学級委員の女子
高校2年生の夏———
「如月さーん、黒板係よろしくねー」
そうどこの誰の声かも分からない人が、そう言ってくる。
そして黒板係のところに記載されている僕の名前、如月瑠翔の他に、もう1人の名前がある。
しかし、そのもう1人の人は決して黒板係の仕事をしようとはしない。
陰キャラの僕に、それを任せるだけだ。
「はーい」
僕はそれに答え、黒板に書かれているものを消す。
こんな毎日がもう1年も続いている。
今では高校2年生になってしまい、高校1年の頃はつまらない1年を過ごしてきた。
何もいいところのない陰キャラな僕は前髪で顔を隠し、誰とも喋らないで学校生活を過ごしていた。
そんな高校1年がもう終わり、高校2年生の夏にまでなってしまっている。
そして高校2年生になり、クラス替えから約3ヶ月。
1年の頃と変わったとすれば———
「如月くん、私も手伝うよ」
そう、この声の存在だ。
彼女の名は———姫乃結愛。
このクラスの学級委員の立ち位置にいる女子だ。
色白で目鼻たちのくっきりした美しい顔。笑顔が可愛く、このクラスでも中心にいる女子。
こんな僕が話せるような人ではない、高嶺の花の存在だ。
「いつもありがとう」
そして毎回とは言わないが、なぜか僕の黒板消しの仕事を手伝ってくれる。
正直嬉しいのだが、このクラスで何の目立ちもない僕に話しかければ、姫乃さんの評判が悪くなってしまう。そう毎回思っている。
しかし、僕は話しかけない方がいいよ、とは言えず、いつもいろいろ手伝ってもらったりしている。
そうして黒板消しをし終えた姫乃さんはいつも一緒にいる友達のところに戻っていく。
高校1年で友達作りに失敗した僕は、姫乃さんみたいに友達に恵まれた学校生活を送れなかった。
いや、姫乃さんは恵まれたんじゃない。
姫乃さんと僕は違う。
僕に友達ができたら恵まれたとなるが、姫乃さんみたいな中心に立つ人に友達ができるのは恵まれたわけじゃない。
姫乃さんみたいな美しい顔に、こんな何もいいところのない僕を手伝ってくれるという優しさがあるからこそ友達と巡り会えるのだ。
そんな恵まれているという簡単なことで収めてはいけない。
姫乃さんだって友達作りのため、皆の中心に立ち、化粧だって少しして美力に力を入れて努力しているのだ。
そんな姫乃さんに対し、友達作りに失敗した僕は髪を伸ばし続けている。
比べられないな……。
そんなことを考えていたが、学校はもう終わり、放課後の掃除がやってきた。
また1人だ。
しかし———
「もぉ〜。また1人でやってる。皆にしっかり言わないとダメだよ」
廊下から姫乃さんがやって来た。
足音を聞いて姫乃さんだとは思っていたけど、正解だったようだ。
「皆帰っちゃった」
前髪から薄っすら見える姫乃さんを見てそう言った。
「そんな暗い声で言わないの。私も手伝うよ」
「いや……」
僕は断ろうとしたけど、姫乃さんの言葉に遮られる。
「友達は先帰ったからさ。ほらやるよ」
「……ありがとう」
結局、姫乃さんに手伝ってもらうことになり、1人ではなく、2人で掃除をした。
そうして掃除が終わった僕たちは別れの挨拶だけして別れる。
僕も何もすることはないので、大人しく帰ることにした。
掃除を手伝ってくれる姫乃さんがいるだけで思う。2学年になってから生活がかなり変わったと。
今のように話しかけてくる人もいなければ、2人で掃除をすることなんてなかった。
それに高校1年の最初は顔を隠すような髪はしていなかった。
友達作りに失敗した僕は、髪を切るのも面倒くさくなり、女子からの目線なんて気にしなくなり、髪を伸ばした結果こうなったのである。
だが1年の頃とは違うことがある。
姫乃さんの存在。
学級委員の立場で、学校でもカースト上位に位置する存在。
こんな周りに興味を無くした僕でさえ、姫乃さんの存在は知っている。
それほど学校では目立ち、美しい人は姫乃さん以外いない。
そんな存在がいるだけで僕は———何かが心の中で変わっていっている気がした
なんだろう———かっこよくなりたい。そんなところか……。
そう思い始めている気がする。
それは姫乃さんが話しかけてくれるようになったからだと僕の中でも思っている。
そしてあれは初めて姫乃さんが話しかけてくれたとき、2学年になったときだ———