悪魔よりも神のほうが殺してるんだよなぁ
「隊長が、死んだ!?」
「そんなぁぁぁぁん!」
「うわぁ、うわぁはははは!」
隊長の死が士気を低下させたのか、そのせいでゴーストに取り憑かれる者が多発した。
同士討ちにより数を減らし、死ねば屍兵として再利用することで二倍の戦力を生み出し、後は数人を残すだけという状態にまで減らした。
「嫌だ、死にたくない!死にたくないんだ!」
「なるほど、生への執着でゴーストを退けたのか。だが、仲間がいれば死ぬのは怖くないだろ?」
「助けてくれ、嫌だ!嫌だぁぁぁ!」
「安心して欲しい、彼らは仕事が終わり次第冥府へと送ろう。仲間と一緒に死ぬといい」
ゴースト達を集中して向かわせる。
屍兵として利用した死体の兵士からも魂を抜き出し、ゴーストとして追加で送った。
生きる執着も死に触れ続ければ薄れていき、いつしか失ってしまう物だ。
「死にたく、死にた……」
「終わりました」
「し、死んだの?」
「魂が肉体の死を望みました」
勿論、貴重な情報源だ。
魂は捕獲して冥府へと送ってはいない。
何体かは聖職者が強制的に昇天させたみたいだ、クソが。
ゾンビやゴースト達によって聖職者達は包囲されていた。
強制的に昇天させる程の力は、もはや残っていないのだろう。
動けないように彼らは拘束されていた。
「やめろ、聖職者を殺せば貴様らに神罰が下るぞ」
「全ての魂は冥府へと送られる。貴様らの神は摂理に逆らうことなど、そうはない。そして、それほど人を慈しむほど神は慈悲深くない」
「無礼な、貴様は悪魔だ!」
「俺は死霊術師だ。魂を食料としか見ていない下劣な下等生物扱いはやめてもらおう。不愉快だ」
俺の手がゆっくりと聖職者へと伸びていく。
しかし、それを静止するように何者かの手が俺に伸びる。
「待て、貴様は何者だ」
「それは今、聞くべきことなのか?」
それは、民衆の中から姿を表した若者の一人だった。
ソフィア殿に助けを求めるが、オロオロしており事態は変わりそうにない、可愛い。
どうしたら良いんだろう、殺してはいけないのだろう。
「助太刀は感謝しよう。だが、お嬢様の側に怪しい奴をいさせるわけにはいかん」
「コイツらを殺してからでも問題ないはずだ」
「問題大有りだ。ここで彼らを殺せば、教会と戦争になるぞ」
「そ、そうだ!我々を殺すなど、愚か者の所行!懺悔するが良い、さぁ我らを開放しろ!我々を殺して困るのは貴様達だ、誰が平民共を治療すると思っている!」
若者のせいか、聖職者達が口々に罵倒しだす。
自分達の身の安全が確保できたと思ったら、強気になるとは面倒な奴らである。
しかし、そんな奴らに対しては容赦ないソフィア殿が一言。
「殺しなさい、ハデス」
「お嬢様!お待ち下さい、お嬢様!」
「ハデス!私は殺せと言ったぞ、何をしている!」
有無を言わせぬ迫力、力強い声を上げるソフィア殿、可愛い。
その鬼気迫った表情に、若者達が後退る。
俺はそんな彼らを横目に、聖職者達へと向き直った。
「神罰だ、神罰が降るぞ!」
「うるせぇ、生臭坊主共が!それは何時何分何秒だ、こちとらそんな迷信信じるか!生きてて、あったことねぇぞ!」
「ば、罰当たりな……」
話は終わったようだったので、聖職者達に近付く。
それなりに魔法が使える存在なので、そのまま殺すには素体としては惜しい。
ただのゴーストにするよりは、有用な存在に生まれ変わらせた方が良いだろう。
「寄るな、近付くな!」
「新しい命を与えよう」
「来るな、来るな、来るなぁぁぁ!ッ――」
聖職者である神父の一人の喉元を掴み、強制的に黙らせる。
知識として知っているが、生きている人間で使うのは初めてなので凄く楽しみだ。
「生まれ変わるが良い、死者変性」
「な、何を、ぐっ、うわぁぁぁぁぁ!?」
俺の手から魔力が流れ、神父自身の魔力を操作する。
魔法により、最も魂に適した肉体へと姿を変えてアンデットへとなっていく。
「ぐあぁぁぁ!?がぁぁぁぁ!」
「お、おい、大丈夫なのか?なんか泡吹いてないか?」
「初めてで少し調節が難しいですね」
片腕が膨張と伸縮したり、水分が抜けるように干からびたりする。
「もう一歩なんですけど、魂にあった肉体も難しいな。リッチとヴァンパイア、いや敢えてデュラハンとかもありなのか?」
「あぁ、あぁ、あぁぁぁ!ご、ごろぜぇぇぇ!」
「リッチの方が向いてそうだな。聖職者だから、魔法に適正ありそうだし、おぉいい感じだ。どうですか!」
振り返ると、ソフィア殿の目からハイライトが消えていた。
若者達も何だかさっきより距離が離れていた。
これは所謂、ドン引きという奴では?
「鬼だ、生き地獄じゃねぇか……」
「アイツ、人が苦しんでるのに笑ってやがる……」
「あんな半壊状態で、何で生きてるんだよ……」
その小さな呟きが若者達から漏れていた。
お前達は騎士の端くれなら敵に情けを掛けるなんて未熟なんじゃないか?
ですよねソフィア殿、と視線を向ければ目線を逸らされた、何故だ!
「私はぁぁぁ、俺はぁぁぁ!いぎぃぃぃ!ゆ、許ざんぞぉぉぉ!」
「見て下さい、ソフィア殿!人としての良心や善意が欠如し、悪意が増大することで、よりアンデッドに最適化されていますよ!これほど邪悪な者は素体としては優秀です!」
「あっ、はい……」
眼球が溶けるように零れ落ち、皮膚が爛れて液状となり、内臓や筋肉も同様にゼリー状になって崩れた。
骨だけとなった身体の周りには、肉であった黒い泥のような物が纏わりつく。
そして、それらは骨を覆う衣服となった。
『オォォォォ、我が主ヨォォォ』
「生まれた、よし最初の命令だ。他の仲間もリッチにするのだ」
「嫌だ、嫌だぁぁぁ!」
そこには黒衣と王冠を纏ったスケルトンが佇んでいた、そうリッチである。
後のことは新しく生まれたリッチに任せて、俺はソフィア殿に向き直る。
すると、他の者達がソフィア殿を囲むようにして立ちはだかった。
「寄るな、貴様はお嬢様に相応しくない」
「何故、邪魔をする。そこを退け、俺の邪魔をするな」
「皆の者、お嬢様に指一本触れさせるな!総員、抜剣!」
「お前達は、俺と敵対する気か?」
俺の前に立っていた者達が剣を抜き、此方に相対する。
一触即発の状況、しかしそれを打ち破るようにソフィア殿が前に出る。
「お嬢様、お待ちを」
「下がりなさい。彼に剣を向けることは、私が許しません」
「まさか、洗脳されてるので!?」
「おい、いい加減にしろよ。しつけーよ、遠回しな自殺しようとすんな、疲れる」
「お嬢様!?今まで、そのようなお言葉など」
心底、面倒だなという顔を彼らに向けるソフィア殿。
俺はそんな彼女を見て、彼らに軽く微笑んだ。
そう、最後に勝つのはこの俺なのだ。
「貴様ぁ!なんだ、その勝ち誇ったような笑みは!」
「落ち着きなさい、私の前でこれ以上の無様は見せないで貰おうか」
「お、お嬢様ぁ……」
「お前達に命じます。あの農民達と監禁されている教会の方達を助けなさい、私はこれより領主としての引き継ぎ契約を行います」
「し、知っておられたのですか。旦那様と御子息の最期を」
「行きなさい、私の手をこれ以上煩わせるな」
ソフィア殿の言葉に、小さく頷き彼らはそれに従い何処かに向かった。
さて、俺とソフィア殿はその後は屋敷へと向かう、オグマ少年は親元に向かったので二人きりだ。
「これは実質デートなのでは?」
「おい、考えてることを声に出すのやめろよ、聞こえてるぞ」
「…………」
「やっぱ沈黙もやめて、何か照れる」
ど、どうしたら良いんだ。




