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王族よりも平民の方が賢いという矛盾

ソフィア殿の生まれ育った領地の街を目指して馬車を進めていく。

領地に関して聞けば、一般的な領地とはまず膝下である直轄地に街が置かれ、代官や村長が管理する村が周辺に広がる形で存在するそうだ。

そして、税収に応じて土地を管理するのが領主の仕事である。


今回、当初の頃からソフィア殿が領地を目指したのは理由がある。

領地は実は土地という性質だけでなく、兵器としての機能を持っているのだ。

谷育ちで知らなかったのだが、領地というのは領民が生活しているだけで少しずつだが魔力を吸収しているらしい。

そして、領主という土地と契約した人物は領地から、その膨大な魔力リソースを自由に扱う権限が与えられる。

膨大な魔力を供給する事で領主を人間兵器として運用する機能を持ち合わせているのだった。


ただ、領主というのは王族によって与えられて契約する場合を除いて世襲制である。

ここが面倒なところなのだが、既に契約された土地と新たに契約するには領主を殺害しないといけない。

しかし、世襲制であり魔法的な契約であるために自動更新されてしまうのだ。

つまり、領主を殺してもその子供が、子供を殺しても孫が、と継承権がある人物へ権利が譲渡されるのだ。

なので、王家が別の人間を領主にしたい場合は前領主一族を滅ぼしてからということになるそうだ。

そして、王家はそのために領主がどこにいるか判断できる魔道具というのを持ってるそうだ。


「なるほど、つまり王家にはソフィア殿の居場所がバレているという事ですね」

「連絡が届くまでに時間が掛かるけどそうよ。あと、一度見たことあるけど大体しか分からない」

「どうりで追手が送られてきていた訳ですね」


しかし、ソフィア殿が帰ってくるということは領地を拠点にする事が出来るということだった。

しかも、領主は騎士を所有することが出来て、騎士は領主の許可次第で領民から徴収していた魔力を利用できるそうだ。


「要するに、私がハデスを騎士に任命すれば膨大な魔力と強力な魔法使いを手に入れられるわけだ。必殺技を連続ブッパということである、賢者の石を持った国家錬金術師って認識だね。勝ったな風呂入ってくる」

「風呂など、どこにもありませんよ」

「言ってみただけだ」


俺達の眼前には街があった。

街を囲うように存在する石壁は、堅牢さを物語るように荒々しい岩肌を晒している。

土の魔法で締め固めて作られたとのことで、人の多大なる労力の末に出来上がった防壁だ。

外から侵入を試みようとするものからしてみれば、要塞のような厄介さがある。

石壁には至る所に吊るされている物がある。

人だ。

それは領民だ。

かつて生きていた人達だった。


「酷い、あんなのってあんまりだ」

「拷問の末に殺されたようですね」


俺の目には通常の人間と違って、霊体の動きなどが見ることが出来る。

死体からは滲み出るように怒りや嘆きの怨念が黒い靄として映っている。

オグマ少年は見えてはいないだろうが、感じてはいるのか目を背けるようにして悲しみを露わにしていた。


「誰か来ましたね、聖職者のようだ」

「自分達で殺しといて、祈るのかよ!俺達の命を何だと思ってるんだ!」

「平民の命なんて何とも思っていないのでしょう」


オグマ少年に真実を伝えてやると憎々しい目つきで見られた。

俺に対してそれは八つ当たりだとは分かっているだろうが、子供だから素直に表現してしまうのだろう。

聖職者は祈りを捧げることで死体の怨霊を成仏させていた。

安らかな眠りを強制的に与える聖職者は死霊術師の天敵である。

奴らのせいで、死者蘇生が面倒になったり死体を操るのが手間が掛かるようになったりするからだ。

アンデッド化が自然発生しないように街には必ずいる存在だ。


「アレは挑発かしら?奴ら、私が近くにいることが分かってる……そうか、連れてかれた人達は私を誘き寄せる罠だ」

「そんなの可笑しい!隣の領地の人間だって、誰かが言ってたんだ!」

「そうね、恐らく隣の領地に偽装したウチの騎士の仕業だわ。街の勢力図が変わってるに違いないもの」

「騎士は領民を守るんだろ!クソ、どうして騎士が守るべき人を襲うんだよ!」

「平民の命なんて何とも思ってないからでしょ」


ソフィア殿とオグマ少年の顔が一斉に俺の方を見る。

何も間違っていないと思うのだが、居心地が悪く感じる。

やめてくれ、その視線は俺には効く。


「と、とにかく街に侵入するわよ。領主の館にある契約の櫃に私の血を入れれば領地を使えるわ。今の私は領主を継承している筈よ。他の一族の者は死んでるから!」

「良く分からないまま着いてきたけど、無理に決まってる。だって、街には悪い奴らがいっぱいいるんだぞ」

「大丈夫よ、私にはハデスがいるわ。他力本願だけど、勝てるわ。それにね、貴族ってのは領民を守るものなのよ。今まで隠してたけど私、実は貴族なのよ。それもこの地のね、だからこの地の領民を守るのは義務なのよ」

「隠してるつもりだったの?」


オグマ少年の純粋な瞳がソフィア殿に向けられる。

胸を張っていたソフィア殿の表情が固まり、視線がソワソワし始めた。

よく見ると、うっすら顔が赤くなっている。


「よ、よく気付いたわね!」

「今までの会話を聞いてたら、子供でも分かるし自分の領地の偉い人の顔くらい覚えてるよ」

「…………そ、そうね」


な、何故俺を見るのですかソフィア殿。

涙目で何を訴えようと言うんですか、俺はどうしたら。


「とにかく街に侵入しましょう、ですよねソフィア殿!」

「その通りよ!隠れながらどうにか領主の館に向かうわよ!」


視線から逃れるように俺の提案に乗ったソフィア殿は、俺達を先導して街へと侵入することにした。

しかし、何もかも俺達には情報がない。

死霊監視を用いての偵察は冥府の住民や聖職者に防がれる確率が高く、長期的な調査には向いていない。

じゃあどうするか、冥府と関係ない現世で聖職者の浄化にも耐性のある霊体を使役すればいい。

だが、準備も手間も掛かるので手っ取り早くそれを行う事にした。


「じゃあ、霊体変化して偵察してきますね」

「ねぇ、そういうのって弱体化するとか弱点が出来るとかあるんじゃないの?」

「ゴーストと同じような物になりますからね。まぁ、問題ないですよ」

「フラグじゃないよね、大丈夫だよね!」


悪魔のように魂を契約によって抜き出して喰らう存在やゴースト系のモンスターに取り込まれるなどしない限り魂的には問題ない。

仮に聖職者に成仏させられても死後の世界に強制送還されるだけなので、それも問題ではない。

悪魔は撃退するし、取り込まれそうになっても逆に取り込むし、強制送還されても自力で戻ってこれるからだ。

対抗できるのは死霊術師だけである、それでも俺ほどの技量はないだろう。


肉体からが徐々に幽体化して、半透明になっていく。

物質に宿る情報体、人間で言うところの魂に肉体を近づける為に服ごと霊体となった。

物理干渉できない代わりにされることもないゴーストのような存在だ。


「す、すげぇ、お化けになった」

「触れないなら危なくないのかしら」

『本来なら致命的な攻撃を躱し、肉体の一部を実体化させて攻撃などするのじゃ。心臓を握り潰すときなどに使えるな』

「心臓を握り潰す機会なんて殆どねぇよ」


レギオンの解説にソフィア殿がツッコんだ。


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