中二っぽい名前だけど最強の一族ナイトメア
何か気に障ったのか、ソフィア殿はそっぽを向いてしまった。
人と接せずに15年間も生きたからか、俺は女の子の扱いがなってないようだ。
「それで、貴方様のお名前を伺ってもよろしいかしら?」
「その、ソフィア殿。楽に話していただいて結構だ」
「あぁ、そっか。助かるよ、猫被るのは疲れるんだ」
「俺の名は、ハデス。ハデス・ナイトメアだ。歳は15でソフィア殿の1つ下だ」
「うわぁ、すげぇ名前……ナイトメア?」
「知ってるのか?長老の話では、かつて名を馳せた一族だと聞く」
俺の名前を聞いて、なぜかソフィア殿は後退る。
どうして、俺から距離を取るのか不思議だ。
「ナイトメアって……あぁ、死霊術師。そうか、ここは悪霊の幽谷か」
「そうだ。もしや知らなかったのか」
「知ってるよ、ナイトメア一族だろ。歴史書で何度も目にした史上最悪の一族だ。戦国時代で猛威を振るって人類の生存圏を大きく広げた悪名高い一族で、多種族との同盟の際に滅ぼされた一族だ」
「なんだって、そうなのか?」
確かに昔ヤンチャしていたと楽しそうに武勇伝を語られたが、俺の一族が悪名高いとは知らなかった。
俺の一族は赤ん坊の俺を残して戦争で討ち死にしたとは、死んだ一族に聞いたが知らなかった。
「俺の一族は何をしたのだ」
「何ていうか、すげぇ人を殺してお前らの一族が生きてるうちは同盟はしないって、各国に言わせるくらいには強かった。密約を結んで裏切らないと倒せなかったって歴史書には書いてあった。今から数十年前まで、誰もが知ってる恐ろしい一族だよ」
「そんな事をしたのか?」
『うむ、我らは言われた通りに戦った。裏切ったのは王家よ、奴らは敵である五大氏族と協力して襲いかかってきおったのだ』
俺の身体から抜き出すように出てきた長老が返答する。
ふむ、ソフィア殿が言う事は間違いないのか。
「うん、どうしたのだソフィア殿」
「ひっ!な、何でもないわ」
「あぁ、これは長老。ナイトメア一族のレギオンで、俺の使役する持霊だ」
「すげぇ寒気がするんだけど、頼むから殺さないでくれ」
「ハハハ、そのような事をするものか」
どうも見た目が怖かったのかソフィア殿は涙目になっておられた。
刺激が強すぎたか、長老にはしばらくどっかに行ってもらおう。
「それで、どうしてソフィア殿は追われていたのだ?何か、国で悪事でもしてしまったのか」
「何もしてないよ。よくある冤罪、悪役令嬢がヒロインに陥れられて処刑みたいな。違ったのは処刑される前に私が逃げて、自殺しようとしたら助けてもらえたってこと」
「お、恐ろしい。都会では冤罪がよくあることなのか」
「あぁ、いや、ごめんよくはないわ。滅多に無いわ、大スキャンダルだった」
「そうなのか、しかし何と不憫な」
話は良くわからなかったが、彼女は誰かに陥れられてしまったようだった。
長老の昔話では戦国時代では裏切りはよくあることだとは聞いた。
だが今は平和な世だと聞いていたのに、驚きだ。
「俺も聞きたいんだけど、どうして助けてくれたんだ。空から女の子がって、ヒロインムーブしてた自覚はあるけどさ」
「人を助けるのに理由が必要なのか?」
「おぉ、マジか。そういう感じか、悪名の割にピュアかよ」
「何か間違っていたのか?」
「いや、間違ってないよ。うん、君はそのままでいてくれ」
ソフィア殿は何だかとろんとした目つきで頭を撫でてきた。
ふむ、初めて人に触られたが悪くないな。
だが、どうしていきなり撫でてきたのか。
「はぁ、これからどうしよう」
「行く宛がないなら、俺と暮らさないか?」
「え、えっと、なにそれプロポーズ?悪いけど、たぶん厄介事に巻き込むから怪我が治ったら行かきゃ」
ソフィア殿は目線を逸しながら、悲しげにそう言った。
そうか、彼女は追われていたのだった。
でも、俺は彼女と離れたくないと思ってる。
なんだろうこの気持は、いったい……。
「俺が、君を守ろう。そうすれば全て解決だ」
「ま、待ってくれ。何を企んでいる、俺は何も差し出せないぞ」
「分からないが、君の助けになりたい」
「や、やぁ、顔近っ……や、やめろよぉ……」
何故か俺から離れようとしたので、急いで彼女を引き寄せたのだが少し乱暴だったのか、彼女の頬が赤くなっていた。
怒らせてしまったのか、痛かったのかもしれない。
『愛じゃよ、愛じゃ孫よ』
「あ、悪霊退散!うっせぇ、覗き見すんな」
『フォフォフォフォフォ』
「ソフィア殿、もしやこの気持ちは愛とやらなのか!」
「お前もいい加減離せ!くそぉ、コイツは男なのに……」
痛くはないのだが、ソフィア殿に何度か殴られてしまった。
やっぱり、女心というのは難しい。
話し合いの末、異国へと向かうことが決まった。
この場所は先程の兵にバレており、すぐさま追っ手が来るだろうとの事だからだ。
確かに、俺も弱体化している今ではそこまで戦える気がしない。
お供には持霊のレギオンと移動手段のポニーを連れて行くことにした。
他のアンデッドは野生化してるか、灰になってるかしていなくなってしまった。
ソフィア殿をポニーの背に、鞍に乗せて手綱を引く。
「これからどこに行くの?」
「この幽谷に続く森を抜けよう。近くに村があるので補給はそこで、その後は隣国のパルサスでもどうだろう」
「パルサス、インドみたいな香辛料の国だわ。カレー作りたくて一時期調べてた」
「ソフィア殿は博識ですね、自分は国など隣国しか知りませんでした。歴史はだいたい滅んでいるので覚えるのが苦手でして」
『我らが滅ぼした』
レギオンが俺の周囲を漂いながら胸を張るように自慢気に言った。
レギオンの元は俺の親戚一同なので、きっとソフィア殿が言うような戦争で滅ぼしたんだろう。
むっ、首の裏が落ち着かない感じがする。
「ソフィア殿、殺気です」
「殺気!?そういうの感じられるのか!」
「いえ、正確には死の気配ですかね。まだ弱いですが死の危険が迫っています」
森を睨んで身構える、しばらくすると軍靴の音が聞こえてきた。
隊列だ、隊列を組んだ集団が近付いてくる音だ。
「全軍、止まれ!」
「しつこい男だ、ナルサス!まだ、私を追うのですか!」
「フフフ、もう逃げられませんぞ。死体を確認しようと思えば生きているとは僥倖、奴を引っ捕らえよ!」
「待て、故あって助太刀する。俺の名はハデス、ハデス・ナイトメアだ!何故、ソフィア殿を追うのか!」
やはり我が一族の武名は轟いているのか、俄に騒ぎ出す。
口々に、ナイトメアと我が家名を囁き始めた。
「静まれ、静まらんか!たかが名に踊らされるな、偽名に決まっている!そも、ナイトメアだの過去の逸話、捏造されたに決まっている」
「いや、ナイトメアの成したことは概ね事実だ」
「煩いわ!偽物が黙るが良い!」
「いや、私はナイトメアだ」
「ハデス、勝てるのですか。もし、ダメなら私をおいて逃げなさい」
そう言ってソフィア殿はポニーから降りてしまった。
まさか、奴らに投降するつもりなのだろうか。
だが、俺が学んできた死霊術ならきっと勝てる。
いや、たとえ強大な敵だとしても勝たねばならないのだ。
「ソフィア殿、最善は尽くします。今の俺は6歳児程度の実力、逃げるべきは貴方だ」
「どうせ捨てた命です、せめて見届けてから死にましょう」