髪の毛切ってみたら?
あの会話が初めての会話だ。
急なボディータッチから始まり、今では少しボディータッチが増えている。
僕はその行動に慣れてきつつも、まだ髪の毛で顔を隠しているという隠キャラの状態にいた。
やはり人と話すのは1年もしなければ、慣れなくなってくる。
それに可愛い女子だ。緊張もする。
しかし、今隣にいる姫乃さんからある一言で僕は変わろうとしていた。
「如月くん髪の毛切ってみたら?」
僕の髪の毛をいじりながらそう言ってくる。
今も放課後の掃除の時間。
今日も皆帰ってしまったため、手伝うと言ってきた姫乃さんがいる。
なので、今は僕と姫乃さんの2人しかいない。
気にしてしまう1軍の男子、女子たちの視線を気にすることなく、話すことができる。
それより……髪の毛、か。
「短いのは似合わないよ」
「絶対似合うと思うけどなー」
まだ僕の髪の毛をくるくるといじりながらそう言ってくる。
「髪質もいいし、それに——顔のパーツもいいじゃん?」
「……そうかな」
姫乃さんは僕の顔に近づき、目元を前髪の隙間から見てくる。
前髪越しでも分かる艶やかな頬、それに綺麗な肌にドキリとした。
「うん、絶対そう! 髪の毛切るべし!」
元気な声でそう言う。
「でもなぁー……」
正直……顔を見られたくない。
自分でも伸ばしてきて感じることだが、見えない目元などを見られたくないと思っている。
ここまで伸ばしてしまって、急に短くなったら変に思われる気がするからだ。
「いいから切るの! 絶対そっちの方がカッコいいのにー」
「そうかなぁ」
カッコいいという言葉に反応する僕。
それに——最近ではカッコよく見られたい、と思い始めた。
異性に対して、自分をカッコよく見せたい、見られたい、と思うのは誰でもいるだろう。
女子の目を気にしないで暮らしている人はいない。
なので、僕も姫乃さんにカッコよく見られたい。
でも、正直自分の顔には自信がない。
「約束しよう。今金曜だから来週の月曜までには切ってくる。どう?」
無理矢理な要求をしてくる。
しかし——
「いいよ」
僕はそれを受けた。
カッコよくなるためだ。
髪の毛を切った方がカッコいいと言われれば切るしか選択肢はない。
「はい、約束! 指切りね」
そう言い、僕の小指を姫乃さんの小指に絡ませてくる。
僕は顔が赤くなるのを感じながらも、指切りをして約束をした。
「じゃあまた明日ね」
「バイバイ」
「またねー」
そう言い、都合が良くなったので姫乃さんとは別れる。
背中が見えなくなったところで、視線を小指に移す。
手を洗いたくないな、と感じながらも僕は家に帰った。