ビーチバレーと水着
「私の水着ドキッとした?」
「露出しすぎじゃないか……?」
「そお?」
「うん」
お姉さんキャラではなく、少し子供っぽくなる。
あまり違和感はないのだが、僕からすると、その差はデカい。
「どう? 私たちのグループは。みんな話しやすい?」
僕がこうやってみんなと行動しているのに、不安や悩みなどがないか心配しているのだろう。
姫乃さんは学級委員からか、こうやって僕みたいな人を心配してくれる。
ほんと優しくて、いい人だ。
「大丈夫。僕からしたらこのグループに入れるだけでもいいことだから」
「1年の頃から関わってたら良かったのになー」
そんなことを呟いた。
「1年の頃の僕は酷かったよ」
今考えるとほんとに恥ずかしい。
あんな髪を伸ばして、人と関わらずに毎日を過ごしてきたのだから。
「過去は塗り替えればいいんだよ!」
不意に意味の分からないことを言い出した。
「過去は変えられないけど、塗り替えることはできるの!」
僕は頭の上にハテナマークを浮かべながら姫乃さんの言葉を聞く。
「如月くんが今みたいな生活が続けば、大学生になったとき、如月くんの高校生
活は1年の頃より私たちの生活のことを思い出すでしょ?」
なるほど。
つまり、どちらの思い出が強いか、ということか。
確かに高校生活どうだった、と訊かれたら、僕は1年の頃よりも今のような楽しい生活の話をする。
親にもそう話すだろう。
思い出が強ければ強いほど、暗い過去は消え、楽しく輝いた生活が過去に塗り替えられる。
まあ過去に髪を伸ばして陰キャラだったという過去は消えないが、よっぽど今のような生活よりも輝いている生活はない。
「ほんと信じられないや」
そう思うからこそ、今のような生活があることにびっくりする。
髪を伸ばしていた頃には、視野も閉じ、思考も閉じ、何もかも興味をなくしていた。
だが、今はどうだ。
筋トレをしようと思い、カッコよく見られたいとも思うようになった。
絶対に思わなかったことが、今では思うようになったのだ。
僕にとって姫乃さんの存在や、その周りの友達、井早坂さんや天堂、新城や結衣凛さんに巫さん。
みんながいるからこそ、僕がいる。そう気づいた。
「ずっと一緒にいるのもありかもね!」
冗談なのか、ほんとなのか分からない言葉に軽く頷いてから、僕たちは井早坂さんの元に戻った。
今のような生活を僕は手放したくない。
井早坂さんは女子の中で一番距離が近く感じる存在だ。
姫乃さんはまだ近くになりきれないというか、近くにいてはいけないのでは、と思ってしまう。
だが、井早坂さんのような異性との距離感が近い人は、体の距離が近ければ、他のことも近く感じる。
だから井早坂さんにはこれからもお世話になりそう、そう思っている。
このままこのグループにいるかは分からないが、段々と距離を置かれないように頑張っていこう。
「んっ……! 無理……」
ビーチバレー。
井早坂さんたちはコートの場所や、周りに迷惑のかからない場所を探してくれていたらしく、今僕たちは楽しくバレーをしていた。
僕だけ集中攻撃してくるのはどうかと思うが……。
「おいおい、お前だけだぞ、ミスしてんの」
「女子が僕だけ狙うからだ……」
言い訳は聞かないようだ。
「負けたら奢りだからな」
「はぁ……」
負けたらアイスを奢れと言う。
ここで、よし本気だそう、といっても結局女子が僕のところしか狙わないから意味ないのだが……。
「俺に任せるといい」
爽やかイケメンこと、新城壮士はそう言ってくれた。
腕前の脚の筋肉を使って僕をサポートくれるらしい。
「惚れた」
僕が面白半分でそう言うと、「アハハ」と笑ってニコッとしてきた。
あ、惚れた。
「飛香! 瑠翔のとこ打つのよー!」
「分かったしー」
結衣凛さんのサーブ。
井早坂さんは僕たちに聞こえるようにそう言った。
だが、その方が助かる。
的を絞られている僕にとっては、守るところは1つになる。
そこさえ守ればなんとかなる! ハッハッハ!
僕なんもしないけど。
そして結衣凛さんは僕に目掛けてサーブを打った。
やはりというべきか、僕の顔面目掛けてボールが迫ってくる。
僕は、後は任せたと言いたげに、その場所を新城に譲った。
「ふんっ!」
レシーブをかますなり、汗が飛び散り、前髪が風になびく。
一瞬アニメのスローモーションのように「ふんっ——ふんっ——ふんっ——」とゆっくり映った新城に僕は見惚れていたが、瞬時に意識を取り戻した。
正直吹き出しそうだった。
「ナイスだ壮士!」
天堂が新城のレシーブした球を優れた反射神経で拾いにいき、ネットすれすれのとこに上げた。
僕の出番はないようだ。
僕はカッコよく目を閉じ、なぜか僕が点を決めるようにカッコつけた。
僕はなにをやっているんだ……?」
そして身長差では分がある女子たちは、新城の強烈なアタックに勝てることなく、点を取られた。
「新城くん意地悪だー」
嫌そうな目で姫乃さんは新城を見つめた。
「アハハ。そんなこと言わなくてもー」
運動できるってモテるよなー、ほんと。
羨ましい……。
なのに、彼女とか作んないんだよな、新城は。
「今何対何だっけ?」
7点マッチというルールで僕たちはやっている。
そして僕たちはまだ負けている。
「5対3」
おそらく僕のところで4点は取られた。
意外にも、やる気のなさそうな結衣凛さん、さっきから結衣凛さんにチョッカイをかけている雰囲気だけは清楚な巫さんが上手く機能している。
そして僕たちはあとに2点取られたら負け。
新城ならなんとかできると信じて、天堂のサーブの番がやってきた。
天堂は手加減こそするが、女子の運動能力ではレシーブをするのが難しい。
体育のときでもよくある、サーブだけで終わる試合だ。
僕は女子の緩いサーブでさえ取れなかったのだから。
何回も自分のところにボールがきたが、慣れることができなかった。
現在5対5。
そしてまた天堂のサーブ。
バチんっ、いい音がなったが、天堂の優しさもあり、ただ浮いているボールだ。
「えいっ!」
姫乃さんの可愛らしい声と共に、そのボールを乱暴に上に弾く。
が、あらぬ方向へボールは飛んでいった。
「無理ぃ〜」
目をくの字にして姫乃さんが言った。
「結愛ちんが狙われてきたし」
結衣凛さんはどうやら分かったようだ。
僕も狙われていた分、すぐに分かった。
天堂は姫乃さんを狙っている。
姫乃さんは決して運動神経がいいわけではない。
どちらかというと、結衣凛さんの方が運動神経ではいいくらいだ。
「狙ってたから罰が当たったんだー! わー!!」
巫さんはそれは罰だと言い、「美久ちゃんもサーブで狙ってたでしょー!」と
言いながら追いかける。
そして、そこで天堂の意地の悪さが出た。
追いかけ回している間にサーブを打ったのだ。
井早坂さんは「ちょっとみんな⁈」と大きな声で言うが、誰も拾えないところにボールが落ちる。
「はい、オレらの勝ちー」
天堂は新城とハイタッチをかまし、小馬鹿にするように笑った。
そうして僕たちは暑い中、ビーチバレーをしてたくさん汗を流した。
今、時間的にはちょうど昼間だ。
僕たちは海の家という場所があったため、お金を払ってシャワーを浴びることにした。
この後は、昼ご飯を食べるため、シャワーが終わったら集合ね、と言い、僕たちはそれぞれ男女に分かれて海の家へ向かった。
そうして、僕は男子のシャワー室が混んできたなと思ってきたので、天堂に先に上がってると一声かけてから、僕は一足先に上がった。
すると——
「瑠翔ちょっと来て」
聞き覚えのある声が僕の耳に聞こえた。
そして声の聞こえた方へ振り返ると、井早坂さんの姿が目に映った。
女子たちのシャワー室の方を見ると、列ができていた。
昼間のため、どこか昼ご飯に行く人たちが多いのだろう。
だが姫乃さんたちの姿だけなく、井早坂さんが1人残されていたらしい。
僕は暇つぶしにでもなれたらなと思いながらなぜか壁に隠れている井早坂さんのところに向かった。
少し出ている顔よりも、肩から伸びる虹色のビキニのラインの方が気になった。
「急に…………、ごほん、どうした……?」
僕は角を曲がる……が、井早坂さんの水着を見て咳払いをしてしまった。
だがなんとかしてその先の言葉を出した。
水着を見て言葉を詰まらせたなんて言えないからな。
「……?」
だが、井早坂さんは僕のことを呼んだにも関わらず、僕のオヘソ辺りをじーっと見ている。
「な、なに……?」
僕もそう問うが、井早坂さんは僕のオヘソを、僕は井早坂さんの胸をじーっと見ているという、周りから見たらキモすぎる状況になっている。
しかし、僕たちは同時に我に返った。
口を開いたのは井早坂さんの方だ。
「筋肉すごいわね……。……わぁ————」
僕の腹筋をツンツンと突き、僕の上腕二頭筋をモミモミする。
「ん……」
僕は今上半身裸のため、服の上から触れるのとは違う。
それに井早坂さんの綺麗な爪や、スラリと滑らかに触ってくるやり方に。僕は変な声を出してしまった。
「え」
「なによ、今の声」
聞こえてたかー……。
めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか。
いや、まあくすぐったかったと言い訳すればなんとかなりそうではある。
ちょっと感じちゃって、なんて言えるわけがない。
このグループにいることさえできなくなりそうだ。
「いや……くすぐったくて」
「あーなんだ」
素っ気なく返す。
最近は普通に話すことはできるようになってきたのだが、ボディータッチとなると話は別だ。
だが実際、普通に話すときでも、他の人と違って僕の懐まで入ってまで話してくる井早坂さんに完全に慣れているわけではない。
天堂たちはあの距離感にどう慣れたのかが気になった。
「そ、それでどうして僕を呼んだの?」
僕は本題を切り出した。
なんで隠れる必要があるのか。
「み、見てよ、この水着! どう⁈」
さっきとは打って変わって、なにやら緊張というか、恥ずかしそうにというか、変な雰囲気になる。
そしてその水着——。
レインボーカラーで、そこには花柄がついている。
胸の水着にはヒラヒラがついていて、谷間は見えないが、その見えないからこその膨らみがすごい。
姫乃さんは露出の部分でドキリとし、井早坂さんは色気で攻めてきているといった感じだ。
さっきから心臓バクバクなんだが……。
しかし、僕は頭の中で平常心……と訴えたけ、その調子のまま言った。
「綺麗だと、思うよ……」
テンポこそ悪いが、平常心を保ったまま言うことができた。
「その顔もいいけど……もっとドキッとした顔が見たかった……」
ブツブツとなにか呟いている。
全く聞こえないが、耳の付け根が赤い。
そこで僕はシャワーを浴びれないで待っていたせいか、熱中症とかでは、と大袈裟に慌ててしまった。
「井早坂さん大丈夫⁈ 耳元とか顔が赤いけど……! 熱中症……?」
井早坂さんは僕の言葉を聞くなり、ハッとこちらを振り返った。
「ち、違うわよ! ただ暑いだけだから! 体調とか悪くないし!」
井早坂さんも、僕が慌てているためか、心配しなくていいと必死に訴えかけてくる。
僕は熱中症とか、体調が悪くないということが分かり、ホッとした気分になった。
「ならよかった……」
ふぅ……とさっきまで慌てていた自分に落ち着きを取り戻すように息を吐く。
そして、僕は落ち着いたので、こう言った。
「それで、なんで僕をここに?」
「っ⁉︎ もういいわよ!」
なぜか怒りながら、駆け出して言った。
結局、ここに来てから、水着を見せられただけなのだが、結局本題を聞くことができなかった。
もしかして水着を見せるために? なんて思ったが、そんな井早坂さんは頭のおかしな人ではないと判断して、僕は1人砂浜でみんなを待つことにした。