Episode 0
「ここはどこだ....」
目が覚めると真っ暗な部屋にいた。いやこれは部屋といって良いのだろうか。空間と表現したほうが適しているかもしれない。
「お久しぶりです。ミタニ様」
声が聞こえたと思ったら、その瞬間目の前に男が現れた。黒い服を着た黒髪の男。黒い空間に居るにも関わらず、その男の姿は何故かはっきりと認識することができた。
「誰だ、あんた」
「私に名前はございません。ミタニ様のお好きなように呼んでいただければ」
「そういうことじゃないッ!あんたは何者でここはどこかを知りたいんだッ!」
「これは失礼致しました」
男はニヤリと笑う。何がどうなってるんだ。必死に記憶を遡ろうとするが何一つも思い出せない。
「無駄ですよ、記憶というのは生者の特権ですから」
「ッ!!...どういうことだよ、それ」
「単刀直入に申し上げますと、ミタニ様は死んでしまったのであります」
男の言葉に硬直する。死んでしまった?死んだのか?俺が?けどそんなこと一切覚えが...。
「先程も申し上げましたが、記憶というのは生者の特権。死者のミタニ様には何も思い出すことはできません」
「一体なにがどうなってるんだ....。」
「ここは地上とあの世の狭間のような場所でございます。地上で死んだ人間はあの世に行く前にここを通過する決まりとなっております」
「ここを通過して何か意味があるのかよ...」
そのセリフを待ってたとばかりに男は笑みを浮かべた。
「ありますよ。ミタニ様には今からこのまま死ぬか、それとも生き返るのかを選んでいただきます」
「ッ!!なんだよ、その二択ッ!!」
そんなの後者一択だろ...。
「前者を選べばこのままあの世にご案内。後者の場合はある試験を受けていただき合格すれば地上に戻ることができます」
「...試験っていうのは??」
「それはまだお答えできません。まずは選択を」
「後者だ」
「後者ですね、分かりました。それでは試験について簡単なご説明をさせていただきます」
男は懐から薄い本を取り出すとそれをペラペラとめくり始めた。
「ミタニ様はドッペルゲンガーをご存知ですか?」
唐突な男の質問に少し驚いたが、すぐに答える。
「知ってるさ。もう一人の自分ってやつだろ?」
「左様でございます」
男はそういうとまたペラペラとページをめくり始めた。そしてしばらくすると手を止め、本を閉まった。
「簡単に申し上げますと、試験とは地上にいるもう一人の自分を探し出すことでございます」
「なっ、それってどういう...」
「先程話したドッペルゲンガーですが、実際に存在するのですよ。つまり地上には同じ人物が二人存在しているのです」
「そっそんな話が信じられるかよ....」
「信じられないなら結構です。試験は即終了となりますが」
「ッ!!待ってくれ、信じるよ!信じる」
「合格の条件は地上にいるドッペルゲンガーを探し出すこと。それだけでございます」
「...探し出すだけでいいのか??」
「はい、ミタニ様が自分のドッペルゲンガーを見つけることができればその時点で試験は終了でございます」
男は続ける。
「期限は1年間。地上へのリスポーン地点はランダムとさせていただきます」
1年間!?思ってたより相当長い。てっきり1週間程度だと思っていた。
「それほど自分のドッペルゲンガーを探し出すのは困難だということです。そしてここからが最も大切な点です」
男の表情から笑みが消えた。思わず生唾を飲む。
「試験期間中の1年間、あなたは英霊として地上に降り立つことになります」
「...英霊!?」
英霊ってなんだ。初めて聞く単語に思考が混乱する。
「英霊というのは地上の人々を見守る存在。いわば天使や妖精の類ですね」
「な、なるほど...」
「つまり、地上の普通の人々はあなたの存在を認識することはできないという事です」
「ま、まってくれ!それじゃ情報収集が...」
「できませんね。あくまで普通の人々には、ですが」
含みのある言い方だ。まるで天使や妖精が見える人間がいるかのような...。
「いますよ。そういう人間」
男の顔に再び笑みが浮かぶ。
「我々はそういう人間を"霊有者"と呼んでおります」
「...霊有者...」
何故だろう、初めて聞くはずなのに不思議と聞き覚えがある気がする...。
「まず地上に降りたらその霊有者を探すのがいいでしょう。逆に霊有者を見つけることが出来なければ探索は難航するでしょうね」
「...随分と親切なんだな...あんた」
「いえいえ、狭間の管理人としての役目を果たしているだけでございます」
「他に質問はございませんか?なければこのまま...」
「待ってくれ、1つある。もし試験に落ちたらどうなるんだ??」
「...それは落ちてからのお愉しみでございます」
男は今日一番の笑顔でそう言った。それは俺のことを嘲笑うかのようにそれでいて憐れむような笑みであった。
「詳しいルールや注意点は先程私が読んでいた本の方に記載しております。所持品に入れておりますので、困ったら読むことを推奨します」
「ああ、ありがとな」
「心を準備が整いましたらこちらの穴の方から落ちていただいで大丈夫です」
男がそういうと同時に何もなかった空間に穴が生じた。この穴を落ちれば地上に着くってことか...。
大きく深呼吸をし、覚悟を決める。必ず試験に合格して生き返ってやる。訳もわからないままあの世行きなんてゴメンだ。
「それじゃあ、いってくる!!」
穴に向け足を踏み込む。
「いってらっしゃいませ、どうかご武運を」
落下しながら朧げになる意識の中、最後に見たのは少しだけ悲しそうな顔をした男の姿であった。
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