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水着

 遠足は学年や学校によって行く時期が異なる。

 初めの方に行って、そこで交友関係を広くする。


 遅めの方に行って、交友関係が広くなっているときに行って楽しめるようにする。


 他にもいろんな目的や事情があるのだろうが、僕はそう見ている。

 現在は夏。 


 強い日差しが僕らを照らしている。

 運動部にとってはさぞ苦しい毎日だろう。


 特に外の部活、サッカーなど。


 日に焼け、真っ黒になっている人もいれば、腕の皮が少しずつ向け始めている人もいる。


 そんな夏にあるイベントが僕らを迎えた。


 ——遠足だ。


***


「オレたちの遠足江ノ島らしいぜ」

「水着買わなきゃー」

「みんなで買いに行く? あ、男子は来ないでね」

「行かねーよ」


 今も僕の隣では天堂たちがそんな会話をしている。

 僕たちの学年では神奈川県の江ノ島に行くことになっている。


 海で泳ぐ人もいれば、水族館でゆっくり堪能する人もいる。

 そんな中、姫乃さんたちは海を泳ぐようだ。


 井早坂さんが水着買わなきゃー、と言っていたのでそうだろう。


 井早坂さんはかなり胸の大きい方なので、露出多めの水着は高校生の男子にとって刺激が大きい。


 まあそれに負けずの姫乃さんも相当大きいのだが。

 それよりも僕は考えなければいけないことがあった。


 遠足が班行動なので、僕がどの班になるか、だ。

 そしてそれも決まっている。


「オレたちも水着買いに行くか」


 天堂が僕と新城に向かってそう言った。

 そう、僕は今回天堂たちのグループと行動することになったのだ。


 まあ1人ポツンと誰か声かけてくれー、と思っていたら姫乃さんが誘ってくれたのだが。ほんとに優しい。


 そんなことで僕たちは天堂たちの班に。


 まだ話したことは少ない、(かんなぎ)さんと結衣凛(ゆいりん)さん。そして新城(しんじょう)


 巫さんはツッコミが大好きな人で、結衣凛さんはおっとりとした感じだ。

 そして僕が話したいなと思っている新城はとにかく爽やかイケメン男子。


 合計7人という大人数で班行動することになっている。

 つまり、僕は今陽キャラのグループにいるわけだ。


 ただ1人浮いているが……。


「瑠翔も一緒に行かないかい?」


 僕の名前を気軽に言い、水着選びに誘ってくる。


「行きたい……」


 僕は弱っちい声でそう答えた。


 姫乃さんや、井早坂さんからはもっと普通に喋れないいのにと言いたげな視線が向けられていたが、目線で無理だ、と返しておいた。


 姫乃さんたちと違って、誰でも気軽にコミュニケーションをとれるような人間

ではないのだから。


 そうして僕たちは明日、ショッピングモールまでは全員で行き、水着を選ぶときは男女別れるという予定を決め明日を迎えた。


 僕は明日新城に話しかけると心の中で決めた。


***


「アタシ胸小さいしー」

飛香(あすか)が言うなぁ!」

「イテッ」 


 コツンと巫さんに叩かれる結衣凛さん。

 確かに胸の小さい巫さんにそれを言ったら間違いなくツッコまれる。


「でも美久も成長したねー」


 モミモミと姫乃さんが巫さんのおっぱいを揉む。


「んにゃ」


 その様子を天堂は横目で見ているようだが、少し顔が赤い。

 こいつ……。


 井早坂さんはというと、今は新城と歩いていて、なにか話しているようだ。

 会話は聞こえないが、ただの日常の話だろう。


 そんな様子を僕は最後尾で眺めていた。

 すると、巫さんをからかっていた姫乃さんが僕の元へ来た。


「どうどう? 放課後の遊びというのは! 新鮮でしょ!」


 今日はテンション高めらしい。


 今こうして後ろからの光景を見て分かるが、ほんとに僕の身にこんなことがあるとは思わなかった。


 クラス替えを見たときにはもっとだ。


 姫乃さんや、天堂、それに井早坂さんなど学校で有名な人が集まっているクラス

を見たとき、僕は終わった、と思った。


 しかし今はどうだ。

 その人たちが僕と一緒にいる。


 こんなに嬉しく、楽しいことはない。


「すごい。僕がここにいていいのかってくらいだ」

「でも如月くんって周りから見たら違和感ないよ?」


 そんなことを言い出す。


「どういうこと?」

「だから、如月くんは天堂くんの顔に負けてないってこと!」


 気を遣ってくれているのか、そんなことを言ってくれた。


「いや……そんなことは……」 

「自信持っていいのに」


 なんでそんな自信がないのだろう、と疑問に思っている感じに言った。


「まあでも、髪切って良かったって思ってるでしょ?」


 それはそうだ。


 髪を切って、環境が変わって、日常が変わって、なにもかもが変わっているのだ。


 それに関しては良いことしかないと思っている。


「ほんと髪切って良かったよ。ありがとう、姫乃さん」


 僕は髪を切るきっかけとなった姫乃さんに感謝を述べた。


 まあきっかけはいろいろあるのだが、一番はカッコよく見られたい。その部分が大きい。


 それは最近では姫乃さんだけに限らない。

 他の女子、僕たちの学校の女子。異性にそう見られたいと思い始めた。


 まあ姫乃さんにそう思われたいという部分がとてもデカいが、僕の心構えは変わってきている。


 女子の目なんか気にしていなかった髪を伸ばしていた頃を思い出すと、今では恥ずかしいと思うくらいだ。


「〜〜っ!」


 そして僕が感謝の言葉を顔を見ながら言うと、急に姫乃さんの顔が赤くなる。


「ど、どうしたの……?」


 僕はなにかあったのかなと思い、そう訊くと、


「……今の顔いいね」


 と、言った。


 髪を切ってからは、顔色や、表情などがよく見えるようになったからか、最近そう言われるようになった。


 毎回そう言われるたびにドキリとするのだが、今回のは今まで以上に心臓がドキッとした。


 そんな会話をしていると、新城と話していた井早坂さんが僕のところへノコノコとやってきた。


「結愛顔赤いけどどうしたの⁈」


 僕のところへ来るなり、姫乃さんの顔が赤いことに気づいたらしい。


「ちょ、時雨ちゃん……⁉︎」


 だが、言われてほしくなかったのか、気づかれたくなかったのか、井早坂さんの口を抑える。


「モゴ……ん……んん……」

「あ!」 

「はぁ!」


 息を止める程、力強く抑えてしまっていたらしく、姫乃さんが手を離すと、物凄い勢いで息を吐いた。


「結愛っ⁈」


 なによ急に、と言っている井早坂さんに対し、「ご、ごめん!」と慌てて返す姫乃さん。


 その後、天堂たちがこちらを向き、恥ずかしくなって逃げるように姫乃さんは

「トイレ行ってくる……!」と言ってどっか行ってしまった。


「瑠翔なにかしたの?」


 姫乃さんの変わった行動に違和感を覚えたのか、井早坂さんが僕にそう問う。

 だが、僕にも分からん。


 どうしたんだろう……。

 僕も不安に思いながら、男女別れて水着選びをすることになった。

壮士(そうし)彼女作らないのか?」

「俺は作る予定はないね」

「つまんねーなー」

「別れたばかりのくせになに言ってんのさ」

「オレたちは別に幼馴染の延長戦で付き合ったって感じだからな」

「そうは言っても少し悲しかったでしょ」


 僕を置いて、2人でそんな会話をする。

 この会話は全部僕に聞こえているのだが、いいのだろうか。


 今の天堂の言葉で分かったが、姫乃さんたちはただ延長線上なだけで、ガチの恋愛というわけではなかったようだ。 


 だが実際、それでもカップルらしいことはしたかもしれない。

 そこで深く考えるのは辞めた方がいいなと思い、頭の隅に追いやった。


「なあ、お前彼女いたことねーのか?」

 

僕のことを振り返って質問してきた。


「あるわけないよ」


 誰1人とも恋愛の経験はない。

 しかし人を好きになったことくらいはある。


 実際、中学の頃に仲の良い女子がいた。が、恋愛には発展しなかった。

 そしてその女の子が初恋の女子だった。


「俺はてっきりいると思ってたね。瑠翔イケメンだし」


 新城が僕のことをそう言ってくれる。

 だが、最近一緒にいるようになった天堂はそうは思わなかったらしい。


「マジ言ってんのか? こいつに彼女なんているわけないだろ。顔は整ってるかもしれないが」


 彼女いるのか、と訊いてきたくせに訊いた本人は、いるわけないと決めつけていたらしい。


 酷いもんだ。

 それより今、僕の顔を整っていると言っていたような……。

 最初の酷すぎる言いように後半あまり聞いていなかった。


「意外と慎弥より早く彼女できたりして」


 冗談っぽく新城が言った。

 そんなことはありえないと口にはしないが、心の中で思っていた。


「なんかありそうで怖いわ」


 しかし天堂はそうは思っていないらしかった。 


「こういう奴に限って急に女連れてくるんだよな」


 飛んだ偏見を喰らう。


「なんか分かるわー」


 そして謎に共感している新城。


「2人とも頭飛んでるよ」


 僕はツッコミのつもりでそう言った。


「おお? 言うなぁガキンチョ。壮士こいつは一発ぶん殴った方が良さそうだ」


 え……? これはノリなのか……?


「そうしよう。俺も今の言葉は納得いかないなぁ」


 コキコキと拳を鳴らす。

 え、ガチ?


 僕は殴りのポーズにも入っていない2人に顔を守るように腕をクロスにして顔を覆う。


 が——

 あれ……? 


 一発も殴ってこない。

 痛みもなく、なにも感じない。


 周りからはショッピングモールということもあり、人の声しかしない。

 僕は違和感を感じそっと腕を広げ、視界を広げる。


「あれ……天堂……?」 


 僕のことを殴ると言っていた天堂たちの姿が目の前にない。


 そこで僕は周りの様子を見ると、遠くでこちらに携帯を向けて笑っている天堂と新城の姿があった。


「あの野郎……!」


 そこで僕は、人が多い中腕をクロスにして1人突っ立っていたということに気づく。


 あの2人がそうさせたのだ。

 クソ恥ずかしい……‼︎

 僕は2人の元へ駆け寄り、文句を言った。


「酷いじゃないか!」

「ハハッ。今のお前結愛たちに送っといたぜ。後ストーリーにも載っけといた」 


 笑いながら、携帯の画面を見してくる。

 どうやらほんとにしたらしい。


「くっ。消せー!」


 僕は天堂の携帯を奪って消そうと思い、飛びかかるが、僕を(もてあそ)ぶかのように新城に携帯を渡して、僕から逃げる。


「まあまあいいだろ。これでお前も面白いってことが分かるじゃねえか」

「そういうことじゃない……!」


 面白いというより、恥ずかしいという思いの方がデカい。

 それに姫乃さんに送られたんだ。変人だと思われるじゃないか!

 そうして僕は頑張って追いかけるが、2人には敵わず、僕の諦めが勝った。


「もういいよ……。好きにすればいいじゃないか」


 僕はプイと顔を背ける。


「アハハ、瑠翔は面白いや」


 新城は僕のことを笑いながら言う。

 天堂が言ったらバカにしているように思うが、新城が言うと違った。


 そうして僕たちは水着を買い、姫乃さんたちと合流することにした。


 しかし女子たちの水着選びはやはり時間がかかるらしく、僕たちは先にフードコートに向かうことにした。


 待ち時間、僕は新城に話しかけることはできなかったが、さっきみたいに触れ合うことができたので、良かったなと思った。


 新城はとても優しく、が、意地悪なやつだと分かった。


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