傾国の美男子というゲーム
『傾国の美男子』
それは私の好きな乙女ゲームの名前である。
主な登場人物は5人の美男子とそれを攻略するヒロイン、そしてストーリーを盛り上げる悪役令嬢とその取巻き。よくある話だった。だが私はこのゲームにはまりにはまっていた。
なぜなら、登場人物のご尊顔がすべて私の超どストライクだったからだ。ヒロインも悪役令嬢すらも美しい。だが、登場する男の子たちは群を抜いていた。『傾国の』というくらいだからそれはもう…男前で…!!!奇跡の存在ともいえようか、いや、神が創造せし美術品といえようか。なんとも形容しがたい、例えるなんておこがましいと思えるほど。絵師様は本当に神様だと思っていたぐらいだから。
ストーリーは糞みたいだったけど、5人の美男子が心から!!本当に!!かっこよくてはまりにはまっていたのだ。だから、全てのキャラを攻略するまで寝る時間も惜しんでずっとゲームを楽しんでいた。あれほどやりこんだゲームはなかっただろう。
ところで私は誰かって?
私の名前は鷹城綾(28)っていうの。今の名前は、ソフィリア・アル・デンパール(13)だけどね。皆さんもお気づきの通り、ソフィリアちゃんに転生してしまったようです。前世の私はどうなったのかわからない。でももう生きてはいないのだろうと漠然とそう思う。ソフィリアちゃんも同様に、あの時に亡くなってしまったのだと思う。ソフィリアちゃんの記憶はあるが、意思を感じないから。
あの時というのは、いずれ説明しなければならないと思うから今は割愛します。
さて、なぜ冒頭で『傾国の美男子』の話をしたかというと、それも皆さんのお察しの通り、そのゲームの世界に転生したからである。このゲームを知っている人はお気づきであろうが、私はこのゲームのヒロインに転生したわけでない。ましてや悪役令嬢に転生したわけでもない。じゃあ誰なの?と言われると、あれだけやり込んだゲームでもあまり記憶にない、悪役令嬢であるエリザベス・テン・デュテロームの取巻きの一人だった。
影が薄く、悪役令嬢の後ろにいつもひっついていたような気はするけどあまり記憶がない。ただ、とあるルートでソフィリアとヒロインとの隠しイベントが1つだけあって、それで顔だけは憶えていた。内容はあまり覚えていない。つまりそれほど重要ではない内容だったのだろう。
この記憶が蘇ったときに私が思ったことは、どうせならヒロインになってあのご尊顔たちを近くで見てみたかった…!最悪、ヒロインじゃなくて悪役令嬢でもよかったのに…!なんでモブなの…!!モブだとあのご尊顔達を近くで眺められないじゃない…!ということだ。だってせっかく転生したのに。それなら好きな顔を好きなだけ眺められる立ち位置にいたいじゃない?うん、それは間違ってないと思う。
まぁそれは置いといて。どこに?とかいうベタな質問もなしでどうかお願いします。
この世界に転生したことが分かったきっかけは何かというと。そのきっかけの一つはソフィリアの弟にある。わかったきっかけというよりは、確信を持ったきっかけね。そこはこの世界の神様に感謝しなければならないのかもしれない。私は一生あのご尊顔達を近くで見ることができないと思っていた。だけど違ったの!
なぜならソフィリアの弟はこのゲームの攻略対象である美男子の一人だったのだ。ゲームには姉との話なんて全くと言っていいほど出てこない。だから知らなかったの。ソフィリアが悪役令嬢の取巻きであると同時に、傾国の美男子が一人ユリウスの姉であることを!!ひゃっほうー!
今目の前のユリウスはまだ12歳。とてもかわいいが、頭もよくてとても賢いの。「おねえさま」とその愛らしい顔と薄い紫色の瞳で呼ばれると、何でも言うことを聞いてあげたくなる。天使か、天使なのか?たまにフワフワの白い羽が見えることがある。もちろん錯覚だ。
…でも、姉になったのだ。時には心を鬼にして姉としてちゃんと駄目なことは駄目って言ってあげないといけない。と思いつつも、私はおおいに愛でることを決意したのは言うまでもなかった。
さて、突然だけどこのゲームの背景と主な登場人物を軽く紹介しておこうと思う。
このゲームの表舞台は、ソニタリア王国という国にある国立ソニタリア魔術学園という学校である。この世界は魔力が存在し、魔法が使えるとされている。因みにこの国では魔術と呼ばれているが、日本のアニメなどでよく知られている一般的な魔法とそんなに変わったイメージはない。
国立ソニタリア魔術学園は、魔力があるものは貴族や平民などの身分に関わらず15歳になる年から3年間入学しなければならない。因みにソフィリアは今13歳なのであと1年ちょっとで入学する予定だった。
このゲームは、その学園でのストーリーだ。
この国にはトップに王族が、その下に王族を支える4公爵家ある。
因みに転生先のソフィリアの家は伯爵家だ。いわゆるお貴族様ではあるが、ソフィリアの家は裕福ではないほうの貧乏貴族だった。
攻略対象である傾国の美男子は、ユリウス以外はこの国で位が高い。
神が創造してくださった1人はこの国の王子様。ソニタリア王国の第1王子殿下であるフェルナンド・アン・ソニタリア。眩いばかりの金髪碧眼を持ち、整った鼻梁にすっとした顎。ああ…これは王子様だ!って、見た誰もが思うでしょう。正直、かなりタイプのイケメンの一人である。
残りの3人は公爵家の美男子だ。騎士一家フォンラトス家の長男であるレオノール・ジィ・フォンラトス。燃えるような真っ赤な髪にオレンジ色の瞳。見た目通り、明るく元気で熱い男の子。真っすぐなその性格と整った容姿に包容力もあり、主に年下から好かれていた印象である。
2人目は宰相の一人息子であるハルムート・フォン・ディスティーア。キラキラと輝く水色の長い髪と蒼と緑が混ざった瞳。少し垂れ目な甘いマスクの彼は妖艶であり儚くもある。器用そうに見えて不器用な彼は母性本能をくすぐられるようなタイプで、主に年上から人気があった。ゲームの中の彼の設定はカップルクラッシャーだった。ただ、ヒロインと結ばれると実は一途だったことがわかる彼。その一途な姿に多くのファンがいた。私はあまり好きにはなれなかったかな。だってヒロインに会うまでの所業が酷すぎた。顔は大好きである。
3人目はダンウォール家の次男坊であるルーウェン・サン・ダンウォール。漆黒の髪に知的な印象を醸し出す深紅の瞳。ゲーム内の彼は、整った容姿だが一切笑わない冷酷の魔術師と呼ばれ恐れられていた。それを少しずつ懐柔して最後に微笑んでくれた時は本当に胸がときめいたわ…!神様…!そのお顔は反則です…!
…おっと、飛んでいた。正直、一番の押しだ。彼らの一家は魔術を得意とする一家であり、皆魔力が高く技術も並外れている。もちろん彼も魔力が高く魔術を操ることができる。
最後にソフィリアの弟であるユリウス。5人の中で最も位が低い。
ソフィリアとは違った美しい銀色の髪に少し切れ長の目には淡い紫色の瞳。今は12歳とは言えない落ち着いた雰囲気があるが、成長してもその雰囲気は変わらない。その顔がふわっと笑って「おねえさま」なんて言われた日にはもう…!そりゃあ…!天使…!
…あっと、また話が飛んでしまったようだ。でもどの美男子も本当に美男子なのだ。
ちなみにヒロインであるメリアーナ・エ・テルノミナは男爵家の娘だ。フワフワとウェーブのかかったピンク色の髪にピンク色の大きな瞳。美しいよりは可愛いと言ったほうが正しいかもしれない。特にその唇は小さく可憐で、だが瑞々しく麗しい。小鳥のさえずりのような可愛らしい声と小動物のような愛らしい動きがまさにヒロインであることを証明しているようだった。
このゲームの攻略対象にはそれぞれ闇があり、その闇を晴らしていくことによって好感度が上がっていく。そして、悪役令嬢にいじめられながらも好感度をMAXにした傾国の美男子とよばれる攻略対象の誰かと結ばれるというストーリーであるのだが、普通のゲームと違うのはすべてがバッドエンドだったということだ。いや、バッドエンドとは少し違うかも?一応結ばれてハッピーエンド!でエンディングに入るんだけど、サービスなのか10年後の2人の様子までエンディングに入っていて。その10年後の様子は、どの男性と結ばれても国が滅びるというシーンが入っているのだ。
しかも攻略された彼らは死んでいく。王子と結ばれれば、王子はぼんくら王となり国が滅び、敵国に王は殺される。レオナールと結ばれれば、国を守ってきた有能騎士がぼんくら騎士となり他国に攻められ国は滅び、戦いの最中に彼は死ぬ。
そんな感じで、結ばれたはいいものの10年後には国が滅び攻略対象が死ぬというなんとも意味が分からない恐ろしいゲームだった。『傾国の』のフラグを回収しているのかもしれないが、ちょっと違う。いや、全く違う。国を滅びさせるかもしれないぐらいの美男子をヒロインが攻略してハッピーエンド!で終わっとけばいいのに。なぜこうなったのスタッフさん!?言っても仕方ないのはわかってはいるんだけどね!?
10年後の様子をあんな悲愴なエンディングとして流すからいけないのだ。なぜ結ばれた10年後に彼らを殺すの!なぜ国を滅ぼすの!?何回やり直しても滅亡&死亡エンディングだったことは確認済みだ。それが嫌で、もしかしたら…と、何回も何回もやり直したのだから。
なんにせよ彼らが死ぬなんて…。絶対に嫌よ。それにはやはりヒロインに彼らを攻略させないのが一番だけども。だけどまだ学園にも入学してないし、攻略対象やヒロインが今何をしているのかなんてわからない…。残念ながら今の私には何もできない。ただ、彼らの闇は知っている。それをどうにかできないかと考えてはいる。何か良い案があったら私に教えてほしい。