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遠足スタート

「結愛たちこっち来てるってよ」


 姫乃さんから連絡が来たのか、天堂が僕たちにそう伝えた。


 あれから30分待ったが、女子の水着選びというのはかなり時間がかかるらしい。


 でも、僕たちが早すぎた説もある。

 店に入って5分で僕たちは会計を済ませている。

 いや、これに関しては男子が早すぎたな。


「おっまたー」


 下ネタにも聞こえる井早坂さんの言い方に僕たちはなにも気にすることなく佇んだ。


「おう、いい水着選べたか?」


 おせーよ、とは言わずに、満足できる買い物ができたかを訊く天堂。

 やはりこいつはイケメンだ。


「もちろん選べたわ。ねー?」


 女子たちは目を合わせ、「ねー」とみんなで言う。


「そうか。良かったな。それで飯どうする?」


 そう天堂が訊くと、さっきから飴を舐めている結衣凛(ゆいりん)さんが口を開い

た。


 僕は結衣凛さんの声が意外にクセになりそうである。


「アタシはクレープだし」


 時間帯的には夜ご飯の時間だが……。


「そこはたこ焼きとかでしょ⁉︎」


 それに対し、ツッコミ大好き巫さんがそうツッコム。


「え、アタシはクレープでいいし」


 そこは曲げないらしい。

 飴も舐めていることから、結衣凛さんは甘いものが好物と僕は判断した。


「まあ、とりあえず夜ご飯はここで食べるってことで、バラバラで買いに行く

か」


 天堂が上手くまとめ、それぞれバラバラになる。

 が、僕はまだ食べるものを決めていなかったので、どんな店があるのか見回す。


 すると天堂たちはすぐに店に並んでおり、よくここに来る人たちは慣れてるな、と思った。


 と、そのとき、後ろから姫乃さんの声がした。


「如月くんはなに食べるの?」


 姫乃さんの様子が見えないなと思っていたら、どうやら後ろにいたようだ。

 僕は振り返り言った。


「まだ決まってないんだ」


 前、井早坂さんと行ったときに食べたものを食べるのもいいが、他にもなにか食べてみたい。


「じゃあ私のオススメがあるから付いてきて!」


 そう言い、僕の腕を引っ張る。

 僕はなにも抵抗することなく、姫乃さんに引っ張られ続けた。

 すると、姫乃さんが立ち止まる。


「ここ!」


 と、言い、カレーやステーキが並んでいる店の前に着く。

 この中の商品がオススメらしい。


「ここのね、カレーとトンカツがどこよりも美味しいの! 1回食べたら辞められなくなるよ」


 姫乃さんはカレーの中に別で買うトンカツを入れるととても美味しいらしい。

 確かに美味そう……。デュフフ……。

 危ない危ない、思わず声に出そうだった。


「美味しそう」


 僕はそう感想を言うと、姫乃さんは「やっぱ如月くんは分かってるわぁ!」と大袈裟に言い、店に並んだ。


 そうして僕たちは商品を買い、席に戻る。

 どうやら僕たちが最後だったらしい。


 やっぱりというべきか、みんな麺類やたこ焼きといった中に1人、クレープを片手に持っている人がいた。


 そうして僕たちは遠足の話をしたり、学校の話をしたりと会話をしながら咀嚼した。


 姫乃さんのオススメのカレーはとても美味しかった。


 また行こう、そう思った。


遠足まで残り2週間。

 僕たちは淡々と予定を立て、結局海と水族館を両方行くことになった。

 一番暖かくなる昼に海に入り、その後に水族館に行く予定だ。


 他にも、有名な店などにも回る予定だが、それはお腹の好き具合や気分によるらしく、到着してからいろいろ回ろうという結果になった。


「んで、お前泳げないのか?」

「……」

「お前マジかよ……」


 僕が泳げないことに呆れる天堂。

 そう、僕は泳げない! 


 中学の頃にあった水泳の授業でも僕は泳げない組だった。

 しょうがないじゃないか。別に泳げない人も他にいるだろう。


「えー、瑠翔だけじゃん泳げないの」


 まさかの僕だけだった。 

 井早坂さんはつまらなそうに言った。


 そんなことある……? 結局僕1人になるじゃないか。

 だが姫乃さんは優しかった。


「泳げないだけで水は入れるんでしょ?」


 なにかできることを探してくれるのか、そう訊いてくる。

 僕は泳げないだけで、水は決して怖いわけではない。


 中には海が怖いから、危険な生き物がいるから、と心配になり海に入れない人

がいるが、僕はそうではない。


 普通に海の中で水のかけ合いっことかはできる。


「うん」

「じゃあ別に深いところまで行く気はないし大丈夫でしょ!」 

「確かにそうね」


 おお、嬉しい。

 僕も一緒に遊べるようだ。


「深いところまでボールとかいったらこいつに取らせようと思ったのに」


 そして天堂は僕にボール拾いをさせようとしていたらしい。


 笑いをとっているのか、本気なのか分からない表情で言ってくるため、ツッコ

ミを入れられなかったが、ツッコミ大好きの巫さんが思いっきりツッコんだ。


 ほんとに見た目とキャラのギャップの差がすごい。


「ダメだよ⁉︎」

「分かってるわ」


 そう簡単に受け流す。


「まあ海ではビーチバレーとかもできるしな。そんな遊びでいいだろ」

「そうね。あたしも砂浜でバレーやりたいわ」

「やるときは男子対女子にしよう。4対3だしちょうどいい!」


 確かに僕たちのグループは7人と奇数だ。 


 男子が3人いても少し戦力差があるのでは、と思ったが、実質僕はいないよう

なものなので4対2だ。


 これで負けたら僕責められるんだろーなー。


「そうだな。そうしよう」

「たぶん男子勝つよ?」

「上等じゃない!」


 新城が余計なことを言い、女子に活気が見られた。

 そのため、遠足が楽しみで仕方なくなったらしい。


「あー、早く遠足の日になんないかなー」


 井早坂さんがそう呟くのに対し、


「楽しみだな」


 と、天堂も楽しそうに言った。

 そこで、僕も今回の遠足が楽しみなことに気づいた。


 前の僕だったら絶対につまらないと思いながら行っていた遠足。


 1年の頃にもあった遠足だが、そのときには僕は髪を伸ばしていたことを思い出す。


 陽キャラたちが楽しそうに予定を立てているのを見て、僕は隠れている目を髪の奥から冷たい目で見ていた。


 陰キャラにとってはクソみたいなイベントだったのに————今では天国のような雰囲気だ。


 まだ会話に入っていけるような僕ではないが、楽しそうに予定を立て、予定を立てるごとに楽しみが増える。


 学生で一生味わうことのない感覚に僕は微笑んでしまった。


「なんだその顔。キモイなぁ」


 天堂に顔を見られたらしく、チクチク言葉を使ってくる。

 しかしこれも半分ガチで、半分ふざけて言っている。


 実際ガチでしか言っていないのかもしれないが、僕はこのグループに入ってからそう捉えるようにしているのである。


「え、どんな顔だった?」


 井早坂さんには見られていなかったらしく、僕はホッとした。


「なんか今まで見たことないニヤつきかただったぞ」


 僕はそんなに変なニヤつきかたをしていたのだろうか。


「私は見たよーん」


 しかし姫乃さんには見られたらしい。


 なぜ自慢げに井早坂さんに言うのか分からないが、自慢をするときみたいに言った。


「えー。ずるいっ!」


 そんな井早坂さんは僕のキモイと言われたニヤついた顔を見たいのだろうか。

 正直バカにされる気がするんだが……。


「へへーん」


 どんな顔だった、と何度も訊いている井早坂さんを姫乃さんは「へへーん」と言い、受け流すだけ。


 姫乃さんは優しいから言わないでくれた。

 やっぱり姫乃さんは性格も顔も完璧だ。


 そうして僕たちはいろんな会話をし、ときには遊び、僕は筋トレを毎日し、セットの練習をしているうちに——遠足当日がやってきた。


 僕の思い出作りがここから始まる。


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