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お誘い

「今週の土曜あたしの家に来ない。結愛も来るって。結愛も」


 また1人ポツンと座っていると、井早坂さんが僕に結愛という名前を強調しながら言ってきた。


「行きたいです」


 僕は井早坂さんの罠にまんまと引っかかったようにそう言った。

 それよりも最近になって感じるようになってきたことがある。


 周りの視線。


 こいつ調子乗ってるなという目や、羨ましいという目。それに誰だこいつという目や、女子からでは輝いている目を向けられるようになった。


 そんな目線を気にしていなのか、気づいていないのか、グイグイと井早坂さんが僕に当たってくる。


「結愛がいるからかー」


 こらこらと突ついてくる。


「別に暇だから……」


 他に友達のいない僕は遊ばないときがあったらバイトがあるくらいだ。


「んじゃ、遊ぶわよ。あたしの家デカいんだから!」


 胸を張り、えっへんと自慢している。

 見たことはないが、井早坂さんの家はデカいらしい。

 期待しておこう。


「天堂は?」


 僕は天堂が来るのか気になり、そう訊いた。

 だが、


「なんか他の女の子に誘われたとか言ってたわ。あのクソッタレ」


 その後ブツブツと愚痴を言い始めたが、すぐに我に返る。


「来て欲しかったの?」

「うん、まあ。男子がいると僕も落ち着くっていうか」


 天堂がいるだけでなにか落ち着く。


 天堂が僕のことをフォローしてくれているのか、沈黙が続いていると天堂が会話を続けてくれたり、僕が上手く盛り上がれないときにはツッコんでくれて場を盛り上げてくれたりするので、正直助けられている部分が多い。


「まあいい練習でことで遊ぶわよ」 


 あくまでもポジティブに捉える井早坂さん。


 僕も女子とこれから話していくためには、と思い、これは練習と思うことにした。


「んじゃ、結愛があたしの家知ってるから一緒に来るのよー」

 そう言いながら、友達のところに戻っていった。


 後ろ姿を目線で追うと、なにか追求されているようだったが、僕は目を外して1人ポカンと教室に佇んだ。

 最近シフトを少なく入れているのはなぜだろうか。


 遊びに誘われるのを期待しているのか、それともいつ遊びに誘われても行けるようにしているのか。 


 どっちもだろう。

 こんな日々が来るとは思わなかった。

 目の前の光景に僕は目を凝らした。


「デカくない……?」


 井早坂さんに遊びに誘われ、その場所が

井早坂さんの家ということで今、その家の前に姫乃さんといるのだが……。


 思わず、家を見た瞬間そう口に漏れた。


「あははっ。びっくりしてるー!」


 クスクスと笑ってくる。


 今の姫乃さんは学校のときのお姉さんキャラではなく、笑顔をたくさん見せ、楽しそうにする姫乃さんだ。


 僕はどちらかというと、今の方がいい。

 無邪気な笑顔に癒されるのも確かだし、なにより姫乃さんが楽しそうだから。


「そりゃあびっくりするよ。こんな家に住んでいる人僕の中では初めて」


 普通の一軒家の4倍近くの広さがある。

 門があり、奥に家がある状態。いわゆるお城というものだ。


 家の中まで行くには、大きな庭を門から直線で歩くという構図だ。

 僕はそんな光景を眺めながらもチャイムを鳴らした。


 するとすぐに「ちょっと待ってー!」と家の中で大きく叫んでいるのか、豪快な声がチャイム越しに聞こえた。


「あんな叫んで親に迷惑じゃないのか……?」

「まあそういう家庭だからね。両方癖が強いっていうかね。行ったら分かるよ!」


 いろいろ言いたいことがあるように見えたが、多すぎて諦めたようだ。それで

最後に行ったら分かるとまとめた。


 しかし姫乃さんが「それより」と言い、僕の服装をじーっと眺める。


「その服どうしたの⁈ 前はそんな整った服装じゃなかったじゃん! え……え、も、もしかして好きな人できたとか……? いや、まさかね……。ま、それより! 特にこ、このネックレス似合ってる!」


 じーっと眺めていた状態から、今度は攻めの姿勢に入っている姫乃さん。


 急に変わるテンションにはついていけなかったが、服装を変えただけで人がこんな反応をしてくれたのが少し嬉しかった。それに姫乃さんにだ。それがもっと嬉しかった。


 しかしそんな道でそんなことをされるのが恥ずかしかった僕は姫乃さんの肩に手を置き、落ち着くように促した。


「ひ、姫乃さん?」

「んにゃ?」


 僕がそう呼びかけると、姫乃さんは素っ頓狂な声が漏れ、すぐに我に返った。


「あ————」


 心ここにあらずの表情でそう声を出し始めた。


「姫乃さん落ち着いて⁈」


 完全に無の表情なので、慌てて呼びかけた。


「私……恥ずかしいっ!」


 そう言いながら丸くうずくまった。 


 姫乃さんもこんなになると思っていなかったのか、自分がやっていたことに気づき、恥ずかしいと思っているのだと思う。


 が、あの表情もまた無邪気でなにかに夢中になっているような瞳にはかなりドキリとした。


 そんなことがあったが、奥から頑張って走ってきたのか、ゼエゼエ言いながら井早坂さんがやってきた。


「え、あんたたちなになってんの?」

「如月くんが私をいじめた……」

「はぁ⁉︎」


 急に意味の分からないことを言い出す姫乃さんだったが、その後は落ち着いて井早坂さんの家に入った。


 ——姫乃さんはたまあにおかしな所がある。よし、把握。

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