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井早坂さんの恋愛


「結愛、今日は親いないから平気よ」


 大きな庭を通って家に入るなり、安心させるように姫乃さんに告げた。


「良かった。安心」


 さっきとは違い、いつもの状態に戻っている姫乃さんが胸を擦りながら言う。

 これはほんとに良かったと思っているパターンだ。


 どんな親なのかは気になったが、今日はいないそうなので、また機会があればなと思った。


「んで、今日はなにするかって⁈ 気になるー?」


 僕たちは今日井早坂さんの家に呼ばれただけでなにをするか言われてない。


 家で遊ぶとなると、映画鑑賞とか、ただダラダラするか、怖いものをみんなで

見るとかくらいしか思いつかないが……そうではなさそうだ。


「人生ゲームでーす!」


 ジャジャーンと人生ゲームの素材を出してくる。

 だが、僕はそこで「おー!」と盛り上がることができない。


 絶対に男1人の僕では盛り上がらないと思ったからだ。

 天堂さえいてくれれば、フォローしてくれるし、盛り上げてくれる。 


 男子が僕だけでは絶対につまらなくなる、そう確信していた。

 すると、僕は表情に出てしまっていたのか、姫乃さんがフォローしてくれた。


「如月くん1人じゃキツくない?」


 だが、井早坂さんにとってもある理由でこれをやるつもりだったらしい。


「でも瑠翔の勉強になんない? こういうのって盛り上がるじゃん」


 そうだ。今僕がこのグループにいるのはノリなどを理解するため。


 謎の天堂からの誘いで姫乃さんたちのグループに入り、そういうことを学ぶことになったのだ。


「そういうのは天堂くんがいた方がいいんじゃない? 如月くんも天堂くんの盛り上げ方とか見て学べるだろうし!」


 姫乃さんも折れず、そう説得してくれる。


「……確かにそうね。じゃあ明日するっていうのは?」


 井早坂さんは考え直したらしいが、どうやら今日が無理なら明日という考えになったらしい。 


 ただ井早坂さんは人生ゲームがやりたいだけなのでは……? そう思った

 まあ……僕は明日バイト入ってないけど。


「僕は明日行けるよ」

「天堂くんも明日空いてた気がするよ。ちなみに私も空いてるー!」

「みんな揃うわね。よし、決まりよ! でも今日なにする?」

「私に考えがあるの」


 人生ゲームは明日に決まり、姫乃さんが今日なにするかという問いに手を挙げた。


 顔色からして、姫乃さんもなにかしたいことがあったようだ。

 前から考えていた顔をしている。


「中学生の頃の話とか、黒歴史とか話すのはどう⁈」


 名案でしょ、と言いたげな発言に井早坂さんが子供のようの真っ先に反応した。


「それありあり! さすが結愛よ! 面白そう!」


 そう言う井早坂さんに対し僕は、「それなしなし! ダメだ姫乃さん! つまらなそう!」そう返したかったが、流れに乗るしかないようです……。


 僕の過去の話とかつまらなすぎるし、面白い話なんて僕にはできない。

 おそらくその話題では僕はモブになる気がした。いや、確信……。


 だが、井早坂さんの盛り上がり具合が異常で、僕はその流れに乗るしかなく、逃げることはできなかった。


 そうして僕たちは、クソデカいリビングのソファーに座り、僕たちの過去の話をし始めることになった。


 そして「まずはあたしから」と井早坂さんが手を挙げる。


「あたしの家だしね」


 と謎理論をかましているが、僕は井早坂さんの過去の出来事や黒歴史が気になったので、この後の会話に集中するために神経を研ぎ澄ませた。


「うーん、あたしの過去の話かー。黒歴史とかないんだよねー」

「確かに時雨ちゃんってそういうのないかも。あっても黒歴史をポジティブに考えてなくなってる的な?」


 確かに井早坂さんにはなにも無さそうに見える。


 井早坂さんの場合、性格上なんでもポジティブに捉えそうだし、距離感が近いからか、いろいろと物事に積極的にも見える。


 だが無さそうに見えてあったりするのが面白いのだが、


「考えても思いつかないわ」


 自分でも記憶にないらしく、ほんとにないらしい。


 姫乃さんと井早坂さんたちは同じ中学ってわけではなかったので、井早坂さんが中学に黒歴史的なものがあっても分からない。


 するとなにか閃いたのか、パーっと顔が明るくなった。


「あたしの元カレについて話すのは? よくない⁈ なんかあたしもぶっちゃけたいし!」


 井早坂さんが元カレの話をすると言い始める。


 前の買い物では、井早坂さんは自信を持っていい性格や、顔なのに自分自身では全く自信を持っていないことが分かった。


 重かった、嫉妬深い、そんな理由で自分が恋愛下手くそと決めつけていたが、井早坂さんの元カレの方も気になったのも確かだった。


 なんでこんな女性を手放すのか、僕には手の届かない女子なのに、なんでそんな女性を振るのか、どんなけ欲張りなんだ、とそう思っていた。


 なので、僕は、


「それ面白そう」


 と、言った。


 人の元カレのことを楽しそうに訊くのはどうかと思う人もいるだろうが、井早坂さん自身語りたいと言っているのでそれはいいだろう。


「実は私全部知ってます!」


 姫乃さんには全部話しているようだ。

 まあ知っているのは当たり前だろう。あんだけずっと一緒にいるんだし。


「結愛にはよく話すもんねー」

「ねー」


 2人してニコっと笑う。


「だから結愛にはもう一回話すことになるけど、あたし今語りたい気分だし、付き合ってね」


「もちろん! いっぱい語ろう!」


 語りたい気分というのは分からなくもない。


 僕だって初めて姫乃さんと話したことを人に言いたかったし、こうやって井早坂さんたちとも遊べている状況も誰かに語りたい。


 だが分かる通り、僕にはそんな相手はいない。


 姫乃さんたちにもまだ話しかけに行くことができないくらいだ。しょうがない……でもなんとかしたとは思っている。


 それから会話の流れに合わせて、井早坂さんが語り始めた。


「あたしがまあ、元カレと上手く言ってないこと知ってるじゃん?」

「うん」


 姫乃さんは全部聞いているからか、それはもう僕にしか言っていないようだった。


「それで中学の頃と、高校1年の頃で1人ずついたんだけど」


 どうやら井早坂さんは僕がいる学校の中でも1人付き合っている人がいたらしい。


「まずは中学からね」


 どっちも言うのか。


「中学の恋愛ってさなんか夜会ったりとかそういうのじゃないじゃん? なんか

みんな恋愛に疎い時期でなにも分かっていない頃だったっていうか」


 中学の頃の僕はまだ高校1年の頃みたいにガチ陰キャラではなかったので、少しは周りのことを見てて分かった。


 確かに中学の頃の恋愛は高校とは違うと思う。


 中学の頃にしなかったキスなどは高校になって普通にするようになるといった感じで、中学の恋愛と高校の恋愛、大学まで入れるともっと違う。


 高校の恋愛に対し、中学の恋愛は見てて、ただの男女の遊びにしか見えなかった。


「でもあたしってその頃からみんなと違ってちゃんとした恋愛をしたくて、まあ今考えるとだいぶやばいって分かってるんだけど、……キスとか迫ったわけ」


 少し恥ずかしそうに言った。

 確かに中学の恋愛でキスは少しハードなのかもしれない。


 だがそういったしっかりとした恋愛をする人もいるのは確かだ。


 付き合っていることは隠している人もいるし、中でも意外なカップルだっている。


 その中に、井早坂さんみたいにキスなどをして愛情を確かめ合ったり、安心するようなことをする人もいるだろう。


 ああ……僕一生そんなのできなそう。


「まあそれでキスするじゃん。あ、でもさすがにその後の行為はしてないからね。ただ欲に負けてキスしてるわけじゃないから」


 中学生で性行為をするというのは僕の考えでは絶対に危ないからしない方がいい。


 まだ性に関して知識のない子供達がすることじゃない。

 それは実際高校生でも、と思っている。


 それに高校生になってからただ体目的で女子に近づいている人も中にはいる。


 男子の中で「こいつやれるべ」や「こいつはいけるっしょ」など冗談で話していても、中にはガチでいけるかも、と思っている人もいるだろう。


 だが、井早坂さんは中学生の頃からしっかりとケジメをつけているのか、ただ性に詳しかっただけなのか分からないが、しっかり区切りをつけているようだ。


「そこからなんだけど、あたしね、キスしたことを友達に言ったわけ。それでその噂が本人に知られたらしくて、ふざけんなって言われて別れよって言われたのね」


 続けて言う。


「でもあたし別れるの嫌だったから別れたくないって全力で反対したのよ。マジきもいとか言われてもめげなかったし、とにかくほんとに好きだったから別れたくなかったって感じ」


 前にも言っていた一途というのが今の会話でも分かる。


「それからなんとか別れることはなかったんだけど、やっぱりまあ上手く行かないわけよ。それであたしもダメかなと思って冷めちゃって別れたって感じ。まあ他にもいろんなことがあったけど、話すと長くなっちゃう」


 そう姫乃さんの方を見て笑いながら言う。


 姫乃さんは細かいところまでなにがあったかなど、他にもどんなことをしたりしたのか、など細かいところを知っているのだろう。


 別れた後や、別れる直前の交友関係。友達からはどんなことを言われ、男友達か

らは〜、などいっぱいある。


 今は大雑把に別れるまでのエピソードを話したに過ぎない。

 僕はこの話を真剣に聞いて分かったことがある。


 井早坂さんはとてもいい子だ。


 上から目線なのかもしれないが、バカで勉強には向き合わないのに、恋愛に関してはとても初心でとても一途なところがある。


 そのギャップがすごくいい。僕はそう感じた。

 細かいところまで知りたいと思ったが、まだ高校1年の頃の恋愛の話がある。


 僕はまた今度語ってくれればいいなと、軽い気持ちで井早坂さんの次の言葉を待った。


 だが、

「なんかあたしの話ずっとは飽きるから結愛の番に行こう!」  


 今度は結愛の番とバトンタッチする。


 このまま井早坂さんの話でも良かったのに、と内心思いながらも姫乃さんが今にでも口を開こうとしていたので、僕はそっちに神経を集中した。


 そして——


「じゃあ私は天堂くんとの関係についてね!」

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