異世界8-3 作戦報告
「──さて、突如として現れた侵略者達だが……」
エイリアン達の撤退後、基地にて人々を集め、魔王軍以外にも敵が居るという事を皆へ報告した。
第三勢力の存在。既に魔王軍のみで手一杯と言うのに厄介この上極まりない相手。
しかも国民性……星民性? が最悪なので戦闘を避ける手立ても無し。よくもまあ、そんな戦闘民族が高度な文明を築けたよ。
そんなこんなで会議が行われているが、俺達は別に参加しない。何故なら役割が変わらないから。
この世界に何週間かは居るけど、レジスタンスのみんなと連携を取れる程鍛えられている訳でもない。なんなら俺は少し前まで普通の一般人だったからな。軍隊と即興の連携を取ったところで高が知れるだろう。
何よりルシやディテは単独行動させた方が大きな成果が得られる。俺は実力も連携も何も持ち合わせていないが、借り物のスキルが沢山あるので必然的に露払いを任されるって事だ。連携については前述通りだからな。合わせる事は不可能と言っても良い。
なので会議中は少し暇している。その間にエイリアン達が再び襲来する恐れもあるし、気は抜けないけどな。
「やれやれ。会議なんぞ下らぬ。さっさと攻め入り、円盤を全て沈めれば良いではないか」
「それが出来るのはルシとディテくらいだよ。そして少なくともディテはそんな野蛮な真似をしないだろ」
「あら、分かってるじゃない♪ 私は人々を護るのが主な務め。そりゃ必要なら相手を消滅させるけど、基本的には攻撃したくないもの」
「だから貴様はダメなのだ。駄神よ。思えば先程も前線には出ていなかったな」
「基本的に神様はそう言うものよ」
「そうほざきながら悪魔より多くの生き物を殺めているではないか」
「あれはあれ。これはこれ。基本的には不可侵よ」
そしてまたルシとディテの言い争い。
ある意味これも平和の形だな。言い争いだけで世界は滅びない。
一番最初の頃なんてインフレ作品でもそうそうやらない多元破壊をやってのけたからな。それから一気に弱体化して少しずつ取り戻しつつある形。
今更だけど、本当に俺はどうなるんだろうか。死ねない体で自動的にスキルも身に付くけど、永遠にこのままなのはなんかあれだぞ。まだ一年も経っていないから平然と出来るけど。
「やれやれ。だから言ってるではないか。その時は我が君の面倒を見るとな。君らしさは残しつつ、永遠の中でも気が狂わぬようにするのは我が力を取り戻したなら可能だ」
「ルシなら本当に出来そうだけど……俺にはそれしか道はないのか。普通に生きると言う道は……」
「まあ、それも無くはないが、何れにせよ我と共に行くのは変わらぬぞ? 終着点は同じだ」
「……? どういう事だ?」
曰く、俺が日常に戻れる可能性もあるとの事だが、その上でルシと共に行動するのに違いはないと言う。
訳が分からないが、実際に方法はあるのだろう。今までもそんな感じだった。なので気にする必要はないかもな。
「君が考えているように、まだ話す必要も無い。一先ずはそうするつもりと考えておけ」
「そうかよ。相変わらず俺の拒否権は無いみたいだ」
ま、実際今はまだ関係無い。気にする必要も話す必要も何もないのはそうだな。
そんなこんなで話しているうちに会議の方にも一段落付き、俺には食料が手渡された……って、え?
「あの、これは……」
「戦争と言うのは自分が思うよりもエネルギーを消費しているものだからな。合間合間でその補給はした方が良い」
「成る程。確かにそれもそうだ。それじゃ貰っとくよ」
俗に言う戦闘糧食だろう。レーションとかミリメシの方が馴染みあるかもな。
銃をバンバン撃って動き回って肉体も精神も磨り減らす戦い。喉を通りにくくても食べておくに越した事はないな。
まあ俺の場合はさっき死んだばかりだから体力もほぼ万全なんだけど。記憶は引き継ぐから精神面の問題はちょっとあるかもな。
取り敢えず開け、スティックバーのような栄養のみを詰め込んだこれを食する。
味はそんなに無い。栄養食だしな。淡白な感じだ。
因みにこの世界では明確な料理ではなく甘い、辛い、しょっぱいetc.等々。食事は味覚で選ぶ事が可能。効率的な世界だけと、三大欲求の食欲に対しては冒涜とも取れるかもな。
ソムリエの人なら味の微調整で俺の世界の食べ物の味わいを再現出来るかもしれないけど、生憎俺はそんな技術を持ち合わせてない。
一先ず含み、渡した人は言葉を続ける。
「作戦は決まった。お前達には負担となるが、一番可能性はあるものだ」
「作戦ですか」
一応作戦会議の報告はされる。
俺達の負担が大きいのは今更。気にする事でもない。
目の前の人は作戦の説明を行った。
「内容は至ってシンプルなものだが、前述したように負担はある。率直に申すなら敵の母艦に乗り込み、内部から破壊するというものだ」
「母艦? そんなものを見つけたんだ」
「ああ。魔王軍対策で監視の目は常に光らせているからな。盗聴盗撮用の道具は既に仕込んでいる。これがその映像だ」
ちゃっかりしている。
既にスパイカメラ的な物を敵船に潜り込ませ、その様子を撮影したとの事。
それについての映像が空中に映し出された。
「なんかThe・SFって感じな映像だ」
映っていた物は、先程地上に降り立った無数の円盤が更に大きな巨艦に入っていく様。
軽く百倍以上の大きさ。あの円盤一つ一つが一都市並みの大きさで巨大だったと言うのに、まさしく国その物を乗せた船だ。
「この様に、場所の特定はまだだが、母艦の姿は確認された。加え、映像の端を見てくれ」
「……これって……」
指し示された場所に目を凝らし、俺は若干眉を顰める。
眼前の母艦の大きさに気を取られてそこまで回らないが、じっくりと観察すれば分かる程度の代物。
彼は頷いて言葉を続けた。
「母艦の数は一つじゃない。複数の存在からなる集合体だ」
「たよな……」
端にあったのは、複数の円盤。
距離はあるが見立てで分かる、中心に映っている母艦と同じ大きさの物。
送り込まれた円盤が街で母艦が国なら、確かに複数あっても何ら不思議じゃない。
あの中にも無数の円盤が収められているとしたら、その数は何千万とかにもなり兼ねない。
小学生でも分かる単純計算で、エイリアンの数は数百万×数千万だ。虫並みの多さになる。
「つまり俺達の負担って言うのは……」
「ああ。母艦に侵入し、内部から攻め立てる事への負担だ」
作戦が内部から破壊して終わらせると言うもので、俺達の負担はその作戦全て。
要するに、超絶厄介な事になる。
何億~何兆人は居るであろうエイリアンを討伐する。全てを殺さずとも一時的ではない永続的な撤退をしてくれれば良し。
ルシとディテが居るからなんとかなりそうではあるけど、それでもあの数を相手にするのは難儀だろう。
「フッ、構わぬ。容易い所業だ」
「ま、ルシはそう言うよな。ディテは?」
「私はパス。おそらく母艦を攻めている間にも降りて来るでしょうからね。人々を守る事に専念するわ。それに、私じゃ星なんて壊せないもの」
星が壊せないってのは間違いなく嘘だな。単純に人々を守ろうとしているみたいだ。
けどま、確かにディテはレジスタンスのみんなの前で派手な動きはしていない。あくまで守護特化に見せているのだろう。
それも重要な役割。助かってるのはその通りだ。それに、ディテとルシはあんまし一緒に行動していない。その事を含めた在り方のようだ。
「分かった。ではルシ殿と……テンセイ殿が行くのか?」
「まあ、はい。俺は行きます」
断れる雰囲気でもないし、乗り込む事には同意。ルシ一人でもなんとかなると思うけど、みんなの信頼を得ておくのは今後有利に働く。
魔王軍を相手にするんだから仲間の信用はいくらあっても損じゃないからな。単純にみんなは仲良くしていて欲しい。
「決まりだ。行動は一時間後、それまでに敵が攻めて来なかったら開始する。その間に攻めてきたらその時点でスタートだ」
「分かった」
「ああ」
「了解よ」
作戦の決行は一時間後。エイリアンが第二陣を仕掛けてきたらその時点。
作戦の概要が伝わり、俺達は行動を開始するのだった。