爆発オチなんてサイテー(タイトルでネタバレ)
眼前に様々な異形の軍勢が揃っていた。
ゾンビ、スケルトン、ゴースト、スライム、吸血鬼、マミー、リビングデッド、リッチ。
そして、それぞれのモンスターの側には作った死霊術師がいる。
その場にいる生者は、ナイトメアの一族以外誰もいない。
「ここまでする必要がある相手なんですか、長老?」
「うむ、これから敵となるレーヴェンシュラハイムは面倒な剣士だ。何が面倒かと言うと、奴は数の理を覆す剣士なのだ」
「数の理ですか」
「そうだ。たとえ百であろうと、千であろうと、万であろうと、尽くを切り捨てる剣の鬼よ」
「なんだか凄い人なんですね、じゃあ意味ないのでは?」
そう言って、配下として作り出されたモンスター達を見る。
数は揃っているが、それだけ凄い人ならすべて斬られるんじゃないだろうか。
いや、アンデッド系のモンスターだし斬られても問題ないのか。
「それでも奴は生者だ。いつかは疲れが溜まるというものよ」
「でも、その人が生きてるってことは殺せなかったんですよね?」
「……いや、アレじゃ。当時は本気を出してなかったのじゃ」
俺の質問に長老が目を逸らす。
やっぱり意味ないんじゃ。
そんな懐疑の視線を振り切るように長老が話題を換える。
「ところで、最初は儂らが先行するからお前は背後で様子見に徹するがいいぞ」
「あの、倒せなかったんですよね?」
「そんなことはない、今度は本気を出すからのぉ」
「様子見させるってことは負ける可能性が高いということでは?」
急に黙る長老、いや疑問には答えて欲しい。
そんな様子を離れた場所から見ていた両親が此方に寄ってくる。
それにしても、うちの両親って腐食したり干からびた顔しか見てなかったけど生前は人間らしい見た目だったんだなぁ。
「息子よ、長老を困らせるな」
「そうよぉ、それよりもこんなに大きくなって」
「おいおい、これから戦うのに仕方のない奴め」
急に近付いてきて手を広げる母、それと後ろで笑う父。
母が俺を抱きしめようと前に出る。
前に出てきたので一歩引く。
「えっ?」
「えっ?」
「ほら、ママの胸に飛び込んでいいのよ!」
「いや、そういう年齢じゃないので」
急に黙る母、いや事実だし。
もう15である、農家なら子供を作って親になり始めてもおかしくない年齢だ。
なのに、いまだに母親と抱きしめ合うのはちょっと。
「ハハハ、母さん。ハデスもそういう歳なんだ、俺にするかい?」
「えっ、あなた腐卵臭が凄いから嫌だけど」
「…………」
急に黙る父、まぁゾンビだし。
見た目は復活したから人間だけど、生贄に捧げたからか死人のような臭さがある。
いや、普通は分からないんだろうけど死霊術師なら何となく分かる死人臭さだ。
「あれ、死人臭い?」
「息子よ、お前まで父を臭いと申すのか」
「蘇生出来たのに死人臭いというのは妙な話だ。それじゃあ、死んでるじゃないか」
「一度死んだら、死んだことに変わりはないのだから死んでるだろう」
「いや、そうじゃなくて。俺が言いたいのは……まさか、この蘇生は不完全なのか?」
本当に蘇生されたなら、生者として存在するはず。
ならば、死者のような匂いを纏う事自体がありえない。
だから生きているように見えて、この蘇生は不完全かもしれない。
「あぁ、そういうことか。そうだ、この蘇生は一時的な物にしか過ぎない」
「取り込んだ生贄の魂を消費するのよ。形を変えても他人の身体だしね」
「そうじゃな、もって数日というところか。完全な死者蘇生は、死霊術師の誰もがまだ到達していない」
そうなのか、じゃあやはり完全な蘇生ではないようだ。
それもそうか、もし可能だったらレギオンとして存在する必要なんてないからだ。
「それよりも皆の衆、気付いておるか?」
「何のことですか?」
「そうじゃ、奴の気配が近付いてきておる」
「あの、俺は会ったことないんで分からなんですけど。気配とかそういうの分かるものなんですか?」
「いや、ほら、儂ら以外で生者の気配はお主と奴しかおらんし、雰囲気的な物とかあるから、その空気とかな……」
「空気?特に淀んでないですし、毒も含まれてないですけど」
「その空気じゃないんじゃが、まぁいいわ」
また何かしてしまったのか。
何だか、親族から呆れたような視線を感じる。
おかしいな、空気は読めてるから読めてないとかそういう話じゃないと思うんだけど。
「まぁいいわ、気張れよ!我が末裔よ、敵は剣神だぞ!」
「いや、それは最初から分かってましたよ」
「……ええい、一番槍は貰ったぁぁぁ!」
「あっ、行っちゃった」
俺を置いてけぼりに駆け出す長老、その後を追う親族のみんな。
そして、その後を追う、モンスターの軍勢達。
本当に敵がこの先にいるんだろうか、一応偵察するか。
「視覚共有」
死霊の取り付いたカラスを支配下に起き、視覚共有で視線を同調させる。
ふむ、これで上空から敵の姿が見えるはずだ。
上から見た景色では濁流のように、横一面に広がる軍勢があった。
そして、それらが向かう先に敵はいた。
「あれが……」
大きな剣を担いだ筋骨隆々な男。
簡素なズボンに上半身は裸というスタイル。
想像と違って傷一つはなく、老人と言うには覇気がありすぎる。
軍勢の一端が男と衝突するや、男が跳ぶ。
跳んで男が剣を振るう。
振るうという初動と振り終わったという最後の動きだけ、それだけが認知できる。
結果として現れるのは両手足をもがれたアンデッドの姿だけだ。
「死なない敵との戦い方を心得てる」
殺せない敵を行動不能にしていく。
下手に殺したと思えば生者と違って牙を向くのがアンデッドだ。
男の周囲に群がるモンスター達、黒い軍勢とでも言える物量。
そんな軍勢の中に発生する空白地帯、男の周囲だけアンデッドが斬られて倒れ伏す。
剣の間合いが一目で分かるように、近づけば男は切り裂いていた。
そして、ある程度囲まれれば宙を舞うかのように飛び跳ねながら斬っていく。
地面に拾った枝で線を引く光景に似ている。
軍勢を掻き分けるように男の通った場所だけが空白地帯になっていく。
斬られた死体の山で出来た空白地帯だ。
男を注視していると戦い方が分かってくる。
敵の攻撃を避け、そして斬る。
斬りながら敵の攻撃を避け、そして斬る。
動作に終わりがなく、ずっと剣を振るっている。
なるほど、だから長老たちは物量でせめて体力切れを狙っている訳か。
だが、祝福されているのかアンデッド達は斬られた瞬間から死体に早変わりして、動きはしない。
斬られたくらいでは復活して襲いかかるはずなのにだ。
『見つけた』
「ッ!?」
突然視界が真っ暗になる。
これは……視覚共有していたカラスが斬られたか。
だが、まるで背後にいるかのようにはっきりと声が聞こえた。
「いったい何が……」
再び監視しようと新しく視覚を確保しようとして、このままではマズイと感じる。
ゾクゾクとした感覚、死の気配だ。
それも急激に強くなっていく、危険だ。
突如、皆がいるであろう場所が真っ黒な煙に包まれる。
半球状の煙、それが急激に肥大して此方に近付いてきた。
遅れてやってくる轟音、そして衝撃に身体の自由が奪われる。
視界は乱れ、身体のあちこちがどこかにぶつかり平衡感覚がおかしくなった。
「くっ……」
遅れて、思考が爆発したのだと認識する。
恐ろしい威力、きっとすべてのアンデッドを連鎖的に爆発させたのだろう。
骨も血肉も、何なら魂すら焚べて爆発させたのかもしれない。
一体、なぜそんな自爆なんて方法を取ったんだ。
「数十箇所の骨折、肉の断裂は少ないか。出血もあるが、問題ない」
既に肉体を再生を始めて、周囲を確認する。
「なん……だと……」
そして、思わず呟いてしまったのは仕方ないことだった。
自分のすぐ横に、底の見えない亀裂が一直線に入っていたのだ。
ほんの少しの亀裂ではない、地割れとでもいう規模の大きな物だ。
まるで、崖の上にいるかのように谷底が出来上がっている。
「斬ったのか、地面をこれほど」
回復魔法しか使えなかったのではないのか、これが人の出来る所業というのか。
驚くべき光景に絶句する。
「最後の足掻きで仕留めそこねたか。剣先がブレるとは、まだまだ修行不足だな」
「ッ!?」
亀裂から声のした方へと目を向ける。
すると、そこにはいつの間にか敵である男が立っていた。
「お前は……」
「よぉ、見つけたぜ坊主。さぁ、俺に斬り殺されろ」
そこには、剣神レーヴェンシュラハイムと呼ばれる男がいた。




