。
防御態勢を取ったな。俺達が押している証拠だ! ザマァミロ!
「……!」
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そう思った瞬間、全身を闇で包んだダクが直進。俺の体を貫き、半身が抉られて絶命した。
変幻自在の闇魔法。触れるだけで影響を及ぼすならこのくらいの芸当は可能か。
「あれ? 掃除機のつもりだったんだけど生きてる。キミも死なないゴミの影響を受けた口か」
「ハッ、誰の事言ってんだよ。少なくとも俺の知り合いにゴミは居ない筈だけどな。ノーコン過ぎて外したんだろマヌケ!」
「フム、丸めた紙をゴミ箱に投げた時、近距離でも中々入らなかったりするあれか」
相変わらず挑発には乗って来ない。そしてよくもまあ、こんなにゴミの例えがポンポン出てくるな。それについてはボキャブラリー豊富だ。
気付けば肩の傷が塞がっている。闇魔法は治療も出来るのか? いや、癒えてる訳じゃないな。よく見たら穴が空いてるかのように黒くなっている。
本当に穴が空いてるなら向こう側の景色が見える筈だが、それがないって事は闇で傷口を埋めている訳だ。
「掃除の仕方を変えるとしようか。数と一点突破が防がれるなら多方面からの波状攻撃だ」
「要するに両方の性質を合わせ持たせるって事だな……!」
全方位を闇が多い、正面から数。自身は闇で覆い、地面からも無数の闇が生えてくる。
相変わらず幹部クラスってのは規格外の範囲と破壊力を有する。だが、同等の力を俺は使える。
「“大噴火”!」
地面を爆裂させ、周りの闇を吹き飛ばした。黒煙が舞い上がり、辺りの視界が悪くなる。
この程度で全ての闇を払える訳ないが、やられる前にやる戦法なら事前に防げる。
「また知り合いの力だ」
「この力を以てすれば、まあなんとかなるだろ」
「ゴミはゴミでも、ちょびっと厄介なゴミみたいだ」
「結局はゴミかよ」
余裕の表情は変わらないが、少し影響は与えられたみたいだな。見方が変わった。
けど闇魔法相手が大変なのも変わらない。グラドさんもディテもルシもまだ合流する気配はないが、これだけ大きな騒ぎ。すぐにでもやって来るだろう。
スキル同士の掛け合いとか応用とか、俺の力って訳じゃないが発想でなんとか渡り合えている。
魔王軍幹部との戦闘。なんかいつもディテとルシ待ちだな。
所有スキル
・───
・光球・光剣・肉光変化・光線・光蹴
・遠吠え・お手
・魔弾・魔衝波・火球・肉体強化×7・溶岩球・大水球・暴風球・大岩石
・モーニングスター(武器)
・熱光線・熱爆発・火炎鞭・炎爆球
・飛翔・貫通・風圧・メテオウィング
・自爆発・爆破・大噴火・付与爆破・核分裂・超爆発
・火炎息・雷降・暴風波・洪水衝・突進・流星・槍尾・崩星光波
・直視の即死・肉体変化(槍)・認識発狂
・空想顕現(槍)・インフェルノ・反射・無限鉄矢・鋼鉄圧球・死付与・蘇生阻止・存在抹消・石化
・闇操作・闇突




