異世界1-19 器の大小
「“元素球”!」
「暴れ回っているわね」
エレが元素からなる集合体の球を創り、それを撃ち出した。
縦横無尽に進み、軌跡を描きながら飛び交う。ディテは見切って躱しているが、手元を離れても操られるそれは後を追い続け地面をドンドン削っていく。
「逃げ回るだけか! 先程したように弾いてみよ!」
「ふぅん?」
瞬間、またディテとの入れ替わりで俺が球体の前へ移される。
やっぱりこれが狙いか。正直スゴく痛くてあまり死にたくはないが、やむを得ない。俺自身がもうちょっとマシになる為。心して受け入れなければ……。
「その動きは読んでいる!」
「あら」
「……! ディテ!」
場所の入れ替えスキル。しかし2度は通じぬらしく、俺の方へ向かっていた球体は逸れ、地面の中から別の球体が現れてディテの体を飲み込んだ。
直撃……! これじゃあ流石のディテもダメか?
「失礼ね。まだ平気よ。片手は怪我しちゃったけど」
「触れるだけで対象を消し去るエネルギーを受けても片手の負傷だけで済んだか。耐久力もあるようだな」
あのディテが怪我をする程の破壊力と言うべきか、山を崩壊させるエネルギーを受けても怪我で済んだディテがスゴいのか。
そのどちらにしても俺が入り込む余地はない。やれる事と言えば倒れている人達を安全な場所に運ぶくらいだ。
ディテの防壁があるとは言え、体力が残り僅かな人達。放置しておくのは危険極まりない。あと単純にこの場所にいるのが結構怖い。
俺は離れ、魔力で身体能力を強化して人々の安全を確保する。
「あら、優しい子ね」
「フン、怖じ気付いただけだろう。死しても生き返り、コピーするスキルだが、この戦いに付いて行けないと自己満足で弱者を救済したつもりになっているだけだろう」
「本当にそう思うかしら?」
「……? 何を言う。自分は死なないんだ。例え巻き込まれたとしても、自分だけ生き延びたとしても助けようとした大義名分が生まれ、人々には称賛されるだろう」
「フフ、あの子。自分のスキルに気付くよりも前に魔王軍幹部の居る場所へ踏み込んだのよ。リヒトちゃんだったかしら? 彼が街を消し去った時にね」
「……!」
「神に魅入られた人間は早死にし、俗に言う異世界へと転生する。復讐する者。魔王軍へ寝返る者。その何れにしても転生者の悪い噂自体は少ないでしょう。私の見る目があるって事よ。……力が分からない。無いと思っていたのに人々を助けようとしたあの子は特にね」
「何を言っているか分からないが、要するに自己満足の領域は越えていない。命を省みぬ行為も下らぬ自己犠牲の精神だ。そうする事でしか役に立たぬからこそ命を擲とうとする。何処まで行ってもそれ以上でも以下でもない!」
「そう。アナタはよく理解しているのね。自分を犠牲にするような人を」
「……! 黙れ!」
遠方で大きな爆発が見えた。さっきよりも遥かに凄まじいエネルギー。
ディテなら大丈夫だと思うが、早く他の冒険者達を安全な場所に移動させなきゃ巻き込まれる。
エレの身体能力強化のスキルを用いて転がっている人達を拾う。運べるのは1回につき3~4人くらい。3つのギルドがあるとして……1つ辺り100~300人。合計500人以上……うん、俺1人じゃ運びきれないや。
だが、取り敢えずやるしかない!
俺はせっせと運び、数分くらいでようやく10人程運び終えた。……1/50未満……まだまだだな。
「……っ。テンセイか……」
「僕達は返り討ちに遭ったようだね」
「守護者として情けない……」
「ギルドマスターさん方!」
すると、他の人達は目覚めないが、ギルドマスターの3人は起きた。
これはありがたい。剣聖と魔導師と守護者。守りや回復のスキルを使える3人が起きてくれれば避難もしやすい。
俺は事情を説明し、3人は納得してくれた。
「成る程。確かに力は通じなかった……悔しいが仕方ない。メンバーを避難させるのが先決だ」
「ああ。怪我人が死んでしまう前に回復をしよう」
「避難までの防御は任せて」
実力差を目の当たりにしたのもあり、物分かりはいい。
これで人員も増やせるのでみんなの避難は出来そうだ。後はディテがどこまでやれるか。
「起きたか。貴様ら。改めて聞きたいが、魔王軍に降るなら快く引き入れよう。違うなら今度はトドメを刺す」
「……!」
そこへやって来た傷だらけのエレ。まさかディテがやられたのか!?
「そんな訳無いじゃない!」
「チッ、すぐに戻ってくる……!」
いや、そうでもなかったみたいだ。
どうやら引き離し、改めて俺達のスカウトに名乗り出た感じか。
しかし即座に蹴り飛ばされ、まだ声が聞こえる位置で停止したのでギルドマスター達が返答する。
「何度言われても俺達は魔王軍なんぞに堕ちぬ! 逆にお前のお陰で魔王軍を消さねば世界に平和が訪れない事が分かった! 目的は魔王軍討伐だ!」
「減らず口を……!」
「それはアナタもよ」
「……っ」
懐へと入り、ディテがエレの体を吹き飛ばす。
飛ばされながら空中で体勢を立て直したエレはエレメントからなる魔力を放出して牽制。空中で爆発を引き起こしその中を進んだディテが両手を組んで打ち込み、地面へと叩き落とした。
「あの女性と言いテンセイと言い、今年の新人は豊作だな」
「僕のギルドに入った人だね。あれ程とは驚いた」
「私のところの女の子も結構やるわよ。今は姿が見えないけど、どこに行っちゃったのかしら。助けを呼んできてくれているなら良いけど」
「あちらはディテでもう1人はルシって言います。多分そろそろルシも来ますよ」
俺を入れるのはなんか違う気もするが、ディテとルシは評価が高いらしい。なので一応教えた。
面接は受けているが基本的に大人数。番号指定も多かったから1人1人の名前を覚えるのも大変だろうしな。
3人は俺の方を見て話す。
「そうか。君達は3人でパーティを組んでいたという事か」
「ええ、まあ」
「君達ならギルドに入らずとも3人パーティだけでやれそうだけどね。なぜわざわざギルドに?」
「成り行きです」
「ふうん。そうなんだ。仲直りなら早くした方が良いよ?」
「喧嘩とかはしてませんよ……2人を除いて」
同じパーティの実力者が別々のギルドに。それについては疑問に思うようだが、何を隠そうそれぞれが試験に落ちてるからな。実力は良しとして、面接の態度が余程だったのだろう。気ままな2人なので想像には難しくない。
それを踏まえた上での疑問として、喧嘩しているという事になった。当たらずとも遠からず。少なくともディテとルシはずっと不仲だな。うん。
「一先ず足止めは出来ているので避難へ」
「ああ」「うん」「ええ」
会話を区切り、それぞれ手分けしえ負傷者達を集める。
特に魔導師や守護者は広範囲を運ぶ事が出来るので上々。剣聖は血の匂いに釣られて出てきた魔物を倒している。
それぞれの役割分担をし、俺達は倒れているギルドメンバーを避難させた。
*****
「小賢しい真似を。先に奴等を殺しておけば良かったか」
「ムリよ。ムリムリ。アナタじゃテンセイちゃんには勝てないもの」
「殺せないだけだ。手足を切り落とし、自由を奪えば実質的な勝利となる」
「だから、それがムリだって言ってるの」
「なにっ? ……!」
何かを言い合う2人の会話中を狙い、エレの体に光球を当てた。
なんか不意打ちみたいになったけど、良かったんだよな? 卑怯者って呼ばれたら否定出来ない現状だぞこれ。
「ノコノコと戻ってきたか……! たった今貴様への過大評価を聞いていたところだ」
「過大評価? 俺の?」
どうやら会話の内容は評価についてとの事。
何の事かは分からないが、過大評価って言葉からしてディテが盛って話したのだろう。実力以上の評価が付くのは有利に運ぶ事も多いけど、現状で無力な自分を知ってるからあまり言わないで欲しいな……。
「私では貴様に勝てないとの事だ。そんな訳無いと言うのにな」
「……確かに。……ディテ! 俺を持ち上げるのはやめてくれ! 後々に響きそうで怖い! と言うか現在進行形で希望を持たせて応えられないっていう恥辱を受けてる!」
エレが俺に勝てない。何をどう見たらそうなるんだ……。俺は村人S。魔王軍の幹部に勝てる訳無いだろ……。
ディテは優しく笑った。
「安心なさい。私の評価は正当よ。もっと分かりやすく言うなら、絶対に勝てないのは器の大きさね」
「殺す!」
「ほら小さい。お胸は大きいのに器が小さくちゃ大切なモノを何も包めないわ」
「“魔力球”!」
魔力の塊が射出され、地表を抉って直進。
挑発し過ぎだって……そもそも俺もそんなに器が大きい訳じゃないし……。器の大きい人って善人悪人老若男女美醜問わず接するような人だろ?
いや俺も老若男女とか見た目はあまり気にしないけど、悪人とかはそんな許せるタイプじゃない。そもそも俺が善人って訳でもないし。
(アナタは自分を過小評価し過ぎよぅ。自分を省みずに人を助けようとするなんて立派じゃない!)
とは言っても、俺は死なないから自由に動けるだけで死ぬかもしれない。生き返られないってなったら足が竦むよ。
(あら、アナタも気付いていないのね。大丈夫よ。アナタはアナタが思うより良い人間だから)
なんか励まされた。
神様に褒められて悪い気はしないが、そんな上等なものでもない。
取り敢えず今はサポートしつつディテの勝利に貢献するか。
「任せたわよ」
「誰に言っている!」
「そりゃもうテンセイちゃんよ」
「遠すぎだろ!」
魔力が飛び交い、ディテも飛び回る。
エレ自身も空中浮遊と共に後を追い、俺は彼女の魔力で足を強化して追い掛ける。
あの2人に付いて行くなんて一苦労だ。避難させた方角から離れていっているのはディテの意思なんだろうけど……あー、大変だ。
「あまり頭に乗るなよ!」
「乗ってないわ。離れて飛んでるじゃない」
「訓読みでは話してない!」
挑発しながら先を行く。
エレは後を追いながら山岳地帯へ入り、
「遮蔽物が邪魔だ!」
──魔力の塊で山岳地帯を崩壊させた。
……っ。本当に山を容易く壊せるって訳だ。しかも1つの山じゃなく地帯全域を。これが魔王軍幹部の実力……。
「もう逃げ場はない! 追い付いたぞ!」
「そうね。後は任せるわ」
「……!」
俺が下方からエレを狙い、向こうは魔力にて相殺。
ディテの方を見やり、フッと笑った。
「任せると言うのは、あいつにか?」
「うーん、それもあるけど……」
「回りくどい! この大陸ごと消えて無くなれ! “元素超球波”!」
この大陸ごと!?
オイオイオイオイ、マジですか!? 流石にメチャクチャ過ぎるだろ!? バトル漫画とかでもさ、せめて後半の戦いに出るようなキャラが……いや、エレは後半に出るような存在だったわ!
その圧倒的なエネルギーを前にディテは言葉を続ける。
「もう1人、本命が居るのよ。……アナタ達にとってのね♪」
「……!」
瞬間、空中から漆黒の筋のような物が1つ落ち、大陸をも崩壊させると言うエネルギー波ごとその体を打ち抜いた。
そうか、魔王軍にとっての本命……!
「あ、アナタは……魔王様……!」
「いいや、我は別次元の我。本体だ」
「……嗚呼……成る程……アナタが魔王様の……本命の……」
ルシ。
彼女は蹴り下ろしたそのまま突き抜け、着地と同時に山岳地帯を沈めて更なるクレーター。いや、渓谷を形成させた。凄まじい破壊力だ。
ディテと言いルシと言い、キックが好きなんだな。エレへのファーストコンタクトはどっちもキックだった。
エネルギーは消え去り、エレは半身が消失。ここには俺達以外誰もいないが、誰が見ても結果は明白。魔王軍幹部との戦闘には神様と大魔王率いる俺達が勝利した。




