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プロローグ

「私メリーさん、今あなたのおうちの前にいるの」


 そうメリーが訪ねてきたのは、二年前の冬のことだった。

 玄関を開けると、小さな身体を震わせながらその少女は立っていた。


「私メリーさん、今あなたの目の前にいるの」

「…………は?」

「私メリーさん、今冷蔵庫の前にいるの」

「ちょ、勝手に入るな!!」


 俺が一瞬呆気に取られていると、少女は俺の脇をすり抜けズカズカと家の中へと入ってきた。


「私メリーさん、今空腹の最中にいるの」

「こらこらこら! 冷蔵庫を漁るんじゃない」


 腰を下ろしておもむろに冷蔵庫のドアを開けると、断りもなく勝手に物色し始めた。

 とはいえ、大学生の一人暮らしでは冷蔵庫の中身などたかが知れている。

 数本のペットボトルと、調味料、納豆と卵、鮭フレークぐらいしか入っていない。

 少女はその虚しい中身に失望したのか、分かりやすくうなだれてみせた。


「私メリーさん、今都会と言う名の砂漠にいるの……」


 相当期待していたのだろうか、冷蔵庫の前で両手をついて、シュンとした表情で床を見つめている。

 何故だろうか、別に俺は何も悪くないのだが、その姿を見ていると居心地の悪い罪悪感のようなものを覚えた。


「……ほら」

「……っ!!」


 仕方なく、戸棚に入っていたカップ麺を取り出し、ポットから熱湯を注いで差し出してやる。

 真っ暗だった表情が、途端に明るくなった。


「わ、私メリーさん、今幸せの真っ只中にいるの!」

「ちょっと待て、まだ生だ」


 受け取ると、躊躇なくほぐれていない硬い麺を頬張りだしたので一応制止しておく。

 こいつ熱くはないのだろうか。

 三分後、六帖間に湯気とシーフードの匂いがたちこめ、その下で麺を啜る音が響いていた。

 自分の顔ほどもあるビッグサイズのカップ麺を、一心腐乱にがっついている。

 容姿には似合わず、お世辞にも上品とは言い難かった。


「わ、わたしメリーさん、むぐむぐ、今、文明の、もぐもぐ、最前線にいるの」

「カップ麺は四十年も前に百福が開発してるよ。それより食いながら喋るな、行儀悪い」


 どんな育ち方をしたのか、あまりこういったインスタント食品を口にしたことがないらしい。

 よほどお嬢なのか、……いや違うな。

 確かに、人形のようなその造形はまさにどこかの令嬢を連想させるが、この少女がそんなに淑やかなものでないことを俺は知っている。

 その食事風景を見届けると、途中で、いや最初から気付いていたことを俺はやっと口にした。


「お前、もしかして昔近所に住んでた……」


 少女は、箸を揃えご馳走様です、と一息つくと、初めてまともな言葉を返してきた。


「さっきから言ってるじゃない。私メリーさん。久しぶりだね、お兄ちゃん」

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