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プロパガンダ、この手に限る

レギオンを護衛に置いて俺は偵察を開始した。

肉体では無いために星の重力に俺の身体は捕われる事はない。

かつて世界は大きな大地だと言われていたが、神によって俺達が見上げる星と同じ物が世界であると教えられている。

点の上に人は住み、点の中心に人は引き寄せられるのだ。

それを重力というのだが、そういった引き寄せる負の力から開放される。

死霊術師的な見解を言えば、ゴーストなど負の存在は負の力と反発しているから無効化出来るということだ。

詳しいことは知らん、そういうのは学者が考えることだからだ。


なので、俺は宙を自由に移動できるので馬鹿正直に正面から入ることはせずに街の街壁から直接侵入することにした。

壁を通り抜け、街の中へと入っていく。

街は全体的には石造りの建物が集まっていて、木材の建造物は少ない。

農耕を主として生活している農民と違って、街は村々から物を集めて物々交換することで成り立っているからか商店が目立つ。

素材は集まってくるから加工することで生活する人々が多いのだろう。


街の広場には悍ましい気配が漂っていた。

戦場に近い、怨みと嘆きの念を孕んだ気配だ。

ある程度予想をしながらも広場に行くと、街の中心にある見晴らしの良いその開かれた場所には多くの人が集まっていた。

中心には磔にされた人がいる、彼らは拷問されたのか肉を引き裂かれて放置されている。

生きたままネズミやカラスに啄まれている、そういう処刑方法だろうか。


俺も民衆に紛れるようにして、広場に侵入していった。

磔にされた人達の近くには司祭と騎士、それと貴族らしき装飾のされた服を着た人がいる。

流石に物を知らない俺でも察しがつく、恐らくこれから公開処刑が始まるのだ。

都会の娯楽は公開処刑と教えてもらったことがある、俺は都会に詳しいのだ。


「聞け、民衆よ。この者達は愚かにも新たなる領主、ゾルグ・メイシュールに逆らった者達である。もはや見捨てられたにも関わらず、このように亡きホープキンスに忠誠を誓った愚か者達だ。前領主であるホープキンス家は、王に逆らい逆賊として処刑されたのは諸君の記憶にも新しいだろう。新たなる領主ゾルグ様が慈悲によってお前達の命を救ったにも関わらず、この者達は恩を仇で返したのだ!」

「なんて奴らだ、俺達を巻き込みやがって」

「諸君らの中にソフィア・ホープキンスを匿っている者がいる。王命により、彼女は死ななければならない。いつまでもゾルグ様の慈悲が降り注がれる訳ではないのだ。雨がいつか降り止むように、慈悲とは限りある物なのだ。いつまでも隠し立てせず、彼女の命を差し出せ!さもなくば、この者達はお前達の未来であるぞ!」

「さっさと殺せ!俺は探すぞ、俺は死にたくねぇ!俺はゾルグ様を支持するぞ」

「皆、ゾルグ様を讃えるんだ!じゃないと、巻き込まれるぞ!」


装飾過多の人は公示人と呼ばれる貴族や王様が決めたことを伝える人なのかもしれない。

民衆は忌々しそうに磔にされた人を罵っていた。

他には、新しい領主だとゾルグ・メイシュールを讃える声が響いていた。

ただ、不思議なのはそれを言い出したであろう男がいつの間にか民衆から離れていったのだ。

怪しい、追いかけてみるか。


男は、人気のない場所へと自分から進んで行った。

どうして人がいない場所を目指すのか、その答えは追いかけることで遂に分かる。

民家が無くなり、木々が生い茂り、その向こうの集団墓地となっているであろう墓石だらけの場所、そこが男の目的地だった。

そこにはローブで身を隠した怪しい人物が待っている、絶対悪人だ。

俺は墓地を覆い隠す木々の物陰に隠れながら聞き耳を立てた。


「待たせたな、さっさとすませよう」

「フン、報酬だ受け取れ」

「へへっ、ありがてぇ。だが、アンタらも悪い奴らだぜ。こんなこと、バレたら不味いだろ」

「黙れ!まさか、貴様脅すつもりか?相手を見て、言ってるんだろうな!」

「ひっ、か、勘違いしないでくれ旦那。俺はそんなつもりじゃないんだ」

「失せろ!もし事がバレたら貴様を嬲り殺してやるからな!」

「勘弁してくれ、言わねぇよ……」


そう言って、金を貰った怪しい男は逃げるように去っていった。

ふむ、なんかやってるしローブの奴は黒幕に違いなかった。

ローブの奴が墓地から去ろうとしていたので、敢えて俺は物音を出すために枝を足で踏みつけた。


「誰だ!?出てこい!」

「ふむ、バレてしまったか」


本当はわざとだったのだが、そう言って俺は奴の前に姿を表した。

正体不明のローブで身を隠した男は、俺に対して口封じを行おうとしているのか短刀を抜き放った。

いきなり殺そうとするとは、穏やかじゃない。

死の気配は脅威でないから反応しておらず、万に一つも殺す気がないということはあり得ないと判断した。


「何処の者だ、まぁいい、死ね!」

「それは出来ない」


ローブの男は俺目掛けて、常人離れした速度で近づき喉と胸、そして腹へと短刀を突き刺す。

平民と違う戦闘職の動き、しかも普通の戦闘職よりも早い肉体が強化された者、特有の人間離れした動きだ。

とはいえ、その程度なら少し戦える者なら誰でも出来る。


「手応えがない!?しまった!」

「だから出来ないと言った」

「どういうことだ、何故効かない!?」


俺はローブの奴の短刀を持つ手と首元を掴んで抑えた。

ローブの奴は抵抗するが、蹴りなどはすり抜けているために攻撃出来ていない。

カラクリは簡単で触れている場所以外が霊体だからである、やるなら短刀で首元の手を攻撃するのが正解だが、短刀を持っている手も防いでるので使えない。

後は魔法だが、この反応からして魔法は使えなさそうだ。


「俺は触ろうと思ったものを選べる、だからこういう事もできる」

「な、何を……う、腕が!?」

「動かないほうが良い、指が引っかかると心臓が動きを乱して死ぬ」

「何だこれは、魔法なのか……聞いたこともない」

「俺の質問に答えろ、答えなければ心臓を握り潰す」


ソフィア殿はそんな機会はないと言ったが、早速使う機会が訪れた。

俺は男の背後に回って刺される可能性を下げた状態で尋問を開始した。


「お前は何者で、何をしていた」

「……俺はメイシュール家の騎士だ。金で、あの男の仲間を雇ってゾルグ様を讃えるように指示した。命令だったんだ、助けてくれ」

「何故そんな事を、あと村人を知らないか?お前達の騎士に連れてかれた筈だ」

「抵抗勢力への警告だ!あと村人は領主の館だ!ゾルグ様が管理している、だが早くしないと処刑されるぞ!俺を助けてくれたらどうにかする、頼む!」

「ホープキンス領の騎士ではないのか、やはりメイシュール家だったか」

「ホープキンスの騎士がなんで攫うんだ。お前、騎士派の人間じゃないのか?」


ソフィア殿の話と違う、どうやら間違えだったようだ。

うん、何だか気になることを言ってるな。


「騎士派というのは何だ、言え」

「抵抗勢力だ。何で知らないんだ、奴らじゃないのか?」

「言いから言え、他にもホープキンスに味方する奴らもいるなら教えろ」

「裏切らなかった騎士の奴らだよ、他にも聖職者もいるが全員捕まってる。奴らの生き残りじゃないなら誰だ」

「質問してるのは此方だ、おい暴れるな」

「どうせ殺されるなら、うおぉぉぉ!」


そう言って男は暴れ始める。

俺が殺すのを躊躇って逃げれる算段なのだろうか、別に死にたいならそうさせるだけだ。

俺の手が心臓を握ると、男は呼吸困難に陥り意識を失うようにして死んだ。

さて、霊体にでも聞くか。


霊体となった男は死体から這い出て、成仏しようとした。

地面に引き寄せられるように沈んでいくので冥府行きだろう。

俺はその男の肩を掴んだ。

何を驚いた顔をしている、話はこれからだ。


『な、なんで!?まさか、死霊術師』

「意識がはっきりしてるうちに色々教えてもらおうか、いや直接知ろう。魂縛吸収!」

『や、やめろぉぉぉ!?』


魂縛吸収に細工して、純粋なエネルギー吸収ではなく知識や記憶を抽出するように取り込んだ。

コイツの知っている街の情勢などが俺の経験として手に入ったのだった。



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