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異世界1-2 夢のステータスオープン

 異世界へと転生させられた俺は、その元凶である神様と大魔王と共に街へと向かっていた。

 理由は前の話の通り。

 その道中、


「……あの、神様。なんで性別変わってるんです?」

「何を言うの? 私達に性別って概念は無いって説明したばかりじゃなーい」

「いや、その胸の膨らみとかアゴヒゲが無くなってたりとか、肉付きとか……完全にさっきまでの姿とは違いますよね?」

「あら、これの事? 簡単よ。話を聞くなら人間で言う女の姿の方がやり易いからじゃない」

「そッスか」


 なんか神様がTSしてた。

 いや、本人曰く上位的存在に性別は無いらしいが、どこからどう見ても女性。

 その理由については今告げられた通り。確かにあの姿よりかは話しやすそうだが。

 神様は大きな胸を揺らし、別方向に視線を向ける。


「それであれがその街よ」

「へえ……」


 確かに俺的には精神衛生上この姿の方良いが、調子は狂いそうになる。

 まあ切り替えて行こう。転生前に全宇宙が滅んだんだ。大抵の事には驚かないさ。


「ま、ちゃっちゃと行っちゃいましょ。ステータスなんて最序盤に知るものよ普通は」

「何の普通ですか……」

「テンプレ的な」

「そッスね……」


 もう既にテンプレ的な異世界転生から外れてしまっている。神様だけあって観点が第三者視点だな。文字通り見ている次元が違うようだ。

 隣で大魔王が俺の手を引いた。


「そんな駄神に惑わされるな。見た目が君好みであっても中身はあれだぞ」

「んまっ、失礼しちゃう」

「俺が信頼するべきはどっちなんだ本当に……」


 今のところ俺に近しい観点を持っているのは大魔王の方。神は自分の世界にあるので正直俺は付いていけないが、果たして本当に大魔王を信じて良いのかも疑問に思う。

 彼女はどういう立場にあるのか。普通は大魔王が悪い筈だが……しかし、うーん。


「……信じてくれなくてもいい。実際の所、我が正しいと言う確証も無いからな。そう言う関係性で行こう」


「あ……」


 そうだ。定期的に忘れる。神様と大魔王は思考が読める。こんな風に考えていたら筒抜けだ。

 その上で信じず、あくまで互いに深くは干渉しない方向で考えていた。


「そうね。私達が巻き込んじゃったから、この世界で色々整うまでは付き添ってあげるわ」


「コイツと同じ意見なのは癪だが、責任があるからな。一先ずこの世界の主要ギルドにでも行って3人パーティを組むか」


「えーと……あざす」


 神様と大魔王が初期パーティって事になる。ヤバいな。マジでヤバいな。もうこの異世界クリア確定じゃん。

 力の大半を失っているとは言え、ボスと裏ボスが序盤で仲間になる。もう彼ら……彼女ら? だけでいいんじゃないかと思う程にはオーバースペックだ。


「あまり期待はしないでくれ。現時点だとこの世界を支配している我の分身の方が確実に強いからな」


「そうねぇん。私達が来ているのに気付いているかは分からないけど、今の私じゃこの子の分身相手にも苦労するわ」


 そしてまたもや思考は筒抜け。まあもう慣れた。あまり変な事は考えていない……と言うよりそこまで思考が回らないからな。

 けど、この2人でも今のままじゃ分身相手に苦労するらしい。


「……と言うか、なんで大魔王は世界に自分の分身を配置しているんだ? あの力を見る限り問題無さそうな気もするけど」


「……我にはもう敬語を使わぬか」

「え? あ、すみません」


「まあいい。神よりは信頼度が上がっている証拠だからな。……理由を言うなら残機みたいなものだ。我の本体に何かあった時、散りばめた分身に我の意思が宿る為に用意している。力の蓄えも含めてだ」


「何かあった時……宇宙を崩壊させるような力のぶつかり合いでも力を失っただけで済んだ大魔王がか」


「念には念を入れた方が良いだろう。まあ、基本的には如何なる魔法やスキルも効かない体質だがな」


「ますます不必要じゃないッスか」


 分身はスペア的なものらしく、念の為に用意したとの事。

 やっぱり規格外な存在だな。いや、むしろ全てに置いての与える側。言ってしまえば今まで生まれた全ての世界に力を授けたのはこの2人って事になるのか。

 うーん、理解が追い付かないな。頭が痛くなってきた。

 そんな俺を見兼ね、大魔王は言葉を続けた。


「さて、質問には答えた。早いところギルドに行って君の力や今の我らの能力を知るとしよう」


「そうね。現時点でもある程度は図れるけど、この世界ではどんな風に見られるのか気になるところよ」


 話に一区切りが付き、俺達は早速街に入った。

 と言うかこの2人も現時点の自分の能力を知りたがっているのは意外なところだ。

 力の大半を失ったって言うフワッとした感じだし、測る術も限られている訳だから方法があるなら確かめてみたいのは分かる。


「そう言う事。んじゃ、早く行くわよ~」

「貴様が仕切るな」

「まあ俺も気になるし行きます」


 思考を読まれるのは思うところもあるが、それはそれとして話が早くに済むのはありがたい。

 俺達は街を行き、主要ギルドを探す。多分大きな建物あれば全部ギルドで良いよな?


「流石それはテキトー過ぎよ。適切と言う意味の適当じゃなくて投げやりって意味のテキトーね」

「……ウス」


 流石ツッコミを入れられた。確かに大きな建物全部は言い過ぎたな。うん。


「けど、場所自体はよくある異世界だから大きな建物と言えばお城とかギルドくらいしかないわよん」


「あ、そッスか」

「下らぬやり取りをしていないでさっさと行くぞ。この世界も我の管轄かんかつだから場所は分かる。年間何万人が我の分身に挑んで返り討ちに遭っているからな」

「あ、どうりで」


 流石は大魔王。地理をよく把握している。理由はちょっとあれだけど。

 ギルドまでのレンガの街を歩み、周囲の景色を眺める。

 漫画や映像作品で見るような場所。なんなら画像検索でもして『中世ヨーロッパ 街並み』と入力すれば出てくるような物だ。そもそも“中世”要らないかもな。

 これは持論だが、かつてヨーロッパ全域を支配していたローマ帝国があったから全体的に中世=ヨーロッパのイメージが染み付いているのかもしれない。


 その街並みはと言うと、ヨーロッパの各国を合わせたような感じだな。オレンジ色の屋根とかヴェネチアのような川とかコロッセオとかスペインの闘牛っぽい闘技場にロンドンみたいな時計塔。

 街全体が壁に囲まれているのは魔物対策だろうけど、ドイツの某地域を彷彿とさせる。

 奥の方に見える上流階級が居そうな白い街並みはギリシャ……いや、フランスがモチーフか。

 イメージが肉付けされて一つの世界になるって神様は言っていたけど、こうして間近で見てみると富士山に桜が咲いて近くに忍者が隠れ、隣に東京タワーがあるなんちゃって日本のヨーロッパ版だな。

 初めて来た筈なのに妙な既視感を覚えるのは題材になった作品をよく見ているからだろう。


「長々と分析しているところ悪いが、ギルドに着いたぞ」

「え? あ、はい」

「さっさと入っちゃいましょうか」


 街並みを眺めて思考していたら辿り着き、俺達は大きな建物へと入る。

 そこには冒険者と思しき人達が大勢おり、全員が肉を食べたりクエストを眺めていたり本を読んでいたり各々(おのおの)の過ごし方をしていた。

 マジでアニメのワンシーンだな。いや、どちらかと言えば実写作品的な奴か? 実写と違って本当に全員が魔法とか使えるんだよな。

 改めて異世界に来たと実感する。半ば……と言うより全面的に事故だけど。


「さあ行くぞ青年」

「行くわよ。やり方は……多分知識は既にあるわよね?」

「はい。取り敢えず受付に話し掛けて、冒険者登録とかそんな感じですよね」

「正解。やるじゃない」


 登録方法はよくある設定。名前と出身を書き、そのまま冒険者に登録するやり方。

 現実の就職もこれくらい楽なら良いんだけどな。それで入社出来るのは余程のブラック企業だけだ。……いや、命のやり取りという意味なら冒険者も十分ブラックか。転生者が大抵チートだからどうとでも出来るだけで。

 何はともあれ、登録する為に俺達は受付の方へと向かった。


「アイツら……」

「おお……」

「なんだあの美女……」

「わっ、綺麗な人……」

「あの男の連れか?」


 なんか視線を集めている。確かに大魔王と、今は女の体になっている神様は最上位に入るレベルの美女。男性のみならず、女性からも視線を向けられるのは分かる。

 あまり目立ちたくないな。なんか目を付けられそうで怖い。

 俺は影に徹し、そそくさと受付の方へ話し掛けた。


「あの、すみません。冒険者登録をしたいんですが……」

「はい。冒険者登録の方ですね。名前にご出身。学校等に通っていたならその学校。魔法歴などをお願いします」

「はい。名前は“伊勢別天星”……と。出身は……」


 そう言えば、出身とかどうすれば良いのだろうか。

 地球? 日本? それとも俺の住んでた都道府県か。けどそんなの通じるのか?


「そう言う時はテキトーに“異世界”って書いておけば良いのよ。この世界には多くの転生者が居るんだから。あと、書いた文字は自動的にこの世界の言語に変換されるから気にしなくて良いわよ」


「あ、なるほど」


 そんなんで良いのか。

 冒険者は常に不足しているのか、そんなガバガバ審査でよく通るな。いや、こう言うのって大抵最初のクエストでふるいに掛けられるとかのやり取りがあるな。

 それで消えても自己責任。そう言う意味合いでの登録手続きなのだろう。

 俺は自分の名と出身地を書いた。


「イセベツ=テンセイ様。出身地は……“異世界”。……成る程。転生者の方ですか」


「「「………!」」」

「……?」


 なんか周りの視線がまた集まった気がする。

 神様が言うに転生者ってそんなに珍しくない筈だが、それでも異世界から来た事実は変わらないのでやっぱり目立ったりするのだろうか。

 その視線は一先ずスルーし、受付嬢は1枚のカードを受け渡した。


「では、これが冒険者登録カードになります。職業、レベル、ステータス、スキルなど色々書かれており、所持金銭も最近は数値化してカードに自動的に刻まれるので無くさないでくださいね」


「へえ、電子マネーみたいだな。異世界も近代化してるのか、俺達の世界がそう言うのが当たり前になったからその影響が反映されたのか」


 職業やレベルにステータスとスキル。それらはよくあるような物だが、金銭も登録されるとの事。多分俺達の世界で言うカードみたいにタッチすれば自動的に支払いとかも行われるのだろう。

 確かに金貨とかは憧れるけど、重そうだもんな。手軽になって良い。


「無くした際には魔力経由による位置探知を行いますので即座に報告してください。絶対に行けない場所や、悪用されてしまい既に手遅れの場合は削除しますので悪しからず。金銭は無くなりますが、ステータスやレベルはそのままですよ」


「うーっす」


 便利な物だな。無くして悪用されたら困る。だから自動的に削除。ただ無くすだけなら魔力を伝って探知出来るらしい。

 この感じだと他にも色々融通が利くと考えて良さそうだ。

 受付の女性は言葉を続ける。


「では手始めにアナタを知る為、私にステータス等を確認して見せてください。それに合わせた職業などを紹介します」


「……!」


 そして、遂にこの時が来た。最近ではネタになったりしているが、実際に確認するとワクワクするこの瞬間。

 俺はカードを突き上げ、口を開いた。


「ステータス……オープン!」


 言えた。遂にこの台詞を言う時が来た。

 何だかんだ言って色々と期待はしているからな。自分の能力が数値化されるのは男の憧れだ、きっと。

 周りの反応はと言うと、


「うわぁ……ステータスオープンとか……」

「転生者……どうせ地球って世界の日本って国から来たお上りだろ」

「今時は口に出さずささっと操作するのがトレンドなのにな」

「はい、転生者ステータスオープン確認。俺の勝ちだ」

「くっ、最近は転生者でも言う奴が減ったと言うのに……!」

「ガハハ! これで今晩飯奢ってやるよ!」

「それ俺の金~!」


 ト、トレンド!? ステータスオープンにトレンドとかあるのか!?

 と言うかなんか賭けられてるし……。しかも地球も日本も知ってるのか。惑星じゃなくて世界認識だけど。

 うわ、なんか恥ずかしくなってきた。穴があったら入りたい……。いやけど他にもそう言う事をした人が居るから認識されているのであって、犠牲者は俺だけじゃない。結論、恥ずかしくない!


「なに1人で盛り上がっちゃってんのよ」

「全くだ。我らが恥ずかしいぞ」

「うっ……すみません」


 神様と大魔王から注意された。思考を読まれるというのはこれまた恥ずかしい。

 しかしながら、ステータスオープンなんて言っちゃう人は評判が低いのかと思いきや、他の声も聞こえてきた。


「けど、地球の日本からやって来た転生者なら有望株なんじゃないか?」

「まあ、確かに。最初からチート級のスキルを持っていたり、外れスキルや外れ職業、ザコ種族でも魔王に匹敵する力を有している」

「大型ギルドを所持していたり、国を持っている奴もチラホラだ」

「スローライフをしながらS級相当の魔物を蹴散らすような奴も居るらしい」

「中には不当な扱いを受け、そのパーティへの報復を果たした奴も居ると聞く」

「見た感じアイツらも新人……」

「そうなるとかなり当たりなんじゃないか?」


 どうやら俺のような日本からなる転生者は“当たり”判定を受けているらしい。

 理由は以上の通り。先駆者が頑張ってくれたお陰だな。まだパーティ登録はしていないけどマジもんの神様や大魔王が居るので大当たりどころじゃないが。

 しかし懸念の声も聞こえる。


「だが、噂じゃ美男美女しかパーティに入れないとも聞くぜ?」

「確かに……ハーレム婚をした有名冒険者の名前はよく聞く。見ればアイツが連れている2人もレベルの高い美人だ」

「黒髪の慎ましきクールビューティーに白髪はくはつのおっとり巨乳美人か……」

「なんと言うバランスの良さ……!」

「羨ましいぜ……!」

「しかも聞いた話じゃ、女ですら女を多くパーティに入れるらしい」

「マジかよ。同性愛者が多いのか。いや、その辺は個性で多様性だから否定しないが」

「なんならそこからの転生者は“HENTAI”……と呼ばれる奴が多いらしいぜ」

「変体? 虫が成虫になるあの?」

「いや、意味合いは少し違うようだが……」


 同時に色んな偏見も生まれていた。

 “HENTAI”な国民性は否定しない。八百万、森羅万象を美男美女にしたり、浮世絵や昔話の時点で異種とのあれこれがあると言うのはお墨付きだからな。むしろ誇りだ。

 取り敢えずなんか恥ずかしい。さっさとステータスを見て立ち去るとしよう。

 俺の開いたステータスを見、受付の女性は目を見開いて驚愕していた。

 お、これってやっぱそう言う──



名前(NAME):イセベツ=テンセイ

 職業:無職


 Lv:0


 体力(HP):0

 魔力(MP):0


 物理攻撃(STR):0

 魔法攻撃(RES):0

 生命力(VIT):0

 知力(INT):0

 素早さ(AGI):0

 (LUK):0


 武器(ATK/MAT):0

 装備(DEF/MDF):0


 スキル:0

 所持金:0        』



 ──なんだこれェェェ!?


 全部が0!? いや、スキルとか所持金とかは分かるけど、ステータス全部が0ってこんな事あるか!?

 HPと生命力(VIT)0って俺もう死んでんじゃん!? 確かに一度死んだけど、この世界ではまだ死んでないぞ!?

 知力0って俺はサボテン以下か!? と言うか俺の意志疎通は誰がどうやっておこなってんだよ!? おかしいだろ!?

 素早さ0って俺は常に止まってるのか!? この星の自転に合わせて進んでいるのか!? 吹き飛ばされるわ!!

 結局魔力も無いし! どうなってんだよこのステータス!?

 職業と運は……まあ、うん。現状から察せるな。


 俺のステータス。それはある意味とんでもなく凄まじい物になっていた。


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