選択
唐突で申し訳ないが、私はとある物を作ることを生業としてる。
腕は正直、そんなに無いと思ってる。
まだまだ、未熟者だと。
でもこの生業は好きだし、
一生続けていきたいと思ってた。
特に欲も何もない。
そんなある日のことだった。
凄い立派な服を着た人たちが、私の処に来た。
服だけじゃなく、容姿もかっこよかった。イケメンに弱い私はクラっときた。それくらいかっこよかった。
「貴方の作品を、世に出したいのですが」
彼らはそう切り出した。
私はびっくりした。だって私の作品なんて、まだまだ。さっきも言ったけどまだまだなのに。
私なんかより上手い人が沢山いるのに。
顏がかーっと熱くなる。
胸がどきどきする。
こんなこと、あっていいんだろうか。私、騙されてない?
相手が出した名刺は、有名なところだし、念のために電話させて下さいって言ったら、いいですよって。
間違いなかった。
信じられない。
だから私は理由を聞いてみた。どうしてですかって。
私の創ったものの、一体どこが良かったんですかと。
すると相手は言った。可能性がある。伸びしろがあるってね。
これは流行ると確信したとも言った。
確かに、他の人からも、今風デスネって言われたことはある。特に意識はしてなかったけど。
「貴方が活躍できるように全面的にバックアップします。是非ご検討を」
ここまで言われて、断る理由なんかない。相手の身分も確かだ。
私は上ずった声で、はい、と言いかけ、ふと疑問に感じた。
さっきも言ったけど、私より上手い人はいくらでもいるのに。どうして私なの?
変だ。
そこで私は冷静になった。
そう言えば、私の知りあいもこうして、いきなり引き抜かれていた。そんなに熟練でもなかったのに。
名前を売ることに興味も無かったから、そう、ヨカッタネくらいしか考えてなかった。
相手は、そんな私の心もまったく気づいていないのか、次々と書類を出してきた。ここにサインしてくださいって。
ちょっと待って。サインする前に読ませて下さいと口に出して言いかけて止め、考える時間を下さいと言い、書類の中身をひそかに目で追った。
読ませてと言わなかったのは、なんか、言ったらダメな気がしたからだ。
書類にはこう書かれていた。
こちらが提示する作品を創ること。
それに逆らったら解雇すること。
人気が続かなくなったら解雇すること。
私はこの三つの条件を何度も何度も、心の中で反復し、そして冷静に考えた。
結局、私は断った。
理由?
それは、彼らの意図が分かったから。
ベテランに声をかけない理由も。
なぜって、ちゃんとした過程を得て上達した人には、彼らの様な人たちは不要だからだ。
口に出しては言わなかったけど。
わざわざ来ていただいて申し訳ありませんと言うと、相手はいいですよと笑顔で言ってくれた。
私は、コッソリ後を付けた。彼らの。
車に乗り込んでる。
バタン、とドアが閉まる。すると彼らの顔がぐにゃりと歪んだ。それは遠目からもはっきり見えた。
イケメンだったその人は、一つ目の化け物に変わっていた。
もうここまで来たら大丈夫って
きっと安心しちゃったんだろうね。