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寝取られたのに性悪女扱いはおかしいやろがい

聖職者である彼らの行く先、そこには手足を鎖で繋がれた者達がいた。

姿は見窄らしく、平民にしては汚らしい外見だ。

いや、元は質素な程度の服を着た者達だったのだろう。

ただ、泥や血で汚れた彼らは物乞いのように見えてしまったようだ。

聖職者達は物乞いのような者達を連れてきた騎士達と何やら会話しながら、民衆を集めだした。


「あれは、一体……」

「聞け民衆よ、この者達はソフィア・ホープキンスを匿っていた辺境の村の農民達である!これからコイツらを磔の刑にする!なお、コイツらに食事を提供した者は同様の刑に処す!また、コイツらと会話をする者も同様に刑に処す!」

「違う、俺達はそんなの知らない!」

「黙れ、誰が喋っていいと言った!この愚民が!」


どうやら彼らは農民だった。

そんな彼らの周囲にいた騎士の一人が、一人反論する若者をその持っていた剣で斬り伏せた。

周囲から小さく押し殺すような悲鳴が漏れ、農民達が命乞いを始める。

若者は首と胴体を別れさせていた。

憐れにも首だけが石畳の広場に転がり、驚愕の顔で周囲の平民達を見ていた。


「あっ、見せしめですね」

「兄ちゃん!?何で!みんなだ、村のみんながいる!」

「おい、馬鹿、クソガキ!?」


物陰から隠れて盗み見ていた俺達の元から、オグマが駆け出した。

どうやら、捕まっていたのはオグマの村に住んでいた農民達のようだ。

そのため知り合いが斬られて動揺を露わにして騎士達の前に出るのも、それを咄嗟に捕まえようとソフィア殿が前に出るのは仕方ないことだろう。


「何だ貴様は!おい、待てよ!そこのお前、もしや!フハハハ、なんと稚拙な変装か!騎士共を炙り出そうとして、この俺の前に出るとは」

「し、知っているのですか隊長殿!」

「気付かぬか、奴だ!奴こそ、我らが探していたソフィア・ホープキンスだ!」

「何ですって!上手柄じゃないですか!流石、隊長殿であります!」


ソフィア殿はオグマ少年を捕まえた状態で固まっていた。

何やら此方を頻りに見ており、気まずい顔をしている。


「どうしよハデス!速攻でバレちゃった、いや私のせいじゃないよね!」

「ごごごめん、お姉ちゃん。俺のせいだ」

「そうだよ、お前のせいだよ!でも、やっちゃったもんは仕方ないよね!クソが、お前らふざけんな!」

「ほぉ、どうやらそれが本性のようだな。薄汚い売女が、王子に色目を使うことだけはある」

「ハァ!?婚約者に色目なんか使う訳ねぇだろバーカ!私から寝取ったあの女のほうがビッチだわ、ボケ!」


何やら琴線に触れたのか、ソフィア殿が騎士達に向かって罵っていた。

隊長と呼ばれる騎士は、罵られると思っていなかったのか不快そうに顔を顰めている。

だが、すぐさま上機嫌になった男は此方を指差す。


「奴を捕まえろ!捕縛次第好きにして構わん、そう好きにな。勿論、一番は俺だがな」

「へへへ、今日の隊長は太っ腹だぜ」

「おい、傷物にはするなよ。抱くなら綺麗な方が良い」


騎士達の下卑た目が何を考えているのか分かりやすく表していた。

よし殺そう、今すぐ殺そう。

俺はソフィア殿達を守るように、彼らの前に立った。


「何だお前、邪魔するんじゃねぇよ!」

「俺はハデス。ハデス・ナイトメアだ」

「ナイトメアだぁ?おいおい、そんな名前如きでビビるとでも思ったのか?」


騎士達が剣を抜く。

人数は数えるのも億劫になるほどたくさんだ。

大体50はいるだろうか、もっとかもしれないがそれ以下ではないのは確かだ。


「さぁ、お前達の無念を俺の魔力を喰らって晴らせ、死霊生成」

『オォォォォ!オォォォォ!』

『イギィィィィィ!』

『ヌゥゥゥゥゥゥ!』


足元から、紫色の炎にも似たゴースト達が湧き出てくる。

この街で怨みを持って死んだ魂、ゴーストにも成り切れない霊達だ。

魔力を与え、生者に害する事が出来るモンスターへと変貌させ、使役した。

対象は騎士達、せっかくなので彼らを使って数の利は奪わせてもらう。


「な、何だおぉぉぉ!」

「モンスター!モンスターぁぁん!」

「何でぇへへへへ!」


ゴースト達が騎士達に取り憑いていく。

取り憑かれた騎士達は正気を失い、理性を無くす。

どうも、彼らは想定以上に意思が弱いらしい。

取り憑こうにも意思が強い場合は身体から追い出すことは出来る。

もっとも、彼らの怨みが強くそれすら捻じ伏せたのかもしれない。


「うわぁぁぁ!」

「何するんだぁぁぁ!」

「おい、味方だぞ!クソがぁぁぁ!」


理性を失った騎士は周囲に向かって剣を振るう。

石畳だろうが、仲間だろうが、自分の身体だろうが関係なしに出鱈目に振り回した。

当然、密集していた味方の騎士は一番被害を被った。

例え逃げようと、彼らは怨みを原動力に動く怨霊に取り憑かれた身、生者である騎士目掛けて向かっていく。

騎士以外には俺が操っているので襲いかかることはない。


「何をしておるか!狂った奴らは仲間だろうと殺せ!命令違反は俺が殺す!」

「しかし、りょ、了解であります!」

「ゴーストだ、ゴーストに取り憑かれても落ち着いて振り切れ!奴らは所詮、肉体を持たぬ憐れな亡霊よ!こっちには神父も付いておるわ!お前達なら出来ると信じておるぞ!」


隊長と呼ばれる男の口から叱咤激励が飛ぶ。

騎士達の顔から恐怖が消えた。

混乱していた状況は叱咤により治まり、激励によって自信が付き、神父という保険が不安感を退ける。

ゴーストの対処をよく分かっている、意外とやるな。


「お嬢様だ!お嬢様を救え!」

「今こそ、立ち上がる時だ!」

「行くぞ、俺に続けぇぇぇ!」


声が、民衆たちの中から聞こえた。

それは何人かの若者達の声、彼らは一様に剣を持って前に出た。

民衆は逃げ惑い、この場から離れていくが若者達はその場に残っていた。

彼らは雄叫びを上げながら、騎士達に斬りかかっていた。


「ハデス、待って!騎士よ、ウチの騎士だわ!」

「どういうことです、民衆に紛れていたのか?」

「とにかく、殺さないように何とかして」

「良いでしょう、元より民衆は狙わないようにしてますからね」


ゴースト達が騎士共を襲い、平民に扮した若者達も便乗するように襲いかかる。

突如始まった市街戦は、やはり装備の充実した騎士達がやや優勢だ。

ホープキンス領の騎士と思われる若者達の奮闘もあったが、やはり剣だけでは不利だったようだ。

だが、死体が生まれる戦場こそ死霊術師の本領が発揮できる場所だ。


「屍兵生成、さぁ行け亡者よ」

「まただ、またアンデッドだ!」

「まさか、馬鹿な!」

「ええい恐れるな!あの男、魔法使いか!ならば、殺してくれる!」


隊長と呼ばれる男が此方に向かって走ってくる。

あんな大きな声でこれから襲うと言うなど、殺してくれと言っているような物だった。


「死ぬのはお前だ。血流操作、発射!」


指先を隊長とやらに向け、指先の血液に魔力を込める。

同時に圧縮と加速を行い、勢いよく指先から発射した。

圧縮した血液は針の如く鋭くなり、加速した血液は推進力を生み出し、皮膚を突き破って赤い針となって飛び出した。

数本の針が断続的に飛び出し、男に向かって刺さった。


「ヌッ!?」

「屈強な騎士も、内臓は鍛えられない」

「む、胸が……」

「貴方の体内に血液で作った針を入れ、それを操り内側から破壊しました」

「ば、馬鹿な……」


走ってる途中で、隊長と呼ばれる男は事切れた。


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