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致命の一撃、ボスより雑魚の方が強い

少年の名前はオグマ、この村の子供ということだった。

何があったのかというソフィア殿の問い掛けに、オグマは少し渋る様子を見せたが答えてくれた。


「一昨日くらいだ、誰かが火を放った。火事だってみんな飛び起きて、盗賊を知らせる鐘が鳴った。でも、途中で誰かが騎士だって言ってた。隣の村の領主が攻めてきたって、大人達は言ってた。子供はみんな隠れるように言われて、俺達も隠れてた。起きたら誰もいなくて、食べ物を探して日が暮れた。それで寝てたらアンタらが来て、敵だと思ったから」

「俺を刺したのか、なるほど」

「ごめん、殺すつもりだった」

「そこで殺すつもりじゃなかったと言わない所は素晴らしいな」


嘘を吐くのは良くないことなので、立派だと思う。

何故か、ソフィア殿が俺から距離を取っていた。

ソフィア殿は何やら考え出している様子で、少年を見ていた。

何か腑に落ちないのだろうか?


「どうかしましたか?」

「おかしいのよ。普通、この世界で侵略するなら領民を殺すはずなの。後の統治に影響はあるけど、領主の力を減らす事が出来るはずだから、だから拐う必要はないの」

「何か、意図があったということですか。ふむ」

「なんとかできれば良いんだけど」

「出来ますよ」

「そうよね、えっ?」


ソフィア殿が口を半開きにして俺を見る、女性として少し間抜けな顔をしていた。

聞き取れなかったのかと思って再度、俺が口を開くと彼女は俺の両肩を掴んで逃さないようにして前後に揺さぶる。

うわ、何をするのです!?


「なんで、早く、それを、言わないの!」

「す、すみません。俺が悪かったので揺らさないで下さい」

「はぁ……もう何でもありね、いえ、そうだったわね」

「一応、残留思念を捉える形で意図を探れる筈ですよ。生霊という考えがあります、主体性のない雑霊が影響を受けて生きている人間の強い意思が移った状態になるんです。最近の出来事なら薄れてもいないことでしょう」

「なんか、よくわかんない」


途中から首を傾げ、難しそうな顔をしていたので分かりやすく説明したのだが伝わらなかった。

なので、実際にやってみせることで分かってもらうことにした。


「思念読込……」


ここにはいない、何処かの誰かの叫び、その声を真似ている雑霊が伝えてくれる。

これは死の記憶だ、最も強い思いが残りやすい。

だが違う、これではない、求めているのはもっと安っぽくて俗で弱々しい意思だ。

恐怖に彩られていない声が聞こえてくる。


『早く犯してぇ……』

『金、金、金』

『これで奴を誘き寄せる。そして俺が領主になる』

『殺してぇ、老人なら良いよな』


見つけた、若い男の思念だ。

色濃く残ったそれが残したそれは、ソフィア殿への執着と領主への劣等感を感じる。


「見つけました。誰かが領民を人質に貴方を誘き寄せたいようだ。その人物は領主に対して劣等感を感じている、領主に慣れない人物ですかね」

「なら答えは出てるわ。隣の領地から騎士が来たんでしょ、隣の領主の奴だわ」

「姉ちゃん、それは最初から分かってたよ」


ソフィア殿がオグマに指摘され、しばし固まった末に顔を背けた。

心做しか不貞腐れている様子に、自分でもそうだと思ったのかもしれない。

いや、でも、特定の人物まで絞り込んでるので良いと思います。

俺達が固まって話していると、ふと何処かで物音がした。

それは何かがぶつかって落ちる音だ、誰かいるのだろうか。


「何?誰かいるの?」

「いえ、風か何かでしょう。生きている人の気配はなかったので」

「ちょっと待って、やっぱ誰かいる!ハデス、後ろ!お前の後ろだぁぁぁ!」


言われて、振り向けばそこには誰もいなかった。

下、下、と捕捉が入り視線を地面に向ける。

いた、這いずるように死体と死体を繋ぎ合わせた縦長に伸びたゾンビがいた。

それはムカデのような存在で、人の上半身を数珠繋ぎにしたような見た目をしている。


「なるほど、道理で生きてる気配がしないわけだ。天然物ですね、人素体は久しぶりに見ました。でもやはり洗練されてないデザイン性に問題がある気がしますよ、天然ですから仕方ないですけど」

「おおお落ち着いてる場合かぁ!どどどど、どうしよ!」

「そ、村長だ!村長が、化けて出た!」


そう言って、何故か腰を抜かして座り込んでしまったオグマが叫ぶ。

それは謝罪だったり、どうして俺なんだという怒声だったりと支離滅裂だ。


「し、死霊術師だろ!どうにかして、早く!ほら、早く!足だか手だか分かんないけど気持ち悪い!」

「ソフィア殿、む、胸が当たってます」

「こんな時にラブコメしてる場合かぁ!ふざけてないで、早く助けろ!」


いや、だって、近いです。

こんなの、今まで女性と触れるなんて死体でしか経験がない自分としてはドキドキしてしまう。

それに、そんなに彼らは悪くない。

臭いだけだし、無害な奴らだ。


「早く!ほら、なんかネチャってしてるから!口から、なんか出てるから!絶対食べられるから!」

「どうにかですか、コンセプトは良いけど腕の長さに統一性がないから機動性が落ちてますね。皮膚も人並みで防御力に欠けるし、鎧などを内蔵するか骨で補強というのが一番だと。匂いも、無加工の腐臭だと勿体ないと思います」

「違う、そうじゃない!クオリティーをどうにかしろって事じゃないから!成仏、成仏させて!」

「除霊と浄霊は問わないと、そういうことですね」


恐らく憎しみとか家族を思う気持ちとか、その他色々な想いが混ざって、怨霊と魔力によって駆動していると思われるそれに俺は手を翳す。

死者の願いを叶えて満足させるというよりは、魔力に寄るゴリ押しで排除するというやり方で成仏だ。

普通、こういうときは遺族である人に止められると思うのだが、村人とそんなに仲良くなかったのか、オグマは助けてとか化け物をどうにかしてと、排除することを求めていた。

人と人の絆とは儚い物だな。


「オグマ君、何か言いたいこととかあるかね?」

「ねぇよ!さっきから話してないで、早くしてくれ!もう手が届く距離まで来てるって!」

「いや、成仏する前にハグしたがってるだけだよ。母親との抱擁とか感動的なアレだよ」

「いやいやいや、キシャーって!キシャーって人じゃない音出してるから、食べるぞって感じだから!嫌がらせ!嫌がらせなのか、早く退治してくれ!」

「そうか、じゃあ、破ぁ!」


魔力が手から飛び出して、線状の光がムカデゾンビにぶつかった。

手から出た光はそのままゾンビを、動く死体から死体に変えていく。

無理矢理くっついていたそれは、拘束している力が無くなったために一気にバラバラな死体となって爆発したように崩れ去った。

残るのは血溜まりとバラバラ死体、それと臓物だけだ。


「これは技と言うには基礎すぎる名前も付けるに値しない技術だ」

「……谷生まれってスゴイって思った」

「何を言ってるんですかソフィア殿?」

「いや、ちょっと安心して……ホラー、ダメだったんだな、私」

「ソフィア殿!?」


俺の方に寄り掛かるようにしてズルズルとしゃがんでいく。

足が何だかプルプルして、涙目でこっちを見ていた。

もしかしてですけど、動けないんですか?


「た、助けて。私もなんか、腰抜けたかも。生まれて初めてかもしれない」

「ど、どど、どうすれば」

「取り敢えず支えて、一人で立てない」


その後、わちゃわちゃしながらもなんとか二人を馬車まで運び村を後にすることが出来た。

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