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異世界4-6 異常者と会話は成り立たない

「侵入者だー!」

「囲え囲えェ!」


 ルシが起こした騒ぎによって更なる雑兵が。

 向こうの方はこのまま任せておこう。そのまま囮と陽動役になるし、騒ぎの合間を縫って俺達はすんなり入り込めた。


「まず俺達は死者の方々と会いに行くよ。図書館から近辺の奉仕を命令されてるから近場に居るだろうしな。既に目立ってるし、逆にそこへは簡単に入り込めそうだ」


「では、私はダクを探しに行く。既に騒ぎには気付いているだろうからな」

「私は私で行動しておくわ~」


 入った所でグラドさん、ディテと分かれる。

 グラドさん1人を魔王軍幹部であるダクの元に行かせるのは危険かもしれないが、それについてはディテ辺りが気を利かせてくれるだろう。

 俺達は俺達でやれる事をやるだけだ。

 図書館の方へと駆け足で行く。


「居たぞ!」

「侵入者だ!」


「あ、やっぱりこっちにも来るのね」

「よーし、やるぞ~!」

「やりましょうか」


 その道中の渡り廊下。そこでも勿論部下達はやって来る。

 単純な戦闘能力で言えば俺は雑兵よりも弱いのでここはルティアとラナさんに任せよう。

 一応身体能力強化のスキルを使えば戦えると思うけど、ある程度武術をたしなんでいる人が居たら容易く避けられるだろうしな。


「ほいっと!」

「消えなさい」

「「「……ッ!」」」


 ……それに、俺の出番なんか必要無いレベルで圧倒している。

 ルティアは正面から来る者へと飛び掛かって頭を鷲掴み、そのまま振り回して周りの者達を巻き込みながら吹き飛ばす。さながらボーリングの様。

 ラナさんは徒手空拳で対処し、振り下ろされた剣をいなし、手刀にて意識を奪っていく。

 瞬く間に場は制圧され、図書館付近へと到達した。


「「「…………」」」

「……! 操られたまま俺達へ対応するよう命令されたか」


 そこに居たのは、武器や杖を構えた使用人さん達。

 当然のようにこちら側へと回される。けどまあ、ここにはルティアが居るし無力化させたら解放させてやろう。

 今の俺のスキルで動きを止められそうなモノは……これか。


「──!」

「「「…………!」」」


 “遠吠え”。

 どうやらこれは意識の有無関係無く、“必ず硬直させる”という効果を持つようだ。

 それによって使用人さん達の動きが止まり、迅速にラナさんがどこからか取り出したロープで拘束……って、本当にどこからか取り出したんだ?

 ともかく無力化は成功。後は順を追い、ルティアが鬼化させて自由を取り戻した。


「……! か、体が……痛くない……呼吸も……してもしなくてもいい……!?」

「わ、私の意識が……!」

「私の意思が……!」

「自由になった……!」


 ヴァンパイアとなる者。グールとなる者。そのいずれにしても体が自由になり、己の思いのままに動く肉体に歓喜する。

 俺の近くにはあの使用人さんが来た。


「あの……テンセイ様……! ありがとうございます! お陰で私達は自由の身になりました……!」


「お礼ならこのヴァンパイア、ルティアに言ってくれ。俺は約束以外の何もしてないさ」


「いえ、約束していただき、それを守ってくださった。それ以上は何も御座いません……!」


 使用人さんは頭を下げて涙ながらお礼を言う。

 俺の成果じゃないが、こう言われるのは嬉しいな。青白い肌が透き通る白い肌になり、目に若干の陰が差したが綺麗な瞳。

 口元の鋭い牙からするに彼女はヴァンパイアの方になったみたいだ。となるとダクは別段尊厳を破壊するような行為はしていないと。自分以外の全てを下に見るような存在。家畜などと同程度の扱いという事の表れでもあるか。

 全身で喜びを示す彼女に言ってやれる粋な言葉は思い付かないが、取り敢えず一言。


「良かったな。元に……ではないけど自由になれて」

「はい!」

「でもヴァンパイアやグールは日光に弱いから昼間はあまり自由じゃないんだけどな」

「それでも今までより遥かにマシです! 息を止め続けているような苦しみ。死した時に訪れる寒さと激痛が永遠に終わらず、意識があるのに意識通りに動かない体。1日の行動時間が半分になる程度、それに比べたら……!」


 心の底から嬉しそうに話す使用人さん。

 余程よほどの苦痛。何度も死んでいる俺だからこそ分かる。死ぬ程の痛みはマジでヤバい。

 俺は一瞬で済むだけマシだったんだなと改めて思う。


「そうか。本当に良かった。……それじゃ、非戦闘員のみんなは避難してくれ。これからここは戦場に……もうなってるし、ヴァンパイアやグールは不死身だけど消えてしまう可能性もあるから安全な所に行った方が良い」


「はい。皆様もお気をつけ──」


 ──次の瞬間、無数の黒い魔力が束になって天井を突き破り、使用人さん達がバラバラになった。


「……!?」


 この魔力……見た事はないが、可能性は1つ。1人しかいない。


「やれやれ。せっかくの屋敷がメチャクチャになっちゃったよ」


「……っ。ダク……!」


「おや、初対面だけどボクを知っているか。こりゃすごい。ボクもここまで有名になっちゃったんだね」


 当てずっぽうで名を呼んだが、どうやら合っていたみたいだ。

 まあ当然だ。この正確で速くて高い威力を誇る魔法的な何か。こんな芸当が出来るのは魔王軍の幹部くらいだからな。

 グラドさんの姿は見当たらない。すれ違いになったか。

 ダクは攻め込まれている現状に対し、疑問符を浮かべて話す。


「しかしおかしい。何で人間達(ゴミ共)に役割を与えたのに反乱されたのだろうか。死者操作は別に解かれても問題じゃないんだけど、ボクの役に立っていた事で至上の喜びを味わえた筈なんだが」


「お前……それ本気マジで言ってんのか? 苦痛も何もかもそのままで、奴隷みたいに動かされる。それが幸せって……!」


「マジも何も、それがこの世の真理だろう? ボクの為に尽くせるのが至上最高の喜びになる。存在価値が皆無な人類ゴミに役割を与える。何なら全生物(ゴミ山)がボクの役に立たなきゃならない存在の筈。なのに怒るなんてお門違いだ。生きる価値も意味も何もない癖に」


「…………」


 どうやらダクという存在は、本当にそう思っているようだ。煽りや挑発ではない。何の悪気もなく全生物を自分の下に見ている。

 リヒトやエク、エレのまともさが際立つな。何ならコイツ、魔王すら下に見てるんじゃないか?


「どうやら話しても無駄みたいだな……!」


「ああ、そうか。ボクはキミと会話してやってたね。感謝してくれ。不特定多数のゴミの言葉に耳を貸してやったんだから」


「貸す気なんて無かっただろ……!」


 淡々とつづるダク。

 俺の嫌いなタイプだな。上から目線で他者を見下し、自分だけが正しいと思い込む。言葉は通じても話は通じないとはこう言う奴の事だ。

 まだ人を人として見てる分、神様や大魔王。精神病質者サイコパス相手の方が話せるだろう。


「皆さんは早く避難を! 今外は夜なので逃げられます!」

「「「は、はい!」」」


「あれれ? 再生してる。ウケんね~。ああ、そこに居るのはヴァンパイア(死なないゴミ)か。ゴミを増やせるゴミだからゴミ仲間を増やして解放したんだね。お見事お見事パチパチパチ~。盛大な拍手がキミを包むよ~。まるでカビみたいな存在だ~」


「テンセイ、わらわアイツ嫌い……!」

「その気持ちはよ~~~く分かる」


 わざとらしく口で拍手音を奏で、ヘラヘラと軽薄に笑いながら言う。

 温厚なルティアも即刻嫌なヤツ認定したみたいだ。それに、ラナさんも主をコケにされて無言無表情だが青筋を浮かべていた。怖ぇ……。


「さて、思い通りに動くゴミはまた増やせるからいいとして、キミ達は浴場にこびりついたちょっとしつこい汚れ並みの存在だ。ボクが直々に相手してやろう。ゴミの癖にボクに相手されるなんてとんだ幸せ者だねコンチクショウ~!」


「ボキャブラリーはゴミしかないのか異常者。さっさと掛かってこいや……!」

わらわらがボコボコにしてやるぞバカ者!」

「貴方をご主人様侮辱罪で惨殺処刑します」


 黒い魔力が展開され、俺、ルティア、ラナさんも構える。

 基本的にケンカすらしたくない俺だが、正直かなり腹が立っている。思わず即死系の技を使ってしまいそうになるが、それじゃ気は晴れないだろう。

 初めて本気でぶん殴ってやりたいと思った存在だ。

 俺達は死者達を解放し、魔王軍の幹部であるダクと向き直った。

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