異世界3-10 今後の懸念
──その後、俺は依頼人の少女の父親と合流した。
事情を聞いてみたところ、この古城の掃除と言う依頼内容だったらしく、掃除だけで報酬金も多く貰える物であり、嬉々として来たらアンデッドモンスターに襲われ、城中を逃げ回り、しばらく経ってもアンデッドが消えなかったからずっと息を潜めていたとの事。
「いやぁ~本当に驚いたよ。まさかアンデッドモンスターが君達の仲間だったなんて。ただの掃除依頼かと思ったらとんだ誤算だったね」
アッハッハと笑う。
なんだそりゃと思ったが、まあ掃除依頼ならC級未満なのはそうだな。
後半のアンデッドは既にルティアの眷属になった存在で助かったと。
あのじいさん、客人が来た時だけこの世に舞い戻るらしいけど、それまで放置しているから少し来ないだけでアンデッドの巣窟になるのだろう。
定期的に掃除依頼とか出して古城の形は保っているようだ。しっかりしてるよ。
「パパ!」
「おお、アンナ。待たせたな~」
「もう遅いよ~!」
依頼人の少女が父親に抱き付く。彼女の名前はアンナと言うらしい。それは初耳だな。
何はともあれ、親と子は無事再会出来た。
後は“時価”についての話し合いだ。
「んじゃ、俺から要求する報酬だけど……そうだな。あの古城、改めて掃除してくれ」
「……? それでいいの……?」
「ああ。ちゃんとした形に残る訳だからな。綺麗な見た目になる。他の人に聞かれたらちゃんと報酬は払ったと言えば誤魔化せるさ。依頼を受けたのは君のパパだけだし、証人は味方だ」
この辺りは依頼物の王道で行こう。
報酬はお金などを受け取らず、特に自分の利益にもならない事を頼む。ぶっちゃけ俺は何を貰うか思い付かなかったのが本音。
別にいいんだ。元々報酬なんな貰うつもりなかったし、あのじいさんが次に目覚める時はもうちょっと整った城になってて欲しいしな。あわよくば話し仲間くらいになれば退屈しないかも。
「頼みましたよ」
「ああ、任せてくれ! 元々そう言う依頼だったからな! アンデッド達が居て全然進んでないけど!」
「だったら妾の眷属を貸してやるぞー!」
『『『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!』』』
「おお、それは頼もしい! 見た目は怖いけど……とにかく頼んだよ!」
ルティアの眷属達が居れば広い古城の掃除もすぐに終わるだろう。しかもアンデッドには寿命という概念が無いし、この世界が滅びるまでは継続出来そうだ。
これにて俺達への依頼は無事終了を迎えた。
*****
──数日後。
それから俺達はあの街を発ち、違う街で相変わらず依頼を受けていた。既に2~3日は経ったかもな。
魔物討伐や薬草採取の簡易的な任務依頼だが、ランク詐欺もチラホラあり、C級依頼だったのがB級とかに繰り上げられたりし、結構大変だったりする。
とは言え、元よりレベル上げが目的。他のみんなにとっては効率良くレベルが上がって悪くない結果となっている。
俺も色んなスキルを手にしたから魔物相手なら結構余裕を持って勝てるようになった。
それは何よりだが、思うところもある。俺オリジナルのスキルとか無いからな。今はこれでなんとかなっているけど、魔王軍にどこまで通じるか。
そして魔王軍と対峙した時、エクへどう説明するか。ここまで順調でも必ず訪れる未来を思うと若干憂鬱になる。
「よーし! 報告へ行こうぞテンセイ!」
「私達なら簡単に倒せちゃうね!」
「……そうだな。いい感じだ。これで今日のクエストは概ね完了だな」
けどまあ、今はまだ何事も起こっていないからいいか。来年の事を言えば鬼が笑うとも言うしな。
来年よりかは近い日の事になるだろうけど、先の出来事なのは同じだ。俺達は今拠点にしている街へと戻り、そこの主要ギルドへ報告。報酬を受け取って主要ギルドを去り、こんな感じで場所を転々としている。
そのお陰もあって魔王軍に見つかる事なく進めていた。
そんな俺達は休憩と今後の相談を考えて近くのカフェ的な場所で一息吐く。
「そろそろ次の街にも向かうか。レベルも良い感じに上がってるしな」
「そうじゃの~。テンセイ達と一緒に行動したら強い魔物が沢山現れてグングン上がるぞ~!」
それはディテとルシの気配からなるものだろう。
レベルが上がるに連れて2人の存在感と言うか威圧感と言うか、オーラが大きくなっているように感じる。
本人達も目立たないように抑えているとは言え、次第に隠せなくなりつつある事だろう。
(まあ、そうだな。しかしそろそろこの世界の我に匹敵するぐらいにはなれる。順調な方だ)
(そうね。思ったよりも私達の成長ペースは早いわ。この調子なら大丈夫そうよ)
そうなのか。
曰く、2人は順調との事。この世界の魔王に勝てるくらいになれば問題は無いな。
そうなるとやはり、エクの存在が問題になりそうだ。俺達に懐いてくれているけど、この世界の魔王も好いている。
既にしてしまっているが、それでもまだ幼い彼女はなるべく巻き込みたくないのが心境だ。
まあ、今は話を先に進めるか。
「次の街まではどれくらいだ?」
「君の身体能力強化を踏まえれば3日程だな。次の街は他の所より少し遠い」
「身体能力強化込みで3日か。この世界のポピュラーな乗り物の馬でもかなり掛かる道のりだな……」
「フッ、行くしかあるまい」
「そうだけどさ」
些か距離はある。身体を強化したとして、疲労とか心労を考えると1週間近くは掛かりそうだ。
ルシの前提は常に身体を強化し続けての3日。現実的に置き換えるとそんなものだろう。
だが、文句は言っていられない。それなりの旅になるし、立ち去る前に色々と買い込んでおこう。
茶と茶菓子を含み、身も心も落ち着ける。紅茶とクッキーが主体のこの世界だが、他の転生者のお陰で緑茶とか和菓子などの種類も豊富。
紅茶もいいけど、何となくこの緑茶の渋い感じで体は休まるなぁ~。
「さて、行くか」
「「おー!」」
俺の言葉にルティアとエクが返事をする。
茶菓子を一気に頬張って立ち上がり、紅茶をがぶ飲みして準備万端と言った面持ち。
ディテとルシ。そしてラナさんも当然完了しており、俺達は数日は掛かるであろう道のりを進むのだった。
*****
『『『グェアアア!!』』』
「ゴブリンの群れ……!」
「みんな仲間にしたぞー!」
『『『グェアアア!!』』』
「早っ!?」
街を出てすぐのところ、ゴブリン達が現れて襲い来た……が、既にルティアが眷属にして制圧する。
ゴブリンは地味に体力があるし、経験値もあまりうまくないので手駒に出来るならそれは良さそうだ……って、俺の考えすっかり悪役風味だよ。
そんな感じで、道中クエストとは関係もない魔物などと相対しながら行く。
「なんか旅って感じだなぁ……。森を歩いているとそんな気がする。インドア派の俺は尚更」
「森はいいのぅ。日差しの量が少ないから妾もダメージをあまり受けんぞ」
「ラナさんに背負われながら言うセリフじゃないな」
自然豊かな森を歩き、
「うわぁ……高いな。落ちたら死ぬぞ……俺が」
「ヤッホー!」
「山びこって概念くらいはあるのか」
切り立った崖を越え、
「今日はこの辺りで野宿だな」
「そうね。夜の番はルシちゃんに任せましょう」
「オイ、貴様。貴様がやれば良いだろう。テンセイの指示ならともかく、貴様の指示は受けんぞ!」
「なんで俺の指示ならいいんだよ……」
「そう言う契約だからな」
「した覚えはないけど……」
「個人的にだ。元を言えば君を巻き込んでしまったからな」
「本当に義理堅いな」
今日の野宿地点を決める。
しかし、ルシは俺を利用するような立場とは言え随分と素直だ。原因の1つではあるけど、ここまで尽くす理由が果たしてあるのだろうか。
(それを含めて全てが気紛れさ。案ずるな。君は嫌いじゃないが、懸念に思われるような特別な好意を抱いている訳ではない。君が望むなら抱いてやってもいいがな)
それって忠実な部下とかそっち方面の意味っぽいな。
巻き込まれた側からすれば逆に不気味だ。ディテを屠ると言う最終的な目標は分かっているが、何を考えているかは一向に分からない。
……流れるままディテ、ルシと行動している俺も言えた口じゃないか。思えば俺には目標とかすらない。
(なら、神を消し去った暁には我と共に行かぬか? あらゆる世界を改めてな。元の世界に戻ると言う道もあるが、永遠の旅を永久に続けよう)
ルシの提案。
大魔王と共に異世界旅行か。それも悪くないかもしれないけど、ディテがやられたら乱れる秩序もありそうだし悩みどころだな。
(なら、私と共に人々を見守らない? 私にも分からないアナタの存在。それは興味深いわ)
ルシではないならディテの方。人々を見守り続ける。目まぐるしく変わるだろうから退屈はしないかもだが、感性が普通の人間である俺はそのうち飽きそうだな。
それに、今は白髪巨乳美女だけど本来の姿も見ているからな……。いや、厳密に言えば別にあれが本来の姿って訳でも無いんだろうけど。
ともかく、ルシとディテの提案。それは保留にしておこう。
(なんだ。つまらんな)
(それがアナタの考えなら仕方無いわね~)
無理強いはしない。本当に物分かりは良いよな、この2人。人間離れしているからこそ人間みたく粘らないのかもな。
何はともあれ今日は野宿。色々と準備をして仮拠点を整える。そのまま夜を越し、日を跨ぐのだった。




