異世界1-1 どうしてこうなった
「……それでお2人様。一体何がどうなって俺は巻き込まれたんです?」
おそらく異世界へ来た俺は、犯人である2人に訊ねた。
大凡の検討は付くが、事実確認は重要だ。
それについては神様が説明してくれる。
「単純な事よ。絶対無限と絶対無限のぶつかり合い。いえ、更にエスカレートしてたから如何なる絶対無限を用いても到達しない破壊範囲と回数の衝突ね。それによって多元を含めた全宇宙、この世にある全ての世界線。次元とか概念とか、過去未来……取り敢えずこの世の全て。それらが今告げた回数分の破壊と再生を繰り返してこうなったの」
「単純の割には全然分からないんですが……」
「んもう、察しが悪いわねぇ。要するに全部の世界が何度も壊れては直り壊れては直りを繰り返して凄く沢山。なんやかんやあってこうなったのよ」
「一番重要な部分を伏せるなよ!?」
取り敢えず色んな宇宙や世界が破壊と再生を繰り返したという事は分かった。
なんやかんやは何があったのか知りたいが、多分一人類の俺じゃ知り得ない事なんだろうな。
「悪いな。青年。最後に神が限りなく0に近いうちの1つ分上回ってしまった。あの時点ならまだ君の蘇生も出来たんだが……」
「あ、いえ。お構い無く……」
何だこの大魔王!? メッチャ良い人! 人? メッチャ良い方!
普通逆じゃないか!? 神が楽観的で大魔王が人間想いってどういう事だよ!?
もうこの時点で神より大魔王の方が好きだ。
「……っ。そ、そう褒めないでくれ。慣れていないんだ」
「んま、ジェラシー湧いちゃうわねぇ」
「え!? いや、言葉には出してないんだけど……」
「さっき声帯も体も無いアナタと会話してたのよ? テレパシー的な能力くらい常備しているわ!」
「我もだ。だからその、心の中で思っても聞こえてしまう……」
「あっらー♪ 意識しちゃって。可愛い所あるじゃな~い」
「黙れ!」
大魔王は立場的に褒められ慣れておらず、俺の思考は筒抜けか。変な事は考えられないなこれは。
けど、妙にしおらしさも感じられる大魔王だな。体付きもスラッとしていて魔王ってイメージとはまた違う雰囲気がある。
何となく魔王って無骨で筋肉質なイメージがあるよな。もちろん魔法にも長けてるとして。
「ほら、この子ったらアナタの事分かってないわよ。ちゃっちゃとそんなローブ外しちゃいなさいな」
「……!? な、何をする駄神が……!」
「……え?」
バサッとローブが外れ、それによって靡く艶やかな黒髪。
赤く大きな瞳も改めて明らかになり、俺は言葉を失った。
「もしかして……兄妹って……そう言うことスか!?」
「そうよーん。まあ元々性別なんて飾りで、私もなろうと思えば体も女の子になれるんだけどぉ。無から産まれた時、お互いの体は人間で言うところの男女のものだったのよ」
「だが見た目以外に役割はない。神は己だけで宇宙を創ったからな。他の宇宙に散りばめた私の分身体も所詮は分身であり、男女としての行為が出来るのかすら不明だ。試そうと思った事もない」
色々と言いたい事はあるが、一先ず良かった。神が妹を自称しているんじゃなく、俺みたいな人類から見た観点で言えば大魔王の方が妹で。
と言うかこの黒髪赤目美人。凄く好みのタイプだ。……ちょっと胸は控えめだけど、それがまた良い。
「……。聞こえているぞ。人間の価値観なので別に気にはしないが、私の容姿に色々と思っているらしいな」
「え? あ、いやそれは……!」
そうだ。心の声は聞かれてるんだ。包み隠さず全てを知られてしまう。煩悩なんか出したら問題だぞこれは。
隣では神が茶々を入れる。
「んもう、気になっちゃってぇ! その慎ましいお胸はその子が大魔王だからよ。全てを包み込む包容力のある神様の私が女の子の体になればもっと大きくなるし、大魔王が男の子の体になれば筋肉質でムキムキのガッチリとしたモノになるわ!」
曰く、神や大魔王と言った役割から肉体は変わるらしい。
理由は分からないけど、そう言うものなのだろう。疑問は俺みたいな人間の及ぶ場所じゃないって事だ。
それを横で聞いていた大魔王は不満気な表情をしていた。
「下らん。そんな事より、今はこの世界で失った力を探さねば」
「ツレないわねぇ。けどそうね。全宇宙に私達の欠片が散っちゃったし、それを探さない事には始まらないわ」
失った力を探す?
確かにさっき多くの力を失ったとは言っていたけど、探すって言うのはそれを見つけ出すって事か?
「疑問に思っているようね。答えるならそうよ。私達の力は概念だけれど、全ての世界線に置いて私達なら唯一触れられるの。と言うか、私達の力が意思を持っちゃうのよ」
「力が意思を!? いや、改めて分からない事だらけだ。意思を持つって事は独立するって事か!? 力が!?」
「そうなるな。元より各宇宙に配置した我の分身体も我の力の1つだ。おそらくこの世界線でも魔王として君臨している事だろう」
「んなメチャクチャな……いや始めから……なんなら出会った時から置いてけぼりだったな」
俺の足りない脳で理解出来る事は、とんでもない事に巻き込まれてしまったという事だけ。
しかも、考えたら特典を得ていない俺には何の力も無い。よくある世界設定ならここは剣と魔法の世界。と言うか魔王が居る事は確定している訳で、現時点で村人B……いや、村人Sが妥当な線。SはSでも“SUPER”とか“SPECIAL”とか“SUPREME”のSじゃなく、“SMALL”のS。そんな村人S未満の俺に何が出来る!?
「あっらーん。神様と大魔王連れて何が村人SMALLよ。“神使”のSで良いじゃなぁい」
「貴様、しれっと我を省くな。と言うか貴様は使われる身でいいのか!?」
「いやぁねぇ。何の特典も与えずに来ちゃったからこの子に悪いって思っちゃって。しかも転生なのに肉体年齢死亡時点と同じだしぃ、これじゃ転移じゃない?」
「それってそこまで重要か?」
「一度死んでるのに転移っておかしくなあい?」
「……む、確かにそれはそうだな」
いや何か納得してるけど、巻き込まれた側からしたら堪ったもんじゃないぞこれ!
けどやっぱ色々あったしよくある転生特典は貰えなかったんだな。
「……あれ? けど神様なら今からでも何か与える事出来るんじゃないですか?」
「出来るは出来るけど、力の大半を失った私が与えられる力なんて極僅かよ? 身体能力強化なら学校でそれなりに足の早い人にしか出来ないし、魔法や魔術ならライターを使った方が早い炎魔法とか、蛇口を捻った方が早い水魔法とか、団扇を使った方が早い風魔法とか、砂を掛けた方が強い土魔法しか与えられないわ」
「そ、そうですか。けど、ここがテンプレ世界なら炎や水を微量でも使えるのは良さそうな……」
「うーん、そう考えるのも分かるけど、代償も色々よ。蛇口捻って寿命が5年縮むのは嫌でしょ?」
「……なるほど。そう言う理由ですか……」
今現在与えられる力と言うものは高が知れており、代償がヤバいらしい。確かにその程度でそれ程までの対価は払いたくないな。
しかし、と大魔王が補足を加えるように話す。
「まあ、君の肉体自体はこの世界に適応するように構築された筈だ。頑張れば魔法とかも多分使えるぞ?」
「マジか! それは嬉しいかも!」
曰く、転生の際に肉体は作り変えられたのでこの世界で鍛えれば魔法とかも使えるようになるとの事。
確かに普通その世界の環境に合わせるよな。全く変じゃない。俺の体には今魔力が宿っているって訳だ!
「けどねぇ。赤ちゃんからの転生なら成長の過程で魔力が増えたりするけどぉ、半ば無理矢理な形で転生しちゃったアナタだとこの世界の小学生並の子にすら劣るかもしれないのよぉ」
「え゛……? マジで?」
「……残念ながらマジだ。その駄神の言う事は正しい。人は……というより生物は基本的に積み重ねて成長するものだからな。君の世界的に言うと……生まれてから一度も学校に行った事が無く、勉強もした事の無い人が学校のテストを受けたら小学生よりも点が取れない。……感じだ」
「な、なるほど……確かに魔法は映画とか漫画とかラノベとかで知ってるけど、世界によって法則も違うからな……少なくとも今俺が居る世界じゃちゃんと使い方を習わなきゃ出来ないのか」
それまた当然の事。何も習っていないなら覚えられる筈が無い。そう考えるともしや俺が今まで読んできた漫画やラノベのキャラ達は全員が凄まじい天才なのでは?
何はともあれ、俺自身がそのレベルで魔法を使うのはかなり大変。肩を落とす俺に神様は提案した。
「一先ず街に行ってステータス診断でもしましょうか? もしかしたら転生方法でバグってとんでもないステータスになっているかもしれないわよ?」
「ステータス……そんなゲーム的に見える世界ではあるのか」
「まあね~。世界って言うのは基本的に妄想の詰め合わせよ。アナタの生まれた国と年代だと、中世ヨーロッパ風の魔法世界に行きたがる子が多いわね。その時代の流行りのゲームが“最後の幻想”とか“竜探究”とか“衣嚢魔獣”とか、そう言った物が多かったから自動的にそう言う世界が生まれたのよ」
「なんだそのゲーム……」
「色々と事情があるのよん。だから分かりにくくしておいたわ」
「事情……? わざと漢字っぽく話しているから英語にしてみると……最後はラスト……ファイナル……? 竜はドラゴン……衣嚢……ポケットの事か? じゃあそれらを繋げて読むと……」
「それ以上はいけないわ。さっさと街に行きましょう」
「あ、はい」
何やら開けてはいけないパンドラの箱だったようだ。
なので俺はそれを読み取り口を噤む。
取り敢えずのところ、俺自身の能力も気になるしワンチャンバグで何かしらのチート能力を得ているかもしれない。そうであって欲しい。
まだこの世界の何も分からない俺は、神様と大魔王と共に街の方へと向かって行く事にした。