陽キャラたち
「おお、お前髪切ったのか」
隣にいる天堂から声をかけられる。
僕は一番後ろの席にいて、その隣の席が1軍たちの溜まり場になったらしい。
「切ったよ……」
僕は天堂に顔を向けずにそう言う。
そこには姫乃さんもいるからだ。
「お前の顔初めて見たぜ」
そりゃそうだ。
前髪で顔が目元の部分しか見えなかったのだから。
「……髪で見えなかったからね」
「可愛い目してるじゃねえか」
どうやら僕の顔は可愛いらしい。
キリッとした目ではなく、クリンとした目というべきか。
「綺麗な目じゃんー」
そこで声を出したのは姫乃さんだ。
僕の目を綺麗な目と言ってくれる。
すると、それに続いて女子の一軍たちが姫乃さんに同意するように口を揃えて僕の目を褒めてくれた。
僕はその反応に微笑みそうになるのを堪え、次の授業を黙って待った。
変に思われなかった嬉しさに胸を高鳴らせた。
***
「掃除手伝ってやんよ」
「……おお。……ありがとう」
天堂が初めて掃除を手伝うと言い始め、驚きながらも僕は掃除をし続けた。
しかし今日は姫乃さんの姿はない。
今日は放課後、学級委員の集まりがあるからだ。
そして天堂の周りには一軍の女子、その他男子がいる。
僕はただの場違い野郎だ。
なので、僕は一言も話さず、掃除を続けた。
「今日なんかする?」
爽やかイケメンの新城がそう言う。
どうやら僕には入りようのない話をするらしい。
「カラオケ行くのはー?」
1人の女子がそう言う。
そしてそれだけで皆は賛同し、カラオケに行くことに決まったようだ。
そんな1軍の話に興味はないが、自然と耳に入ってくる会話に耳を向けた。
すると、陰キャラな僕でも気になる話が耳に入った。
「それより結愛の元カレってどんなやつか知ってるか?」
天堂からそんな話が切り出される。
姫乃さんの元カレ。
僕はその言葉に耳をピクッと反応させた。
「いたことしか知らないなー」
「うちも元カレがいたってことしか知らない」
別に嫉妬なんかしてない。
姫乃さんに彼氏がいたことなんて、あるに決まってる。
逆にいない方が疑問なくらいだ。
でも……、なんだろう……。
元カレの人が気になる。
やはりこういう陽キャラの人たちはそういった会話をするのだろうか。
「やっぱみんなも知らないのか」
天堂はそこで興味を無くしたような言い方をする。
僕は誰もどんな人か知らない、といったことにため息が漏れそうになるのを我慢するが、気になりすぎて仕方なかった。
しかし、僕が訊いたとしても言ってくれないだろう。
姫乃さんは仲の良い子の人たちにも話していないのだから。
そうして僕にとって居心地の悪い空間は、1軍たちの会話がずっと続き、終わりを告げた。
夕焼けに染まっている外を見ると、心がとても癒された。