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お願いします、何でもするんで!

ソフィア殿は沈痛な面持ちで、何やら意を決したようにして俺の前で跪いた。

そして、そのまま身体を倒して両手を地面に着ける。

更に、頭を低くして床に擦り付けるようにして不思議なポーズを取った。

わ、分からないが有無を言わせぬスゴ味がある。


「ハデス、頼みがある。何でもするから聞いて欲しい」

「分かりました、引き受けましょう」

「まだ、私は頼んでないぞ。内容も聞いてないのに聞き入れてくれるのか?」

「助けがいるんですよね?なら、断る選択肢はないですよ」

「……そういう奴だったな、私の覚悟は一体」


ソフィア殿はため息混じりに上半身を上げて普通に座る。

そのまま、頼み事とやらの続きを口にする。


「私と一緒に、家族の仇討ちをして欲しい」

「どこまでやりますか?」

「うん?えっと……」

「復讐というなら一族郎党皆殺しですかね、後は縁のある貴族とか。追加で王都の市民も殺しますか?もし不満でしたら全国民でも構いません。でも、これ以上となると後は全世界ぐらいしか対象に出来ませんよ」

「あの、王族ぐらいで良いです。ちょっと、選択肢がナチュラルに怖い」


復讐は徹底的にやる方が良いと聞いてたので、ちょっと張り切りすぎてしまった。

ソフィア殿的には必要最低限という感じで良いらしい、優しい。

じゃあ隣国で生活するという案は変更ということになり、目的地を変えることになった。

もし戦うなら拠点に適しているということで、ソフィア殿の住んでいたホープキンス領を目的地に変更した。


「ホープキンス領はこの場所からだと、東南方向に領地三つ分の場所ね」

「地名から場所が分かるのですか?」

「流石に村や街じゃ分からないけど、領地の名前から大まかな位置なら貴族の嗜みとして勉強してるからね、都道府県覚えるみたいなもんだよ」

「すごい、トドウフケンは良く分かりませんが地理まで分かるなんて……」


夜明けと共に旅立つ事にした俺達は村長に頼み込んで簡易的な地図を羊皮紙に書き写させて貰っていた。

サルバトス領、メイシュール領、ホープキンス領と進むようだ。

なので、次はサルバトス領という場所だ。


馬車を動かして出発する。

馬車の中に荷物を詰めるだけ積み込んだので、乗るスペースがないためソフィア殿は御者として座っている俺の横に座っていた。

貴族とやらは身分の差を気にするらしいのだが、もう今は気にしないというのがソフィア殿の言葉だった。


もしソフィア殿を狙っている貴族に見つかると問題なので、移動する道は人通りの少ない山沿いの道だ。

交易路から外れているので安全性は欠けるのだが、敵は殺すから問題はない。


「あっ、誰か此方を狙ってますね。山賊かな?」

「えっ、待って敵?」

「レギオンを付けます。飛び道具が来た時に守ってくれる筈ですよ」

「っていうか、さっそくか。山賊狩りとかしてない領なのかな」


レギオンをソフィア殿の周囲に配置して敵の前に出る。

ちなみに、ソフィア殿の恰好は村で手に入れた村娘風の格好となっているので一目見た限りじゃ貴族に見えない。

着替えた時に森ガール風だなとソフィア殿は言っていた、そういうファッションがあるらしい。

ソフィア殿は俺に配置されたレギオンを漂わせていた。

遠目じゃ平民に見えるので真っ先に狙われること間違いなしなので、安全対策だ。

よし、これで大丈夫だ。


「ちなみにどうして気付いたの?」

「自分に死の危険があると、感覚的に分かるんですよ」

「うわぁ、ファンタジー。殺気ってやつか」


ゾクゾクとする感覚が強くなってくる。

あぁ、この感じ、誰かに見られてるな。

死の気配の危険な予兆に注意を促すべく口を開いた時だった。


「ソフィア殿、そろそろ危な――」


風切り音と一緒に視界の一部が真っ黒になった。

顔に広がる熱、嗅ぎ慣れた血の匂い、ヌメリとした温かい液体が首に滴る。

灼熱のような激痛、矢が脳まで貫通していそうだ。


「――あっ、やられた」

「ハ、ハデス!」

「安心してください、致命傷です。矢を抜けば、ほら治せますよ」


遅れながら射られた事を理解して、原因となった矢を片目から抜き取る。

脳まで貫通して、強弓による狙撃と判断した。

全く、俺じゃなかったら死んでいた。


「ハハハ!女だ、別嬪だな。俺が一番に犯すぜ」

「おい、ちょっと待て、なんか動いてないか?」

「ミスってるじゃねぇか、殺すぞ!」


森から滑り落ちるようにして、見るからに山賊らしき集団が現れた。

革鎧に身を包んだ集団で、村人が数日そこらで山賊になったとは思えない。

恐らく装備からして傭兵も兼業していそうだ。


『昔から山賊と傭兵は兼業じゃからな。山賊しながら騎士してる奴らもいた』

『自作自演が多かったな、あの頃はよく陰謀に利用されていた』

『殺せ、殺せばだいたい問題ない』


レギオンの中から一族の誰かが補足情報を教えてくれる。

だいたいの主人格は長老だけど、たまに人格が混線することがあるのがレギオンだ。

そうか、やはり傭兵の線が濃厚だったか。


「山賊は税金も払わないし、税収を減らすだけなんで倒してください」

「倒すというのは、殺すと違うんですか?」

「あぁ、うん、殺す形でお願い。よく考えたら殺しても情報聞き出せるね」

「じゃあ殺します」


ぐちゃぐちゃになった眼球が復元し、視界が元に戻る。

レギオンを飛ばしても良いのだが、山賊は十数人ぐらいだ。

レギオンはソフィア殿の護衛にして、直接殺した方が良いだろう。


丸腰で馬車から降りた俺に山賊達がざわめく。

彼らの話題の中心は俺の目についてだった。


「アイツ、目が治ってやがる」

「魔法使いか、まぁいい囲んで殺しちまえ」

「詠唱させるな!杖も持たせるなよ!近接戦に持ち込めばこっちのもんだ」


魔法使いと戦う時の定石は、魔法を使われる前に叩くだ。

近接戦闘を魔法使いは苦手としているからというのが主な理由だ。

ただ、それは俺に関しては当てはまっていない。

何故なら、ナイトメア一族は近接戦闘も出来るように育てられるからだ。


「生者と戦うのはこれが二度目だ。上手くいくと良いが」

「ごちゃごちゃ何を、えっ、お前それ」

「骨だ!どうなってんだ!」


俺の体表面の皮膚が不自然に蠢き、白い棘のようなものが一瞬で伸びてくる。

伸びたのは骨だ、異常に発達した骨が身体から突き出たのだ。


『アレは』

「知ってるのか長老」

『アレは人骨操作。死霊術は死体を操ると思われているが、本来は死を探求する魔術なのじゃ。その過程で人体には詳しくなるし、人体の操作を学ぶ。アレはその応用で、骨を操作しているのじゃ』

「クソ、殺してやる!」

「うぉぉぉ!お前ら続け、援護しろ!」


迫りくる刃は飛び出た骨によって防がれる。

下手な金属よりも硬い骨は余裕で刃を防ぐのだ。

続いて飛び出た骨を剣のような形に操作して両腕を覆い、それを持って順々に引き裂いていく。


「ひ、人質だ!あの女を、ぎゃぁぁぁ!?」

「お頭!嘘だろ、生きたまま溶かされてやがる!うわ、ぎゃぁぁぁ!?」

「悪霊だ、あの女は死人だったんだ!ぎゃぁぁぁ!?」


どうやら俺ではなくソフィア殿を狙った不埒な奴らもいたようだが、レギオンに惨殺されていた。

良かった、護衛をつけていて正解だった。


「ソフィア殿、終わりました」

「ちょっと、そっとしといて、私グロ耐性ないの」

「ど、どうしました!?気分が悪いんですか、なんで」

「か、価値観の相違かな。うん、ほっといて、お願いだから」

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