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傾国の美男子  作者: 空乃明
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ルーウェン様に会っちゃった

「ダンウォール様がお着きになりました。」

「わかった。いくわ。」


瓶底メガ…魔道具をかける。鏡をみると…そこにはまるで『勉強ができそうなガリ勉タイプの女の子』という説明書きがつきそうな女の子が立っていた。


「…。」


これならないほうがましかしら。いえ、でもせっかくご尊顔を拝見できるんですもの。ちゃんと見なければ。こんな機会はもう二度とないのだから。

よし!いくか。と気合をいれてルーウェン様の待つ庭へと向かう。心臓はドキドキと跳ねている。推しメンに会えるのだ。緊張しないわけがない。


「本当に大丈夫ですか?」

緊張しているのがバレたのだろうか。メリーが心配してくれる。

「大丈夫よ。ありがとう。」


だが、メリーの本当の心配の理由は私が緊張しているからではない。私が今日、ダンウォール様と()()()会うからだ。きっと何か粗相をしてしまわないかと心配なのだろう。


普通なら1対1で対話をしたりしない。誰かが一緒に付き添うものだ。対外的には一応加害者と被害者であるのだから。両親もユリウスもそう考えていた。もちろん家族は皆反対していた。だけど、私が二人でなければ会わないと言うと、渋々許可してくれたのだ。近くに侍女たちがついているなら、と。彼らが何を心配しているかわからないけど、こんな私を相手に万が一なんてことは絶対ありえないことぐらいわかるだろうに。


因みに私が二人で話がしたいと言ったのは、周りの言葉ではなく私の言葉としてちゃんと受け取ってほしいから。本人にだけ伝えたいことがあるからだ。

そして、美しいものを見るのに邪魔者はいらない。せっかくなら美しいものだけを見たいじゃない?



緊張と不安が押し寄せる。


もしルーウェン様のご尊顔を見て、()()()()()()()()()()が恨みや憎しみの感情を持ち始めたらどうしよう…とか、そんなことを考えてしまっているのだ。考えても仕方のないことをなのはわかっているし、実際どうなるかわからない。まぁ、それも会えばわかるでしょう。


ドキドキと心臓を鳴らしながら庭へと歩いていく。


庭に用意していたテーブルセットの椅子にはすでにルーウェン様が座っていた。こちらからでは顔は見えない。そよそよと吹く風に漆黒の髪がサラサラと流れている。以前より髪は伸び、身体は一回りも二回りも大きくなっているように感じる。心臓がまるで暴れ馬のように跳ねている。

なんて声をかければいいのか…。だが黙っていても仕方がない。気合を入れて声をかける。


「大変お待たせ致しました、ダンウォール様。」


ルーウェンは席を立ち、ソフィリアの方へ振り返る。その目は一瞬見開かれたが、すぐに痛ましいものへと変わった。

まぁ、このような姿ではね。


そんなことより!!そんなことよりですよ!!

なんてイケメンなのだろうか。

ああ…。幼さは残っているがだんだんと男の人になっている感じがたまらん。とてもかっこいい。その髪色のせいか闇を抱えている感じがもう…なんか危うくてセクシーな感じ。語彙力のなさが恨めしい。それより幼い頃みたいに笑っていたほうが私は好きだなぁなんて思ってしまうが、贅沢は言ってられない。

それよりも私はほっとした。ルーウェン様のご尊顔を見ても、黒いドロドロしたような感情はまったく浮かんでこなかったのだ。本当に良かった。


それにしても、瓶底メガ…魔道具をつけてきて本当によかった。ぐふふ。


おっと忘れてはいけない。謝罪とお礼をまず言わなければ。

「毎月来ていただいていたのに、お会い出来ずに申し訳ありませんでした。そして、高価な魔道具もありがとうございました。」

私は頭を下げながら伝える。


「いえ、頭を下げるのはやめてください。こちらが悪いのですから。お怪我をさせてしまい…あなたの大事な物を奪ってしまい本当に申し訳ありませんでした。」

ルーウェン様の方をみるとルーウェン様も頭を下げていた。その姿勢すらも美しく、ついつい見入ってしまう。


「あ、あの、頭を上げてください。私はもう気にしていませんし、この魔道具があれば目も見えます。以前よりお伝えしていると思うのですが、もう謝罪は本当に結構なのです。」

「…そういうわけにはいきません。女性の体に傷をつけてしまったのですから。」


ナンダッテ。もういいよ~、と直接言えばすぐに了承してくれると思っていたのに。これでは思っていたのと違う。

淡々と話すルーウェン様にどうしたらいいものかと悩む。むむむむむ。


「…と、とりあえず、お茶を用意しましたの。どうぞおかけになってください。」


椅子に座り紅茶を飲む。その所作さえも絵になる。

ずずず。うーん、どうしたものか。


よし。彼の設定を思い出そう。


①感情がないのは過去のトラウマによるもの

トラウマをきっかけに、ルーウェンは感情を押し殺し、感情を表に出すことを徹底的にしなくなった。いつも氷のように無表情で躊躇なく相手に魔術を使う。だから冷酷の魔術師と呼ばれるようになったはずだ。


そのトラウマってなんだっけ?

ああそうだ、確か魔力暴走を起こしてしまったことだ。

ゲームの中では、母親の死の際に感情のコントロールができず魔力を暴走させ、多くの犠牲がでたとされていた。屋敷を全てを破壊し、父も兄も妹も…たしか屋敷にいた者は一人残らず灰と化してしまったと。自分の一時の過ちで多くの犠牲者を出してしまったことが、彼の心に大きな傷を与えたという設定だったはずだ。感情を出してしまったことで魔力暴走を起こしてしまったと考えた彼は、徹底的に感情を殺してしまうようになったのだ。


あれ?だけど私が巻き込まれたあの魔力暴走では被害は殆どなかったって聞いた。敷地の一部は灰と化したけど、あの魔力暴走で亡くなった人はいないと。ん?なんかストーリーが少し変わっている?


でも、規模はゲームより小さいけど魔力暴走は確かに起こった。つまり、あのお葬式での魔力暴走がトラウマになっているんだよね…?


でも魔力暴走は仕方なかったじゃない?と思うんだよね。そりゃ突然大好きなお母さまがいなくなったら心が不安定にもなるでしょう。しかもいろんな噂が飛び交っていたし。だって当時まだ12歳だよ。大人でも完璧に感情をコントロールするなんて難しいでしょうに。


それに私が怪我したのは、私がそこにたまたまいたからだ。彼は悪くない。なぜ魔力暴走の規模がゲームのそれより小さくなったのかはわからないけれど。むしろ私が近くに行かなかったら、彼は暴走しなかったのかもしれないし…。

いや、ストーリー上それはないか。でも規模が小さかったなら、私が傍にいなければもっと被害は小さかったのかもしれない。というか、怪我をしたのは私だけらしいし、探しに行かなければ巻き込まれることもなかったのでは?やっぱり私が余計なことをしてしまったのではないかと思われる。変に真面目な彼はきっと、他人を巻き込んでしまったことを悔いているのかもしれない。


とにかく、体が大きくなるにつれ魔力コントロールは上手くなるはずだと聞いている。それなら無理に感情を殺すやり方をしなくてもいいのでは?と思う。ゲームでは周りに誰もいなくなってしまったけど、今は家族も生きている。頼れる人もいるだろう。魔力コントロールの方法をより早く確実に身に着けることもできるのでは?と思う。


これはファン心理なのかもしれない。勝手な希望かもしれない。だけど思う。魔力をコントロールするために感情をコントロールすることは確かに大事かもしれない。だけど、感情を殺し、そして失くしてしまうのはやめてほしいと。『魔力暴走を起こしてしまった』というトラウマは起こってしまったことなので無くすことはできないだろう。けれど、どうか感情を失くさないでほしい。そして笑顔を見たい。あの麗しい微笑みを!


つい妄想…いや回想してしまう。

うふふふふ。あれは世界の宝だ。みんなであの宝石のような財宝のような微笑みを守らなければならぬと思うのだ!


おっと、話が逸れてしまっている。


とりあえず、私が怪我したことで心の傷が増えているのだとしたらそれは本末転倒である。もしそうなら少しでも心の傷が少なくなるようにしたい。怪我は自分の責任でもあるのだから。

それにはやはり、もう大丈夫だよー!気にしなくていいよー!と彼に訴え続けるしかないのだ。

それに、怪我させた相手を視界に入れておくのも気が滅入るよね。私が怪我をさせた…と自己嫌悪に陥ったりする可能性もある。それは駄目だ。それなら彼の目に触れないところでいたらいいと思う。つまり考えていた通り、もう会わなければいい話なのだ。私もこの姿を見られたくないことから、お互いに利があるはず。よし、これは再度伝えてみよう。

ただ、私の怪我なんてトラウマに関係ないとかだったら意味はないのだけどね!



②傷者の婚約者がいた

ルーウェンには傷者の婚約者と呼ばれる女性がいた。

傷者の婚約者…。傷者ってそういうことよね?襲われたのかしら…。怖いわね。私も気を付けないと。いや、こんな見た目の子を襲う人なんていないわね。ははは。やだ、渇いた笑いが出てしまったわ。


確か、ルーウェンの婚約者ってすごくお気の毒だった印象がある。『傷者の』と呼ばれていること自体がまず気の毒だけど、ルーウェンルートでは彼女は毎回病に倒れてしまいルーウェンとの婚約を破棄されるのだ。



③母の死の真相を探している

母が亡くなった時、死の原因が事故だと聞いていたルーウェン。だが実際は違うということを偶然、葬儀の際に耳にした。察したルーウェンは、なぜ自分には本当のことを話してくれないのだと周りに疑心暗鬼にある。その後、魔力暴走を起こしてしまったルーウェンの周りには、信頼できる人はもういなくなってしまった。


どうしても母の死の真相を知りたい。誰も真実を教えてくれないのならば自分で調べればいい。そう考え、死の原因を探るために、余分なものを排除して勉学と魔術の習得に励む。情報を得るには権力がいる。今の自分ではだめだと我武者羅に力を得ようとする。そしてのちに王国一の魔術師と呼ばれるようにまでなるのだ。うん、すごいね。よく頑張った。



ヒロインはたしか、魔力をコントロールする方法を一生懸命考えるの。特に役には立たなかったけどね。でも自分のために何かをしてくれているという行為が、いつも一人ぼっちだったルーウェンにとっては嬉しかったはず。そして彼女は、そのトラウマを心の傷を一緒に背負うわと言って心ごと抱きしめていた。ルーウェンはその言葉で、心に暖かいものが戻っていったはずだ。ヒロインの言葉は魔法の言葉か?絶対私が言ってもこうはならないだろうな。



…えっと、それで、お母さまが亡くなった原因を一緒に探すんだっけ。でも結局そこに関しては詳しくは描かれてなかったはず。もしかしたら隠しイベントがまだあったのかもしれない…。く…もっとやり込めばよかった!最押しメンだったルーウェンのバッドエンディングを見たくなくて、他4人よりやり込んでいなかった。こんなことになるのなら、もっとルーウェンルートを開拓しておくべきだったなぁ。


後悔先に立たずである。


つまりルーウェンは、ヒロインの一生懸命な姿勢と実直な言葉に心が揺れ、だんだんと感情を取り戻していく。最初はとても嫌がっていたんだけど、嘘偽りなく心をそのまま話すヒロインに、コロコロと表情の変わるヒロインに惹かれていくの。彼にとって恋愛感情も余分なものだったのに、それを忘れるくらいヒロインの直向きな姿にあの可愛らしい笑顔に、凝り固まった心が溶けていく。そしてあの微笑みをこちらに向けてくれるようになるの…!


だけど10年後、ルーウェンは死ぬ。他国との戦争が始まり、その戦禍の中でソフィリアと国を守るために禁忌魔術を使うのだ。禁忌魔術の対価は膨大な魔力と術者の命。ルーウェンはソフィリアと国を守るために自らの命を投げ捨てたのだ。だが、ルーウェンの命も空しく、国は滅亡していった。そして守ったはずのソフィリアもどうなったのかわからない。というエンディングだった。なんでこんなエンディングにしたのだろう。謎すぎる。


そういえば、ルーウェンルートのエンディングでは感情を取り戻した後も魔力のコントロールができていた。つまり、やはり感情を失くすなんて方法でなくても魔力コントロールはできるようになるはずだ!やりかたはもちろんわからないけど。


うーん。①は関われるけど②と③はどうにもできない。私はヒロインではないのだ。そもそも、これで直接会うのは最後にする予定なのだ。それなら彼の心の負担を少しでも少なくしておくことで、バッドエンディングへのフラグにヒビを入れられないだろうか。


…は!!そうだ!彼の死因がわかっているのだから、それならヒロインに攻略された時のために、禁忌魔術を使わないように約束すればいいのでは!?彼は禁忌魔術を使うことによって命を落とすのだ。それならそれを使わないように仕向ければいい。それでバッドエンディングのフラグにヒビを入れられるのでは?!

あれ、私冴えてるんじゃない?うん、それが一番手っ取り早いわね?よし、それでいきましょう。


今までモブの私にフラグなんて折れるはずないないじゃないって思っていたけど、ヒビぐらいなら入れられるかもしれない。そう思うと、少しやる気がでてきた。

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