秘密のやりとり
また学校生活が変わった。
姫乃さんから距離を置き、こちらに歩いて来るときには逃げるように廊下に出ていく。
そのうち、姫乃さんも何か思うところがあったのか、僕に話にくることが無くなっていった。
しかし——僕たちはメールでやりとりをしていた。
誰かの目から逃げるようにやりとりをするのは、スリルがありソワソワしたが、そんなものは姫乃さんとやりとりをすることで消えていった。
『如月くんってバイトやってないのー?』
前に、姫乃さんの友達の中継役で連絡先を交換してよかったと思っている。
僕は理由こそ言っていないが、姫乃さんに直接話すのは控えてほしい、とメールで送った。
姫乃さんは追及することなく、僕の無理矢理な要求に応えてくれたのだ。
『やってるよ』
『意外! コンビニ?』
『飲食店』
僕はコンビニではなく、飲食店でバイトをやっている。
クレープ屋だ。
『もっと意外! 実は私してないんだー』
そして僕が飲食店でバイトをしていることに驚いているようだ。
『クレープ屋おすすめだよ。先輩たち優しいから』
僕はそこで自分がしているバイトを進めた。
『え! クレープ屋でバイトしてるの⁈ 可愛い笑笑』
最後ほんとに笑われている気がする。
『甘い食べ物好きだから』
『私も好きよ! でもバイトかー。今は友達と遊ぶ時間が無くなるの嫌だなー』
バイトをやっていたら、他の友達と予定を合わせるのが難しくなるだろう。
それに、姫乃さんたちの友達までバイトをしたとなると、友達全員集まって遊ぶというのはほぼ不可能になる。
友達のいない僕にとっては気にすることのないことだ。
『ならしなくていいと思うよ』
僕はすぐ既読をつけ、そう送る。
姫乃さんもすぐに既読がつき、返事が返ってくる。
そうしていろんなやり取りを続け、寝る時間になったので、お互いおやすみ、
といって連絡が途絶えた。
最後に送った僕の文字に既読がつき、明日の朝おはよう、と送ると決め、眠りについた。
***
『おはよう』
『おはよう!』
朝起きて、すぐにそうメッセージを送ると、朝なのに元気な返事が返ってきた。
今日は休日だ。
バイトもないため、1日暇になる。
なので、僕は学校で話せないなら、外でゆっくり話せないかなと思い、遊びに誘ってみようと思った。
恋愛初心者はこういう慎重感がないのかもしれない。
『今日って何か予定ある? 天堂とかと遊んだりする?』
遠回しにそう訊く。
今日遊べる? なんて僕には言えない。
しかし、おはようの返事はそぐに返ってきたが、この返事はすぐには返ってこなかった。
その時間が5分。
僕にとっては長かった。
『ないよー。 今日は遊ぶ予定なし!』
そこで恋愛初心者の僕は、クラスでは少し話すようになったし、と思い、こんなにすぐに遊びに誘ってしまった。
『じゃあ今日遊べたりしない?』
姫乃さんからはキモがられていたかもしれないが———
『いいね! 何かしたいことあるの?』
姫乃さんは僕の誘いに乗ってくれた。
僕は心の中でホッとした気分になりながらも、返信を考えた。
別にやりたいことはないので、何をするか……。
どっか出かけるとなると、ゆっくり話せないのかもしれない。
そもそも、今はただ姫乃さんと話したいだけ。
学校で話せないのを知って、それなら休日話せばいい、と考えた僕はバカバカしいが、それしか思いつかなかった。
なので、ゆっくりできる場所、それは———
『僕の家は?』
女の子を家に誘うという、陽キャラのすることをしてしまう。
こんな僕の家に入る人などいないか、と文を送ってから思った。
しかしもう遅い。
既読が即ついてしまったのだから。
そして携帯を眺めること、数秒。すぐに返事が返ってきた。
『いいよ! でも私如月くんの家分からないよ?』
まさかの承諾。
承諾してくれたことは嬉しいが、もっと警戒して欲しいと少し思った。
まあ僕なんか警戒する必要はないか。
それより、姫乃さんは僕の家を分からない。
でも実は僕、姫乃さんの家を知っている。
ストーカーとかではない。
意外にも家が近かっただけだ。
だが、分かりやすい集合場所が近くにないため、僕たちの最寄り駅に集合することにした。
『恋駅集合に集合しよう』
待ち合わせ時間も送り、そう伝えた。
『おっけー』
姫乃さんもそう了承してくれ、今日の午後遊ぶことに。
こんな急な予定ではあるが、今日の午後が楽しみになった。
僕は鏡に向かい、セットをした。