兵站はあるけど、アンデッドだからいらないんだよなぁ
ソフィアは俺とオグマ、そして何が起きたか分かってないままオロオロするメルビン神父一行が乗った正方体、元領主の館を操作した。
形を自ら変形させていく正方体、それによって揺れが俺達を襲う。
神父達は何かを察したのか慌てて玉座の元へと近づいてくる。
その間に、正方体は新たなる領主のイメージに沿うべく形を代えていく。
端から斜面が形成され、折返し地点や広場などが出来上がり、そして一番端で地盤が高い場所に玉座のあった部分が寄っていく。
玉座を中心に高くなり、後少しで此方に合流できそうだった神父達が呆けた顔で見上げる。
いつの間にか壁が出来上がり、天井が出来上がり、バルコニーへとソフィアが動き出した。
慌てて、俺とオグマが側を侍る。
「昔、マイクラをやっててな。日本の城を作ったことがあったんだ、意外と何が役に立つか分からないよな」
「まいくら?にほん?」
「こっちの話、うんうん完全に日本の城だわ。おぉ、絶景だ」
オグマの質問に、ソフィアは取り合わなかった。
どこかの地名だろうか、見たことない様式の城もそこの知識から出たのかもしれない。
息を切らしながら、神父達が俺達の元へとやってきた。
入り口がどこかにあったみたいで、階段を駆け上がってきたらしい。
ソフィアはそんな彼らが来るまで街を操作して作り出している最中だった。
何かモデルがあるらしく、領主の館を中心に格子状の道と道沿いの建物を作り出した。
キョウト、そう言っていた気がする。
メルビン神父から戦略上、直線的な道では進軍を簡単に許してしまうという進言があったが問題ないと切り捨てていた。
それは俺を当てにした戦力を確保しているからだそうで、その言葉にはメルビン神父も一先ず黙ってしまう。
「攻められやすくなるのは承知よ。でも、物流の速さによる経済活動の方が優先。それに登ってくるまでに矢を射がけたり出来るわ。登りきっても今度は広場で囲み、防衛面に問題はない」
「素人が手を出せば命に関わりますぞ」
「問題ない。これ以上は不敬だぞ神父、私を煩わせるな」
その言葉に、騎士達に何があったのか察した部下達に窘められメルビン神父は渋々引き下がった。
街が作り終わると安全を確認した民衆が領主の館を目指して集まりだした。
人は未知を恐れ、何が起きたか知りたくなる生き物だ。
彼らは領主となったであろうソフィアの言葉を聞くために集まったのだ。
ソフィアが集まった民衆に向かって行ったのは勧告であった。
領民達へ、ここは次期に戦場となることを勧告したのだ。
その上で、逆賊となって王家を討ち滅ぼすことを宣言した。
対して、領民の多くが別の領地を目指して旅立った。
ソフィアが無償で食料を提供して家財道具一式の持ち出しも許可して送り出したのだ。
その過剰な施しに、メルビン神父が疑問を抱き質問する場面もあった。
玉座に座るソフィアに、彼は質問したのだ。
「どうして、領民達をお逃しになったので?領地の魔力生産量が減ってしまうのに……」
「だって、良い嫌がらせになるじゃない」
ソフィアは笑顔でメルビン神父に応える。
「このホープキンスは北にバーララ、北東にメイシュール、そして南西に山岳に挟まれる形でコルデスに隣接しているの。難民の行く場所はバーララかコルデスのどちらか。受け入れても受け入れなくても問題にはなるでしょうね」
「他領地からも攻め込まれるのではないでしょうか」
「なら、最初からしているんじゃないかしら?今、メイシュールしか来てないのは裏で手打ちでもしているか抜け駆けのどちらかでしょ。まぁ、少なくともコルデスは難民のせいでそれどころじゃなくなるわ」
ソフィアは政治に疎いと思われるメルビン神父に教えようとする。
しかし、メルビン神父も教会という国を跨ぐ組織に属しているからか、ソフィアより早く答えを導き出した。
「まさか、貴方は隣国に国を売るつもりですか……」
「コルデスは国境沿いの領地でロンバナード国の密偵がいると思わない?」
「売国行為は明確な犯罪ですぞ」
「売ってもいいけど、目的はそういうことじゃないのよ。ロンバナードが切り崩しに掛かれば国境沿いの領地は大慌てになるでしょ。これはそういう嫌がらせ、まさかそのリスクも分かってない馬鹿じゃないと思うけどね」
コルデスという領地の隣には同盟国ロンバナード国がある。
この国からは人質として皇太子や姫がソフィアの学園に在籍しているらしいのだが、ソフィアは戦争が始まって苦労すればいいと思っていることを楽しそうに話してくれた。
トロイアは仲の悪い隣国オルフェに対抗すべくロンバナードという国と同盟を結んでいるらしい。
だがいち早く内乱の情報を手に入れたロンバナードはその情報を元にトロイアを強請るというのが彼女の予想だ。
オルフェ側に付いて襲われたくなければ金を寄越せとかだ。
無論、そうならんように人質を取っているわけだろうがそれもどこまで効果があるのか。
またそれだけではなく、他にも考えがあるようだ。
「遠いところと同盟を結び近場は攻める、ゲームの定石だけどこれはそれだけが目的じゃないのよ。人っているだけで面倒なのよね、難民なんて受け入れても拒んでも問題よ。それにこっちにはヤバい人材がいるってことや、これから戦争を起こすっていう危険性も相手に教えられる。極めつけは民に施しを与えられる領主は本当に悪なのか、国の横暴を訴えかけるホープキンス領主は正しい、次は自分達の番かもしれない。そういう不安を煽って思考を誘導する、一種のプロパガンダね」
「ぷろぱがんだ?」
「あぁ、難しい言葉だったわね。まぁ、最後は気にしなくていいわ」
話は終わりだと言わんばかりに視線をメルビン神父から逸し、部屋から出てくように指示を出した。
メルビン神父達は、ソフィアが用意した客室か街にでも行くことだろう。
最も、街中で食事なんぞにありつけるか分からないが。
翌朝、俺はソフィアの指示で炊き出しを行った。
死霊術で作り出した骨の兵士たちが一心不乱に麦粥の入った鍋をかき混ぜる。
断食を経験した経験から、いきなり消化に悪い物は食べてはいけないというのがソフィアの言葉だ。
「断食を経験したことがあるって、お嬢様はどうなってるんだ」
「オグマ、陛下と呼べ」
「そうでした、すいません師匠」
俺達はただ炊き出しを行っていた訳ではなかった。
これからオグマのようにソフィアに忠誠を誓う魔法使いを見つけようとしていた。
親衛隊が欲しいというのがソフィアの希望だ。
「こんなことしている暇なんてあるんですかね」
「奴らの進軍はまだ先だ。既にアンデッド達は集結させてるし、俺自身が出れば関係ない」
「師匠が死んだら劣勢ですよ」
「俺が死ぬと思うか?」
「俺が間違ってました」
そこらの野鳥を殺して作り出した使い魔からメイシュールの進軍速度は割り出し、残り一日ということは分かっていた。
奴らは一度陣地を作成してから攻めるつもりなのか、目前に迫っているのに攻めては来ずに簡易的な拠点を作成していたから攻め時が分かった。
そのまま攻めてくれば楽だったのにはソフィアの言葉である。
親衛隊にする者達は圧倒的弱者である孤児にした。
子供の方が寿命もあるし、忠誠心を植え付けやすいからだ。
全員に心臓を食わせた俺は、彼らの教育をオグマに任せて戦場に立つことにした。
夜も明ける前、俺はソフィアを連れて最前線となる領地沿いの平野に来ていた。
本来、ソフィアを近くに連れてきたくは無かったのだが親衛隊は育ちきってないし、今の所は一番安全な場所は俺の近くだ。
メイシュール軍は平野に陣地を作成し、此方のアンデッド集団を警戒していた。
どうやら夜明けと共に攻め込むつもりらしい。
夜の場合、夜目の効くアンデッドに不利だとでも思ったのだろう。




