校庭
「へー。それで、決闘することになったんだ。」
「そうなんだよ。タケルがイツキにビシーってさ。あん時のタケル、マジでカッコよかったんだぜ、ハカセも見にくればよかったのにさぁ。」
鉄棒に寄りかかりながら質問するハカセに、ぼくじゃなくて、トモヤが答えている。鉄棒の周りをピョンピョン飛び跳ねながら、あまりも大きな声で、そしてあまりもはしゃぐものだから、ぼくはヒヤヒヤして周りを見渡した。周りにイツキがいないことを確認して、ちょっとホッとする。でも、そんなホッとした自分に少しムカっともする。そんな変な気持ちを誰にも知られたくなくて、誰にも気付かれないようにそっと深呼吸をしてみた。
うっすらカレーの匂いがする。今は2時間目の後の短い運動休憩時間。3時間目の国語と4時間目の理科が終われば大好きなカレーだ。だけれど、食欲があまりない。食べれないわけじゃないけど、なんかあまり美味しくなさそう。いつもの学校だし、いつものクラスだし、いつもの給食なのに。おなかがフワフワする。チクチクでもムカムカでもない。なんだかフワフワする。でも、イツキはいつもと変わらずバクバク食べていた。一昨日の肉じゃがも、昨日のまぐろのたつたあげも、そして絶対今日のカレーライスもおかわりする。悔しい、でもそれよりなにより、なんだかションボリする。ぼくはまた、そっと深呼吸をした。
「じゃあ、タケルくんはきたえてるんだ。」
「えっ?」
ボーッとしていたぼくの頭にスッとハカセの言葉が入ってきて、びっくりして顔を上げる。ハカセもびっくりしたのか、メガネの中の小さな目が少し大きくなった。
「だって決闘するんでしょ、イツキくんと。」
「うん。」
「イツキくん、強いでしょ。」
「う、うん。」
「じゃあきたえないと。絶対勝てないじゃん。」
「・・・。」
ぼくはまたそっと深呼吸をしてみた。だけど深呼吸じゃなくて、息をはくだけ。ハァーっと吐いてからそれがため息だと気付いて、ぼくは少しだけ顔を赤くした。
そうなのだ。イツキは多分、絶対に、100%僕より強い。クラスメイトの誰よりも体がデカくて、クラス一の大食い。体育のソフトボールでは、イツキがバッターボックスに立つと皆が急いで後ろに下がる。そんでもって市内のわんぱく相撲では、上級生を投げ飛ばして泣かせていた。
そんなイツキとぼくが決闘?あの時のぼくが今目の前に立っていたら、大きな声でバーカって言ってやる。なんならお尻も思いっきり叩いてやる。
ぼくはまたフゥーッとため息をついた。
「ねぇ、トモヤ。」
「ん?」
「イツキの弱点ってある?」
「内角のストレート。あいつ力はあるけど、バッティング下手くそだからさ。」
そういうことじゃなくてさ。そう思って顔を上げて、ぼくはまた、今度は二人に聞かせる為にわざと大きくため息をついた。トモヤは鉄棒にぶら下がって豚の丸焼きを披露している。まるできんちょー感がない。トモヤに相談したぼくがバカだった。
「ねぇ、ハカセ。」
こういう時はハカセだ。ぼくは質問する相手を変えた。
「うーん、まずは相手と自分の違いを考えることじゃないかな。そこから何か分かるかも。」
「おー、さすがハカセ!」
ぼくの感激はトモヤにサッと取られた。このヤローとキックをお見舞いしてやると、両手を離してアレェー!とオーバーリアクションをしている。僕はトモヤのそんな所が嫌いじゃいし、でもちょっとだけムカついて、でも、なんだかんだで好きだ。
「よーし、じゃあ、イツキくんとタケルくんの違いを考えてみよう。」
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