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カラオケ

 カラオケの日がやってきた。 


 朝起きると、今日はカラオケに行くのか、とすぐに考える程、頭の中はカラオケでいっぱいだった。


 顔を洗い、頭を覚醒させる。

 今は覚醒させたくなかったが、習慣なのでしょうがない。


「歌いたくないなぁ」


 顔を洗って僕はそんなことを呟く。

 姫乃さんに歌音痴と言われるかもしれない。


 僕はそういうカラオケとか、みんながするような遊びに、知識が技能が豊富ではないので、歌なんかうまくはない。


「絶対みんな上手いじゃん」


 前にもカラオケ行こうとか言ってカラオケに行っているらしかった。

 確信する。


 絶対僕だけ浮く。


「はぁ……」


 僕は思わず重いため息を吐いた。

 すると今起きたのか、姫乃さんからメッセージが届いていた。


『おはよ! 今日カラオケだねー。楽しみ!』


 長文ではなく短めの文章。

 顔を合わせないだけでも分かってしまう。


 姫乃さんは結構楽しみにしているんだと。

 友達の井早坂さんたちと遊ぶのが楽しみなんだろう。 


 僕は、正直行きたくない、なんて送れずに、僕は携帯をタップした。


『僕も楽しみ』


 既読がついたが、返信はなく終わった。


 なんか怒らせたかな、と普通は思わないのに思ってしまい、ソワソワした気持ちで学校に足を向けた。


***


「じゃあ俺たちは行くか」


 カラオケには1軍のメンバー全員が行かないらしかった。

 天堂の他に男子が新城と爽やかイケメンがいるが、今日は用事があるらしい。


 他にも女子が2人、(かんなぎ)さんと結衣凛(ゆいりん)さんがいるが、カラオケに行くと決める前から約束をしていたことがあるのか、今日は行けないらしかった。


 それで、電車登校の井早坂さんがニケツでカラオケに向かう。


「姫乃さんニケツできないんだね」


 まあ俺もできないけど。


 姫乃さんも自転車登校だが、井早坂さんを前に乗せ、姫乃さんが後ろに乗って

いる。


「如月くんもできないでしょ?」


 天堂がいるからか、雰囲気がお姉さんだ。

 それに痛いところをつかれる。


「まあね……」

「ほらやっぱり」


 そうして僕たちはカラオケに着き、かなり大きめの部屋に案内された。


 4人にしてはデカすぎるな、と思ったが、この大きい部屋しか今は空いていないらしかった。


「飲み物どうすっか」


 飲み物は1人1つ頼まないといけないらしく、天堂が僕たちを見てそう言った。


「あたしオレンジジュースー」

「私もオレンジジュース」

「じゃあ僕も」 


 僕は姫乃さんたちに便乗する形で言う。


「じゃあオレンジジュース4つでお願いします」


 天堂も僕と同じなのか、炭酸ではなく、オレンジジュースを選んだ。 

 さりげなく注文したな。


「じゃ、あたし一番最初に歌いまーす」


 そう言い、一番にマイクを握る。


 座り方では、左から井早坂さん、僕、姫乃さん、天堂という男女バラバラの座り方になってしまった。


 部屋に入ってから、姫乃さんが後ろから「はい詰めて詰めてー」と押され、この形になったのだ。


「時雨ちゃんの次は如月くんだからね?」

「え……マジ……?」


 井早坂さんが曲を追加しているときに隣からそう告げられる。


「左から歌う順番だから」


 姫乃さんたちがカラオケ行くときにはそうしているのか、僕の知らないルールを使ってくる。


 あ、だから井早坂さんは一番最初に部屋に入ろうとしたのか。

 僕は隣の井早坂さんを見る。


「な、なによ急に」


 僕が急に見つめ始めたもんだからか、目を細めながら言った。


「いや、なんでも……」


 僕も気恥ずかしくなり、前を向き直して言った。

 それから井早坂さんの超絶上手い歌が披露され、僕の出番がやってくる。


 ハードル高すぎだろ……。内心そう思いながらも、最近聞いている曲を入れた。


「へー。あんたってそういうの聴くんだ。意外」

「お前がヒップホップか?」


 そう、僕が入れたのはヒップホップだが……。なんでそんな反応をするんだ? 


 天堂だって前に聞いていたじゃないか。


 僕はそれで一軍にいる人たちはそういう系の歌を聴いていると思って、昨日いっぱい聴いてきたのに……。


「?」


 僕はそんなみんなの反応にハテナマークを浮かべた。


「その顔ウケる」


 そんな僕の顔に井早坂さんが笑い出した。

 そこで姫乃さん口を開く。


「如月くんがヒップホップかぁ。しかもカラオケで、ふむふむ」


 ふむふむ、と頷いてみせる。


 確かに僕もこんなものをカラオケで歌うのか、と思ったが、天堂よりも先に僕

の出番が来てしまったので観察できなった。


 天堂が先に歌えば、男子がカラオケでどんな歌を歌うのか分かったのに……。


「やっぱ変える……」


 僕は自分がおかしいということに気づき、曲をキャンセルする。

 が、その手を姫乃さんが止めた。


「歌ってみなよ」


 腕を触れたことにドキリとし、一瞬動きが止まる。

 僕はすぐに我に返ったが、みんなが僕の方を見ているのに気づいた。


「いいぜ。俺もその曲聴いてるし、俺も歌うわ」


 すると天堂の優しさなのか、僕と一緒に歌ってくれると言いだす。


「いいわね! じゃああたしも途中で交代するー」

「じゃあ私も」


 すると井早坂さんも、姫乃さんも「この曲好きだし」と言ってそう言ってくれた。


 僕はキャンセルをせずに、曲が流れるのを待つ。

 僕にはノリきれない、盛り上がる曲が流れ、みんなソファーの上で靴下になり

ジャンプする。ただ真似するようにだが。


 そしてマイクを途中で井早坂さんに()られたりしながらも、僕は天堂たちに混ざって盛り上がった。


「いやぁ、やっぱ盛り上がるわね! この曲」

「この曲知ってるの?」


 僕は一曲歌い終わった後、そんな疑問を口にした。


「そりゃね」


 あたしたちこの曲毎回歌うし、と言う。


「そうなんだ」


 だから天堂がよく聴いていたのか、と納得した。


 僕はこの後、歌が下手とか、恥ずかしとか思うことなく、みんなと盛り上がることができた。


 ときには僕らしくない笑顔で笑ったり、ときには僕だけ盛り上がらないのも、と思い一緒にワイワイ言ってジャンプしたりと、たくさん盛り上がった。


 そして——


「あんた意外と歌上手いんじゃない? 結愛もそう思わない?」

「私も思った。如月くん歌上手だよ」


 お姉ちゃんはいないが、お姉ちゃんに褒められた気分になる。


「もしかして昨日1人カラオケで練習してたりして?」

「まさかー」


 井早坂さんは目を細めながら疑うような目をしてくる。

 そして姫乃さんまで、まさかーと盛り上げるように言ってくる。


「してない!」


 僕はそんな考えをされるのが恥ずかしく、強く言い返してした。


「そんな冗談だってー。これもノリよノリ。こうやって盛り上げるのよ」

「こいつにはまだ早いだろ。まだ人と話すことにも抵抗あるんだからよ」


 天堂は庇ってくれているのだろうが、その言葉の現実が確実すぎて胸に刺さる。


「痛いところ突くな……」

「思い知った方が変わりたいと思い始めるだろ?」

「まあ確かに……」


 またまた天堂の優しいところが出る。

 わざと僕のダメなところを言うことで僕がそのことを思い知ると。


「ハハっ。面白い。その顔いいな」


 僕の顔に天堂までもがバカにする。


 姫乃さんにも、井早坂さんにも僕の表情でバカにしてくるので、正直嫌なんだが……。


「やっぱ瑠翔の表情見てて面白いわよね。こう、なんか初めて見る顔が楽しいっ

ていうか……伝わる?」

「意味が分からん」


 井早坂さんの語彙力の無さに、呆れたように天堂は答える。


「私は分かるよ。あれでしょ。顔が面白いっていう——」

「もっと意味分からん」


 おい、それはもう僕の顔自体をバカにしてるぞ。


 顔が面白いなんて人に言うもんじゃないと思う。うん。顔を見られて笑われた気持ちになってほしい。


 そんなことをカラオケの後話していると、時刻はもう21時を上回っていた。

 放課後の遊びだったからか、休日とは違いゆっくりとした時間ではない。


 僕はいつもの平日より時間が進みのが早いなと体感で感じた。


「そろそろ帰るか。時雨も時間やばいだろ」

「うん。あたしそろそろ帰らなきゃ」


 井早坂さんは意外にも門限があるらしく、帰らないと、と言う。


 偏見かもしれないが、井早坂さんは夜遅くまで遊びまわっているイメージだったため、その考えは改めされた。


「電車の時間は分かるか?」


 天堂が親切にそう言いながらスマホを操作する。

 電車の時間を調べてくれているのだろう。


「あと5分後に電車来るぞ。今からなら間に合う」

「マジ! ありがとう!」

「おうよ」


 カラオケは駅近にあるので、歩いて3分くらいで駅に着く。


「じゃ、バイバイ!」


 井早坂さんは手を大袈裟に振りながら少し小走りで駅の方に向かった。


「じゃあ俺らも帰るか」


 天堂は姫乃さんのことも心配したのだろう。


「そうね」


 姫乃さんは天堂に返事をし、自転車に(また)ぐ。

 僕たちは暗い道を通っていき、別れ道で僕は天堂と姫乃さんと別れる。


「またね」

「じゃあな」


 天堂と姫乃さんに最後にそう言われ、僕は「じゃあね」と返した。

 家に着くなり、井早坂さんからメッセージが届いていたことに気づいた。


『明日暇?』


 なんの意図か分からないが、そんな短いメッセージに僕も短く返した。


『暇』


 今日の夜もあまり眠れなかった。


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