異世界1-4 魔王軍襲来
「……! はっ!?」
白く染まった世界から目覚め、周りを見ると倒れたテーブルや椅子。少し壊れた床に割れたガラスなど、かなり大きく散乱していた。
さて、何があったのか。覚えている限りだと俺とは違う転生者が吹き飛ばされて白熱して……あれ? 世界滅亡しなかったか?
「はあ……大人気無かったわ……まさか散った力を探すよりも前に世界その物を消してしまうなんて」
「くっ……高がステータス如きで此処まで白熱するとは……我ながら情けない……」
この様子を見る限り、やっぱり世界はまた滅んだらしい。同時に修正し、今に至ると。
張り合いで滅亡していたら世界がいくつあっても足りないなこりゃ。
「返す言葉も無いわ」
「癪だが駄……ディテに同じ」
また俺のモノローグに返答する。けど反省はしているようだ。
俺がどうこう言えないけど、ちゃんと反省出来るのはいいと思う。うん。
「は、測り終わりましたか?」
「……ああ。それとすまない。熱くなって君達に迷惑を掛けてしまった」
「あ、いえ……ギルドで争う人は定期的に現れるので修繕の魔法やスキルに長けている人は大勢雇ってますので」
「そうか。誠に申し訳無い」
ギルド経営も苦労しているんだなとつくづく思った。
冒険者に絡むような輩はチラホラ居るらしく、それに備えて後始末をする人達を雇っていると。
あまり良くないノウハウが溜まってるな。御愁傷様です。
「では改めて貴女方のステータスを……って、もう出ています……ね?」
そちらを見、受付の声が止まる。
周りの人達も起き上がり、改めてディテとルシのステータスに視線を向けて止まった。
「これって……」
「マジか……」
「さっきのはなんだったんだ……?」
驚きではあるが、微妙に反応が違う。
そこにあった2人のステータスとは。
『名前:ディテ
職業:???
Lv:1
体力:70
魔力:90
物理攻撃:60
魔法攻撃:80
生命力:100
知力:999
素早さ:98
運:50
武器:0
装備:1
スキル:9
所持金:0 』
『名前:ルシ
職業:???
Lv:1
体力:65
魔力:90
物理攻撃:80
魔法攻撃:60
生命力:100
知力:999
素早さ:98
運:40
武器:0
装備:1
スキル:8
所持金:0 』
──超絶弱体化していた。
しかもオール9999とか9998みたいに統一されたものではなく、ちゃんとバラけてステータスらしい数値となっている。まあ両方とも知力と生命力は高いけど。
これってもしかして……。
(そうよ。世界の破壊と修正でまた大幅に力を失ったわ)
(ああ。面目無い。平均的冒険者のレベル1数値が20~40前後と考えたらそこそこだとは思うが、順を追ってレベルを上げなきゃならないな。人間で考えたら最大能力値は2000だからな。人間相手でも上級者に勝てるか分からない程度になってしまった)
やっぱりそうですか。
上限は999と思ってたが2000。そう考えたらレベル1の時点でこのステータスは破格だが、さっき見た俺なんかよりも遥かにバグってる高数値に比べたら見劣りしてしまうな。
「……とまあ、こんな感じだ。我らに合う職業を紹介出来るか?」
「そうですね……見た感じディテさんは魔法特化。ルシさんは物理特化ですので、そう言った職業が良さそうです。まあ、お2人とも両方の数値が十分高いですが」
一見片方特化に思えるが、普通にディテの物理攻撃もルシの魔法攻撃も高いと言える範疇。
どちらかと言えばというだけであり、大抵の職業は無難に塾せるだけの能力があるようだ。
「そうなりますと、ディテ様は“司教”や“司祭”。シンプルな“魔導師”。ルシ様は黒騎士や戦士に剣士など如何でしょう? それか、両方のステータスが高いので上級職の魔法騎士や魔法戦士。賢者にもなれますね。テンセイ様は……全てが不明の未知数なので……レンジャーとかソルジャー、武器があればまだ何とかなる可能性が存在するかもしれない剣士……とかですかね」
可能性が存在するかもしれないって、もはや希望的観測でしかないな……。
こう言うのってステータスが低くても最低限の職業には就けるものじゃないのか……。
外れスキルでも良いから何か欲しかった。そう言うのを持つ事が出来ただけ他の転生者達が羨ましいよ。
(まあそう気を落とすな。ある意味2人と居ない唯一の才能とも取れる)
(そうよそうよん。基本的に全知全能の私にも分からないなんて大したものよ!)
励ましてくれてありがとです。
「それで、どれにしますか?」
「そうね。手堅く“賢者”かしら。色々と応用が利くものねぇ」
「“魔法戦士”にしておく。近接戦は嫌いじゃないが、両方使えるに越した事はないからな。武器はあまり使わないのもあって我に“魔法騎士”はあまり似合わない」
「じゃあ“ソルジャー”で……世界線によりますけど、一般的に兵士って意味なんで武器や魔法を使える人も居るのでもしかしたらがありますから」
「かしこまりました。ディテ様は上級職の“賢者”。ルシ様も同じく上級職の“魔法戦士”。テンセイ様は“ソルジャー”で登録致します」
そう告げ、魔道具に何かを入力。
俺達のギルドカードを一度預かって書き込み、正式に登録された。
「それではパーティですが、アナタ達で組みますか?」
「ああ。最初に言った通りな。まあ、それは定型文。分かっていても聞かなきゃならないのは大変だな」
「ふふ、そうですね。人によっては最初に言っただろって怒られる事もあります」
「苦労するな」
「私の天職なので♪」
パーティを組むのは俺とディテとルシ。今のところ最弱である俺だが、2人がその責任を取って形になるまでは付き合ってくれると言うのは本当に助かる。
そんな俺達の元へ周りの冒険者達が集ってきていた。
「登録終わったのか? だったら俺達とパーティ組もうぜ、黒髪の女の子。俺達は基本的に近接職でやってるけど、魔法を使えるのが居なくてな。君が居てくれるとありがたいんだが」
「ディテ様。我々と手を組みましょう。貴女のような上級職が居てくれると我が主、神へ示す敬意となるのです」
「ねえ君ぃ……私達とパーティ組まない? オール0なんて珍しいしさ、秘密の関係結んじゃおうよ……♡」
登録が終わったのもあり、目を付けていたであろう人達が勧誘する。
パーティを組むって話はしていた筈だが、まあ普通に話していただけなんで遠巻きの人達には聞こえてないよな。注目されていたとは言え。
「わざわざ魔法“戦士”を選んだんだ。つまりアンタはそう言う事だろう!」
「ああ、俺達が示すは筋肉への道!」
「研ぎ澄まされた肉体美を示し、人々の希望になりましょう!」
「見たところ貴女も鍛えればスゴくなるわよ!」
ルシが誘われたのは筋肉の集合体。
男性から女性まで全員がムキムキであり、話す度にポーズを取っている。
筋肉フェチには堪らないパーティだ。
「我々には貴女様の力が必要です」
「神に祈りを捧げ、人々を導きましょう」
「それこそが我らの望み」
ディテが誘われたのは宗教団体と言った感じのパーティ。
まさか目の前の相手が自分達が祈っている神よりも遥かに地位の高い神様だとは夢にも思わないだろう。
「君、よく見たら可愛い顔してるじゃん♡」
「ねぇ、私達とパーティ組もうよぉ」
「きっと楽しい事が盛り沢山だよ♪」
そして転生者ブランドがある俺が誘われるのはキャバ嬢みたいな集団。
全員の露出が多く、既に俺の腕へ手を回して胸に当てている。なんと言う手の速さ。俺でなきゃ見逃しちゃうね。
ギルドカードは無事。こんなにスキンシップが激しいと逆に警戒されるだろ……。
いや、まあ下心しかない転生者ならまんまと引っ掛かりそうだけど。正直俺としても悪くないと──
「ほら、行くぞ。悪いが我らは我らでパーティを組む。レイドクエストとかの時は共に戦う事もあるかもしれないが、基本的にはこのメンバーで進めるつもりだ」
女性達に飲み込まれていた俺はルシに引っ張られ、脇に腕が挟まれる。
先程の女性達のような柔らかさはないが、これはこれで良い感じが(感触が乏しくて悪かったな)……あ、いえそう言う意味じゃないんですよ。すみません!
思考が読まれるのは大変だ……。
「ごめんなさいね。また機会があったら神様へ祈りましょー」
「残念です」
「すまないな。体を鍛える事に励み、日々精進してくれ」
「仕方ないな」
「すみません。そう言う事なので……」
「ちぇっ。簡単に落とせるって思ったのに」
惜しそうにする冒険者の方々を余所に俺達はギルドから外に出た。
「──……? あれ……あの方のステータス……こうでしたっけ?」
その時起こっていた事に俺は気付かなかった。
ギルドを離れた道中、俺は改めて考えていた。
流れでギルドから出て来てしまったが、最初はギルドからクエストを受けて金銭とかを集めた方が良いような気が……。
(違うな。それはまた後日の方が良い)
なんでだ? これじゃ今日の食事代も無いけど。
(言うなら、さっきこの世界が滅亡した事が原因だな。それによってこの世界の我の分身が我らの介入に気付いただろう)
……! それって……いやそれより、
「モノローグでじゃなくて普通に話そう。もう他の人達はいないしな。……介入に気付いたって事は大魔……ルシの存在を知ったって事だから別に悪くないんじゃないのか? 会うのは目的だろ?」
「逆だ。不都合しかない。本体の我がこんなに弱体化して弱っているんだ。我の意思を乗っ取り、成り代わろうとするのが魔王の在り方だからな」
「な、なるほど……」
どうやら分身の野心は高いらしく、隙さえあれば自分であろうと乗っ取られるとの事。
確かにそれじゃのんきにクエストを受けている場合じゃないな。せめてさっきの力があればいいけど、2人は張り合いで更に力を失ってしまった。
「それについては面目無い……」
「私もちょっとはしゃぎ過ぎたわ……」
「あ、いや、非難した訳じゃ……」
それについて大きく反省している様子の2人。
力を取り戻す為に力を使い、それが弱体化すれば本末転倒。この世界の現時点での魔王は2人より強いので流石に割り切れないのだろう。
「取り敢えず身を隠した方が良いわね。この世界のルシちゃんは通常のルシちゃんより探知能力は低い筈だもの」
「“ちゃん”を付けるな。そしてこの世界の我はルシではない。ルシは即席の偽名だからな。探知力が低いのは同意だが、気安く名を出すな」
偽名である名前すら呼ばれたくない様子。本当に神様を嫌っているな。
犬猿の仲なのは最初からだが、ますます険悪になってないか?
何にしても今居る街から離れればすぐに見つかってゲームオーバーにはならないと言うのでその街を後にした。
──次の瞬間、
「……え?」
遠目から見ても分かる1つの光球が天から降り、目映い光と共に衝撃波が散り──全てを消し飛ばした。
……なんだよ……これ。
「……見つかったみたいね。本人ではなく幹部程度の存在が派遣されたようだけど」
「我も痺れを切らすまでは刺客を送り続けていたからな。まあ痺れを切らして貴様の場所に上がったらこうなってしまったが」
「幹部……程度って……これでか……」
魔王に目を付けられていたのは知っての通り。
いや、だからと言って流石に派遣が早過ぎないか!? どんだけ正確な位置特定だよ!? 警察や消防でももう少し時間が掛かるぞ!?
ディテとルシは対して警戒していないようだが、街1つが容易く消し飛んだ目の前の光景を見ると警戒しない方が難しいぞ。
「今さっき世界が終わったのよ。街くらいで取り乱す事無いじゃない」
「ああ。我を始末するなら街ごと消した方が手っ取り早いからな。駄神に同意はしたくないが。まあ、その作戦は無駄に終わったがな」
「……!? いや、街くらいでって……大勢の人が巻き込まれたんですよ!? なんでそんなに冷静に……!」
そこまで言い、俺は改めて理解した。
この2人の感性は人間とは全く違うのだと。
不特定多数の人々。神様や大魔王からしたら空気も同然。そこにあっても存在を認識する事は無いもの。
人間は空気が無ければ生きていけないが、それも関係無い2人にとっては何の意識も持っていないんだ……。
「……っ」
「ちょっと。どこ行くのよ?」
「何をしているんだ。アイツは」
このまま放ってはおけない。偽善だとしても生き残りが居るかもしれないから。
どの道狙いは大魔王。だったら俺の存在は魔王軍の幹部にとっても眼中に無い事だろう。
今出たばかりなので距離は近い。生存者を見つけ次第安全な場所に送る事くらいは何の能力も無い俺にも出来る筈だ。
俺は急いで崩壊した街の方へと向かった。