再開
「勉強するわよ〜っっ。ぐぬぬ」
歯を食いしばり、僕の腕を引っ張りながら言った。
結局、勉強の雰囲気にならなくなったため、僕と姫乃さんは勉強をやらないことにし、前に僕の家で見た映画の続きを見ることにした。
しかし、井早坂さんは勉強をしたいのか、焦っているのか、僕のことを引っ張り「勉強教えるって言ったじゃない!」と鼓膜の奥にまで聞こえる声で言っている。
まあ姫乃さんの秘密を知りたい気持ちがあるが、こんなに焦っているのだから、また勉強会を開くのでは、という甘い考えがあった。
「ねーえ。教えてよー」
僕の腕を、教えてくれるまでやり続けるから、という気持ちのこもった引っ張り方をしてくる。
こいつ……諦める気ないな。
「もういいわよ」
すると、ふんと言いながら僕のところから離れていった。
どうやら諦めたらしい。と、思ったが違った」
「結愛〜。瑠翔使えないから勉強教えてー。ほんとにやばいの、ほんとに。これじゃみんなと遊べない」
僕にではなく、姫乃さんに助け舟を出した。
「私勉強困ってないのー」
意地悪そうな顔をしながら姫乃さんは言った。
姫乃さん……君はSなのか……?
誰も助けてもらえなかったら井早坂さん拗ねるんじゃ……。
そして僕の予想が当たり、井早坂さんは「もういいわよ! 自分でやるし!」といって、映画の音声がなるワンルームの家で鉛筆をカリカリし始めた。
しかし顔には眉間を寄せ、集中できていない様子。
そこで僕はタコパという初めての体験で、鈍っていた体を起こして立ち上がった。
「勉強するかー」
僕は独り言のように言ったが、それが井早坂さんには希望だったのかもしれない。
まるで、超絶可愛い赤ちゃんを見たときみたいに、瞳を輝かせて僕の方を見た。
すると、姫乃さんも映画を見ていたが、テレビを消し立ち上がりながら言った。
今度は姫乃さんの方に目を受ける井早坂さん。
また輝かせているのだろう。
そして僕は犬みたいだな、といった感想を頭の中で思いながらも勉強道具を準備した。
机は狭いが、3人で勉強するスペースはある。
それに僕にとって、女子の距離が近いのは嫌だが、席を立つことなく勉強を教えられる距離感にあるため、非常にやりやすい。
座り方も、先生と生徒の形で、僕と姫乃さんが隣で座り、対面に井早坂さんがいる形だ。
ここで井早坂さんが隣だったら、距離感が近いため集中できなかっただろう。
「じゃあ問題解いていって分からないところがあったら質問するって形でしよう!」
姫乃さんはまるで家庭教師のように言った。
それに大人びた美しい容姿から家庭教師という姿は妙に様になっている。
そんな感想を抱きながら、僕たちの勉強会が始まった。
初めての勉強会というイベントに僕は胸を高鳴らせた。