変わっていく日常
「黒板今日はお前の番な」
「うん」
この会話は何回目だろう。
係が決まってから数週間、それから毎回の授業でこの会話をする。
最近ではその会話もなくなり、僕が何も言うことなく黒板消しをするくらいにまでなっている。
僕は何も言い返すことなく、それに従い黒板を消す。
しかし最近では——僕より前に無言で黒板を消し始める人がいた。
姫乃さんだ。
僕は黒板係なのに悪いと思いながら急いで授業の片付けをしているのだが、姫乃さんは尋常じゃない程早く、僕はそれに追いつけずに黒板消しを先にやってくれていた。
僕はそんな優しい姫乃さんにありがとう、とも言えずに、黒板消しを途中参加していた。
そんな日々が続いていたが、ある日姫乃さんから声をかけてきた。
これが初めての会話だ。
「ねえねえ」
「えっ」
僕は初めて女子に触れられた衝撃に驚き、身を引いてしまう。
「あ、ごめんっ」
「いや……」
姫乃さんは少し悲しそうな顔をしたため、何か言い訳をしようと思ったが、いい言い訳が思いつかず言葉に詰まってしまう。
「な、なに……?」
そんな状態だが、僕はなんとか話を進めようと思い、そう促した。
「あの〜、ごめんね……。天堂くんと一緒になっちゃって。今みたいになっちゃ
うかなとは思ってたけど……学級委員の私が上手くできなかった……」
姫乃さんは自分の行いに後悔しているのか、顔色が暗くなる。
そんな顔色を見て、僕はすぐに言葉を返した。
「いや、僕も悪い。最後まで係決めに参加しないで待ってただけだったんだ。姫乃さんのせいじゃない。僕のせいだよ」
僕は何とか上手く言葉を返せたかなと思い、姫乃さんの顔色を窺う。
するとさっきとは変わった顔色になり、嬉しそうな、今すぐにでも抱きついてきそうな感じになった。
「如月くん! 優しいっ!」
僕の手を握り、顔を近づけてくる。
「……お……、……おう」
僕はその手を振り払えず、顔だけ遠ざけるという、女子に耐性ありませんと言っているような行動に出る。
そして姫乃さんはすぐに手を離してくれ、誰にも見られることなく、終わった。
「如月くんは優しい人だね。また手伝って欲しいとき言ってね」
そう言って、黒板消しを終わらせた僕たちはそれぞれ別れていった。
姫乃さん1軍に、僕はボッチの椅子についた。
これが初めての会話だ。
それからのこと、何かと声をかけてきては、離れていき、手伝ってくれては1軍の方に戻っていくという日々が続いていった。
そんな関係は今も続いている。
そして何かが変わろうとしているのも事実だった。