異世界1-3 ステータスオープンで世界滅亡
「終わった……俺の異世界転生生活終わった……あと転生生活って生が2回続くから言いにくい……」
虚しく空中に表示されるステータス。
ガクリと膝を着いて倒れる俺の横にある、文字通り0から始まったそれを見、受付の女性や周りの人達は未だに開いた口が塞がらないと言った状態だった。
「そ、そんな……」
「あり得ねぇ……」
「コイツ、生き物なのか?」
「え……生物かどうかも疑われるんですか!?」
ステータスがオール0だっただけで生き物かも疑われる。いや、HPも生命力も知力も0だし確かに言われてみたらそうなんだが、面と向かって言われるとダメージが入る。
受付は頷いて返した。
「はい……この世に存在しうる生きとし生ける全ての生物にはステータスが存在します。それは植物も例外無く。例えアナタが転生者であれど、全てのステータスが0になるなんて死者以外に考えられません」
「マジですか。いや、確かに一度は死んでる身なんですけど」
「あ、はい。それは転生者なので分かりますけど、その上であり得ない事です。今までもステータス以上のスキルや能力を有していた方はおりましたが、アナタは前例がありません」
転生自体は今回の事に関係無い。何人も地球から来ている人達が居るからだ。
そうなると俺のステータスは……そこに神様が耳打ちした。
「多分これは巻き込まれた事の弊害ね。見えないだけでステータスはあると思うけど、詳細が分からなくなっているわ」
「あ、やっぱりそう言う感じですか……。映されている数値だけが0になってたり……全ステータスがカンストで0になってる……みたいな事ですよね」
「そうなるわね。ただ見えていないだけならいいけど、こんなに不明じゃ私にも分からないわ」
神様と大魔王のぶつかり合いによって転生させられた事によるステータスのバグ。
原因は分かったけど、ステータスが分からないのは割と困るな。特に生命力と体力が分からないとダメージの程も確かめられないし、常に命の危険が迫る。
周りの人達も依然としてざわついていた。
「オイオイ、ステータス0って」
「とんでもないザコ……って断定する事は出来ないな。不確定要素が多過ぎる」
「適切な言葉を当てるなら“未知数”……って表現かもな」
「言い得て妙だ。アンノウン。測定不能。謎。正体が分からないモノを侮る訳にはいかない」
「少し前には世間知らずの冒険者に絡んで返り討ちに遭った奴等も居たな。やれやれ言いながら倒されてた」
「0……0ね。今のうちに唾つけて置こうかしら? 日本からの転生者だし」
「顔は……まあまあまあまあね。モブって感じ。童貞っぽいから露出多めに迫れば落とせそう」
全部の能力がただ無いだけなら弱者確定だが、それがあり得ない事なので周りの人達には見定めていた。なんか見た目による偏見があった気がするが……否定はしない。
何にせよ、元より“転生者”なのが着目される要因らしく、“取り敢えず転生者だし、ある程度仲良くしておくか。良い事があるかもしれないし”。……と言う認識なのだろう。
これも前任者のお陰だな。仮に転生者が居ない系の異世界転生なら……今の例え話で出てきた筋肉質なヤラレ役に絡まれて大変な事になっていただろう。
「何にしても不明なままですね。ギルドで調べられる事には限りがあります。専門機関……に行ったところで前例が無い事は難しいですね。それでも一度調べてみる価値はあるかもしれませんが……まあムダに終わりますね」
「断言するんですか」
「断言します。アナタのステータスは強弱関係無く我らの及ばない範囲。どうしようもありませんね」
「そうですか」
結果、匙を投げられた。
神様と大魔王の衝突でこうなったなら仕方無い。多分人間や他の知的生命体が到達出来ない領域にあるのだろう。なんなら全知全能の神様ですらよく分かっていないのだから。
俺の方は何も解決していないが話は付いた。次いで受付の女性は神様と大魔王へ視線を向ける。
「それで、お連れの貴女方も冒険者登録を致しますか?」
「ああ、そうさせて貰う。このオール0とはパーティを組む予定なのでな」
「そうね。ま、テキトーにちゃっちゃとやっちゃって!」
「かしこまりした。では同じように名前と出身をご記入ください」
言われ、神様と大魔王は記入する……けど、名前とかあるのか? 流石に神や魔王って書いたら色々と問題がありそうだし。
そんな俺の思考を読み、2人は話した。
(案ずるな。この場で考えれば良い。我は魔王として色々と名を持っているからな)
(そうよん。偽名で良いのよ偽名で。あくまで本人確認の証明書だからねん!)
脳内に直接。
俺の思考が読めるんだ。向こうから話し掛けても何もおかしくない。
けど証明書って偽名じゃダメなんじゃ……いや、無から生まれて両親も何も居ないなら自分で名前付け放題とは思うけど。
そんな事を考えているうちに2人は書き終え、受付の女性はその紙をカードへと変換する。
「登録完了です。では先程と同様、職業などの参考にしますのでステータスをオープンしてください」
「うふ、じゃあ行くわよ」
「……まあいい」
何かを話し合ってカードを掲げ、2人は口を開いた。
「「ステータスオープン!」」
「……!」
なんと、先程メチャクチャバカにされたステータスオープンの口上。それを告げたのだ。
そちらを見ると目配せをしてくれる。そっか、俺にだけ恥を掻かせないように言ってくれたの──(全くだ。感謝しろよ)(そうね。羞恥心なんて感情は無いけど、威厳とかは結構気にする質なのよ?)あの、思考に入って来ないでください。
取り敢えず、うん。俺の為を思ってなのはそうみたいだから良かった。
けど、それを言ったせいで2人が俺みたいな扱いをされると言うのは心苦しい。
本人達には恥とかそう言った感情は無いようだが、単純に胸が痛む。
「……。…………。……?」
耳を塞ごうか考えていた最中、俺の時のような声は聞こえなかった。代わりにどよめきが響く。
一体どうしたのかと顔を上げると、周りの人達は皆見上げ、口を開けていた。
これって2人もバグみたいな感じでステータスに異常を来している感じか? 俺も見上げた直後、受付の女性や他の人達から声が聞こえる。
「そんな……まさか……これが貴女方のステータス……!」
「なんて存在……」
「魔王……或いは神か……!?」
当たらずも遠からず。
と言うかこの反応、もしかして……。俺もそちらの方を見やった。
『名前:ディテ
職業:???
Lv:9999
体力:9999
魔力:9999
物理攻撃:9999
魔法攻撃:9999
生命力:9999
知力:9999
素早さ:9999
運:9999
武器:0
装備:1
スキル:9999
所持金:0 』
『名前:ルシ
職業:???
Lv:9998
体力:9998
魔力:9998
物理攻撃:9998
魔法攻撃:9998
生命力:9998
知力:9998
素早さ:9998
運:9998
武器:0
装備:1
スキル:9998
所持金:0 』
──チートだこれ。
神様は全能力がカンスト。大魔王はカンストまで後一つと言ったところ。
と言うか職業“???”って……俺なんか“無職”だったのになんか待遇良くないか? それか無職もバグの一つだったのか? 無職はバグった時に生まれるのか?
武器と装備はしてないからこの数値も頷けるが、衣服は着ているので1になってるのか。これってステータスだけ見たら俺全裸も同然なんじゃ……。
そう言えば、今更だけど武器に物攻魔攻が付与されてて、装備に物防魔防が含まれてるんだな。
こう言う場合はゲーム的に考えるとHPとMPやVITとINTに、素での物理と魔法の防御力が含まれる感じだろう。カンスト気味の2人にとってはほとんど関係無いが。
そしてそんな2人の名前、割と簡単な奴にしたようだ。ディテとルシ。何かモチーフがある名前だろうか。
(私はアナタの世界で愛と美の女神を謳われるアフロディーテがモチーフよ)
(我は堕天使ルシファーだ。なんか境遇にシンパシーを感じた)
あ、そうですか。と言うかモノローグと普通に会話しないでください。
けど、堕天使ルシファーはイメージ的に強くてカッコいいクールな感じだから大魔王に似合うけど、本来の姿があれでアフロディーテって……。いや、今の姿は確かに美の女神って感じなんですけどね。
(何よ。失礼しちゃうわ! 神様と言うものは何よりも美しいのよ!)
(クールでカッコいい……ふっ、そう言われるのは悪くないな。……だが、)
「納得いかないな。何故我がこんなやつより1も下回っているんだ」
「え……?」
腑に落ちないのか、大魔王は口を開いてステータスへと視線を向けた。
とんでもないクレーマーだこれ。
あの冷静な大魔王がわさわざこう言うとは、ほんの少しでも劣ると言うのが許せないようだ。
なんか因縁もあるんだろうな。神の社に乗り込んで神様ごと全宇宙を滅ぼそうとしていたし、色々と事情があるのだろう。
取り敢えず他の人達がこんなステータスの人に言われたら困るだろうからフォローしておこう。
「いやいや、俺なんかオール0ですよ。カンスト一歩前なんて凄いじゃないですか」
「君に言われると弱いが、これはあくまで我の問題だ。もう一度測り直してくれ」
「か、構いませんけどステータスと言うものは魔物を倒したり経験を積む事で上がるのでやり直しても意味が無いと思いますよ」
「大丈夫だ、問題無い。力を解放すれば必然的に上がるだろう」
「……!? こ、これは……!」
「なんて気だ……!」
「これ程の魔力を溜めているなんて……!」
なんだよこれ! 周りの人達はなんか納得してるけど、俺にはよく分からないぞ!?
けど確かになんか魔力が渦巻いてシュインシュインという効果音が聞こえてきそうな状態になってる。それってつまり、力も何も込めていない平常時の時点でカンスト目前で、そこから更に上があるって事か!?
力の大半を失った上でこれって規格外にも程があるぞ!?
「ステータス……Reオープン」
力を込め直し、大魔王は再びステータスを開いた。
『名前:ルシ
職業:???
Lv:99998
体力:99998
魔力:99998
物理攻撃:99998
魔法攻撃:99998
生命力:99998
知力:99998
素早さ:99998
運:99998
武器:0
装備:10
スキル:99998
所持金:0 』
──全部10倍になったーっ!? 装備の防御力も10倍になるのかよ!? もはや微々たる差だけどどんな原理だ!?
と言うか今更だがレベルとステータスの数値が同じって変じゃないか? カンストを飛び越えたからこうなってるのか? 考えてみたらカンスト前から……待てよ。
そもそもカンストは999で、初めからカンストどころか全部突き抜けてた可能性も出てきたぞ……。
「フッ、これで良い。これでカミ……ディテを上回った」
あ、なんか満足したみたいで何より。
それと呼び方にも気を付けないとか。俺も神様と大魔王じゃなくて、ディテとルシと呼ばなきゃな。
その隣では神様……じゃなくてディテが笑っていた。
「フッ、甘いわね。ハチミツたっぷりのリンゴに砂糖……いえ、グラニュー糖をまぶしたくらい甘いわ」
なんだよその例え。グラニュー糖にする必要あったか?
「見なさい。ルシ。これが私の力よ」
「……!」
「あ、受付の方。再審査お願い」
「え? あ、はい」
グダグダだな……。
しかし再びステータス確認は行われ、ディテは口を開いた。
「ステータス……(ここで指パッチン)……オープン!」
それによってステータスが開かれる。
と言うかもう予想は付いているんだが。
『名前:ディテ
職業:???
Lv:99999
体力:99999
魔力:99999
物理攻撃:99999
魔法攻撃:99999
生命力:99999
知力:99999
素早さ:99999
運:99999
武器:0
装備:10
スキル:99999
所持金:0 』
うん、まあ10倍だろうな。
ヤバいステータスなのはそう。それにしても二番煎じと言うかなんと言うか。
だがそんな俺の思考を余所に2人は互いに胸が当たる程の距離で睨み合っていた。
「貴様……負けず嫌いだな。カンストしているんだからそれで良いだろ。二番煎じが」
「ボウヤの思った事をそのまま罵倒に使ってるんじゃないわよ。負けず嫌いと言うなら最初の時点で負けてたアナタはどうなのかしらん?」
バチバチと火花を散らし、互いに互いを押し合う。
こんなんじゃ他の人達からの印象が悪いんじゃと考え、俺は横目でそちらを見やった。
「いい……」
「ああ、いいな……」
「このまま喧嘩してて欲しい」
何言ってんだコイツら。
2人のぶつかり合い、重なり合う胸を見て良い笑顔を浮かべていた。
欲望に忠実か! いや、確かに俺も男として眺めていたくなるが……ってダメだダメだ。思考が読まれてるんだから煩悩にまみれたら色々ダメだ! そもそも神様の本性はあれだぞ!?
「オイ、女。測定を常に起動しておけ。コイツに目にもの見せてやる」
「へ? ひゃ、ひゃい!」
「あら~。本性出ているわよ。ルシちゃぁぁぁん。受付嬢ちゃんが怯えてるじゃない」
「ひ……」
「貴様にもな。ディテ」
なんか白熱してきたな。最初からか。なんなら1話からだ。
神様と大魔王に言われた哀れな受付嬢は測定器……的なものを点け、ディテとルシは互いに力を込めていた。
「貴様の方が我より劣る事を証明してやろう……!」
「負けず嫌いどころか、それじゃザコの台詞よぉん」
「な、なんと……10万……100万……1000万……まだまだ上がります……!」
なんだその戦闘力みたいな測り方は。
と言うかカンストが仮に999だとして、1000万とか測れるようになっているのかよ。その機能必要か?
「ダメです! 測定出来ません!」
「構わん。この魔力を何処へ放つ事もしない。互いの力は互いに分かっているからな……!」
「そうね。数値なんてただの飾りよ」
じゃあなんで測らせた!?
マジで不憫で可哀想な受付嬢だよ。真面目に仕事してたら神様と大魔王に絡まれるんだから。
ここはまだ彼女? 達を知ってる俺が何とかして止めなくちゃならない局面だ!
「ちょっと2人とも。これ以上白熱したら色々と大変ですって。受付の人も困ってますし、自分達の争いに無関係の人達を巻き込むのはダメですよ!」
「……。フム……確かに少し頭に血が上ってしまっていたかもしれない」
「柄にもなくムキになっていたかもね」
そう、この2人、自分達の事になると熱くなるだけで話せば分かる。
元々神様と大魔王という存在。人……どころか全ての存在の上に立つ方なので俺の言葉も聞いてくれる。ので、なんとか事無きを得た。
「やれやれだわ。この子の挑発に乗る方が問題だったわね。上の立場としてちゃんと面倒見てあげなくちゃ」
「なんだと? 貴様がいつ我の上に立った?」
「産まれた時からそうじゃない。アナタは立場で言えば妹よ。ルシ」
「貴様、その口閉じないと永遠に開かなくしてやるぞ……!」
「やってみなさーい」
……そう思っていたら、また雲行きが怪しくなってきた。
悪気無くルシの癪に障る事を言ったディテ。ルシはまた能力を上げ、ディテもそれに乗る。
どうすりゃいいんだ……。
そこへ、1人の男と3人の女が来店してくる。
「……やれやれ。一体何の騒ぎだ? 近所迷惑だな」
「全く。昼間からやかましいですわね」
「キリ様の言うとおりよ」
「周りの迷惑を考えなさい」
キリと言われた男は美女に腕を掴まれており、ザ・ハーレムと言った感じ。
なんて羨ましいんだ。と言うか見た感じ日本人……多分女性3人は髪や目の色から異世界人だけど、何度か話題に上がっていた転生者の1人か?
黒髪黒目。黒いロングコートに身を包んだ全身真っ黒スタイル。長身痩躯を黒革コートに包んだ男はそのまま言葉を続ける。
「フム、見たところステータスについて争っているようだな。能力の高い低いで争うとは愚かだな」
冷静に状況を確認している通りすがりの転生者。
少々トゲのある言い方だが、正論ではあるな。ステータスの優劣で神様と大魔王が喧嘩するのはかなり次元が低い。
「俺は多少だがスキルに自信がある。まあ、ちょっと地形を変えるだけの大した事無いスキルだけどな。だが、醜い争いをしているアンタらを止める事くらいは出来る」
「キャー♡ キリ様ぁ~」
「今晩抱いて~♡」
「あの2人もキリ様のテクで落としちゃえばいいのよ!」
多分善良なのだろう。言い方はともかく止めようとはしてくれている。取り巻きの女性達も盛り上がっているな……。なんか方向性が違う気がするけど。
まあハーレム築いたらやる事なんて決まってるもんな。非モテの俺には何も言えない。
多分善良な人は魔力を込めて2人へ話した。
「そんなに自分の力を試したいのなら、2人まとめて俺g……」
「「邪魔」」
「ぐはあ!?」
「「「キリ様ぁぁぁ!」」」
善良な方ァァァ!?
なんか透かしてて美女にチヤホヤされて少しイラッとしたけど、純粋な善意で止めようとしてくれたのに……!
ディテとルシは容赦なく吹き飛ばしてしまった。
「良いのよ。あれ、私が転生特典与えた人間だもの。その力で喧嘩を売る方が問題だわ」
喧嘩を売っては……うん。いたかもしれないから保留としよう。
けどそりゃそうだよな……あの人のスキルは地形を変える程の威力を秘めているらしいが、仮に星を破壊出来るようなスキルを持っていたとしても、相手はそれを与えた側の神様と大魔王。力の大半を失ったと言っても余裕でそれ以上の事は成し得る筈。
と言うかあの存在は火に油。2人の争いはより激化する。
「だったらこれで決めてやろう」
「いいわ。互いに恨みっこ無しよ」
既にあの人の存在は眼中どころか脳内から消え去っており、ディテとルシは再び力を込めた。
って、これ大丈夫か? なんかテーブルとか滅茶苦茶ガタガタ言ってるし、ベリベリと床も剥がれ始めた。
そして俺は悟った。
「「ステータス! オープン!」」
「……!」
瞬間的に凄まじい力の嵐が星全体を覆い尽くし、ギルド。及び世界を飲み込んだ。
最後に俺の視界に映ったものは、消滅する異世界の姿だった。