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異世界4-2 自分を善人と思い込んでいる異常者

「挨拶したいのなら、ダク様を呼んでみますか?」

「いえ、今は見回りの最中っぽいので、後ででいいですね。個人的に連絡取って、許可が降りたら会いに行きます。アナタには色々聞いたので迷惑ですし」

「そうですか? 分かりました」


 魔王軍幹部なのは確定。そうと決まればあまり目立つ訳にはいかない。

 少し衣服を深く着用し、それとなくローブを取り出して姿を紛らわせる。

 バレたらバレたでその時だが、なるべく控えておこう。

 そのまま行列は通り過ぎ、青年に会釈だけして目立たない所に集まった。


「さて、魔王軍幹部の街って事が分かった。それに加えて残りの幹部、ダクはリヒトやエク曰くヤバいらしいからな。どう出るか」


「どう出るも何も、幹部や部下くらい倒せば良かろう。増援は我……いや、この世界の魔王くらいしかいないからな。終わらせれば簡単だ」


「いや、そう言う訳にもいかないさ。裏があったとしてもこの街の人達に信頼されてるみたいだし、事を荒立てる訳にはいかないよ」


 魔王軍幹部と知られているかはともかく、信頼は得られている。

 悪名とかを響かせる訳にもいかないのでなるべく慎重に行動を起こそう。

 取り敢えず、生き返させられた人になんとかして話を聞いた後、悪事を明かす方向で進めて行こう。


 ……改めて考えるとそれも結構大変だな。もし解決したとしても、この街の人からしたら死後に会えた家族と二度目の別れが訪れる事になる。それはツラい。

 今回はただダクを倒せば良いだけじゃないのが難易度の高い要因になるな。


「生者じゃなく、死者の当事者にも話を聞こう。何も常に他の人と居る訳じゃないし、1人になった所で畳み掛けるか。……なんか闇討ちみたいな言い方になったけど、上手く話していきたい」


 街を歩み、ダクやその部下の監視に気を付けながら1人で居る死者を探す。

 大抵は家族と共に居るが、1人の人だけならチラホラ。後は周りの目だな。


「……」

「……!」


 少し行くと、1人ロッキングチェアに座って無表情ニコやかに道行く人を眺める者が居た。

 人通りはあるけど周りの人々は気にしていない。これはチャンスだな。

 そう考え、俺達は静かにその人へと近付く。

 周りの目が向いていないのを確認した後、話を聞いてみる。流石に大人数で訊ねるのは目立つので俺とディテだけで。


「おやおや、どうかしましたか?」

「はい。実は聞きたい事がありまして」


 その男性はまだ若く、片腕と片足が無かった。

 首元から覗く傷を見るに戦場か何かで死亡したのだろう。

 生き返っても腕とかの再生はされないみたいだな。人当たりは良さそうだが、おそらく内情では苦しんでいる。

 ディテ。テレパシーを繋げてくれ。


(分かったわ)


 ディテに言い、俺の脳内に男性の思考を流す。これで本心が言えずとも本心からの会話が可能となる筈だ。


「聞きたい事ですか? ええ、別に構いませんよ(誰だろう……。……ッああ、身体中の傷が痛む……息が出来なくて苦しい……なのに生き続けている……何故だ……何故なのだ……! 初対面でこう思うのもあれだが、私をこの世から消し去ってくれ……! お願いだ……! 殺してくれ……!)」


「……っ」


 悲痛な叫び。しかしそれは誰にも届かない。テレパシーでも持っているような者でなければ。

 だが、ディテを通した俺はその声が聞ける。あと少ししたら救ってやる。我慢してくれ……いや、我慢するしかないのか。


「……貴方……本当はもう楽になりたいんですね」

「何をおっしゃる。私は今のままで幸せですよ(……!? なんなんだこの人、初対面でこんな事を言うのか? 楽にはなりたいが、何か買わされるんじゃないか? それなら早く殺して欲しいが……)」


 うん、当然警戒された。

 言葉だけなら怪しい勧誘だもんな。当たり前だ。

 今の俺は思考が分かるのでこの方の思考と会話しよう。


「実は俺、テレパシー系のスキルが使えるんです。なのでここの街に来てから常に悲痛な声が聞こえており、気になって訊ねました」


「ほほう。テレパシーのスキルですか(テレパシー……!? もしそれが本当なら私を助けてくれるかもしれない……! 声が聞こえているなら何か確証になるものを示してくれ!)」


「分かりました。では脳内で何かしらの指示を。あまりの奇行では元凶にバレてしまう可能性があるので、ちょっとだけ複雑で簡単な事を示してください。例えば手の指で出来るような事を」


「…………(わ、分かった。じゃあ左の親指を立てた後で左の人差し指をまっすぐに。そのままの状態で指パッチンしてくれ!)」


 話さないようにしようと思えば、そうする事は出来るらしい。

 俺的にも混乱しなくなるからこの方がありがたいな。

 取り敢えず言われた通り左手で鉄砲みたいな形を作り、指を弾く。パチン! じゃなくてカスッ……って感じの音だったけど大丈夫だろうか。


「……(本当にした……! 音は出なかったが、まさか本当にテレパシーのスキルを……!)」


「はい。そうです」


 音はせずとも行動が出来たので信じてくれたみたいだ。

 ここからはサクサク事が進むな。

 俺は男性に視線を合わせ、聞きたい事を訊ねる。


「アナタをこんな目……というか、生き返らせたのは誰ですか?」

(近隣を治めているダクだ。善意からの蘇生ではなく、自分を正当化する為に生き返らせやがった……!)

「やっぱりか……」


 内心の声からして既に素性は明かされている様子。

 正当化する為にとはどういう事か。それについて聞いてみた。


(私が戦場で死にかけた時、アイツがやって来たんだ。すると不思議な魔力で仕掛け、私は完全に絶命した。筈だったのだが、何故か私は生き返った。しかし体の自由は利かず、常に激痛と苦しみが襲う。なのに立ち上がり、切断されたばかりの足で砂を踏みつけ更なる激痛が走った……。そこからは常時苦痛が絶え間無く続く……)


 不思議な魔力。それが肝だな。

 それによって生き返らせ、体の自由も奪った。ただ操るだけじゃなく言葉まで取られた。

 思考が奪われなかったのは不幸中の幸いだったかもしれないな。お陰で本当に楽になれる目処が立つ。


(そんな私を前にしてヤツは何を言ったと思う? それは──)


【──死にかけた雑魚をわざわざ生き返らせてやるなんて! ボクはなんて親切なのだろうか! 自分の善性が一周回って怖いね! 無能極まりなく、存在価値が微塵もない全人類(ゴミ屑)から性善説立証者の代表を選ぶなら、是非ともボクを推薦して貰いたい! と言うか僕しか居ないだろうね! なんてたって死んだゴミを生きたゴミに再生させる術を持ち合わせているんだから! 人間ゴミは同族の人間ゴミが死んだら無駄に悲しむけど、そのゴミが生き返ったら喜ぶ。ハハ、なんて優しさ。まさに全人類の代表だよボクは! 死んだままだからキミ達は常に苦痛が襲うけど、ゴミの分際でボクの役に立てる可能性が出てくるんだから感謝してくれよ!】


(まさに生きた外道……無い足で踏み込み、無い腕で殺してやりたいと考えたが……見ての通りだ)


「……っ」


 聞いた感じ、かなりヤバイ奴みたいだな。

 自分を正当化……どころか常に自分が正しいと思い込んでいるたちが最悪クラスの存在。

 そんなダクの事を少し苦手程度にとどめていたリヒトとエクは聖人もいいところだな。

 そりゃ仲間からも引かれる。


(頼む……! 私だけではなく、ダクに生かされている人々を救ってくれ……!)


「……ええ、言われなくてもそうします。倒すべき理由が無かったから迂闊には動けなかったけど、理由が出来たからもう動ける。アナタ達の無念は俺達が晴らします」


(ありがとう……)


 常に苦痛の襲う体。その上で自分だけじゃなく他の人達をも危惧するこの人こそ善人だ。

 おそらく死者達の考えは皆同じ。後は生者の意見だが、それはまた難しいかもな。

 今回みたいな感じでテレパシーの存在を信じさせられたとして、それでも家族とは共に居たいかもしれない。

 最悪、ディテに頼んで生者の脳内に直接テレパシーを伝えるような荒療治に出なきゃダクを倒して恨まれるのが俺達になる可能性も出てくる。


「ではこれで。信じてください。必ずアナタ方を救ってみせます……!」


(ええ……頼みました……)


 最後に男性へと約束し、俺とディテはこの場を離れる。

 今回の山はなるべく早く解決してやらなきゃな。常に苦しむ人々が不憫でならない。

 新たな覚悟を胸に俺達は行動に移すのだった。

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