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9:忍び寄る影




「一ノ瀬……おまえ、苦労してたんだなぁ……」


「えぇ、まぁ、そういうことっす……」


 ――三嶋先輩が活動に加わってから数日、彼女は俺のことを理解してくれた。

 なにせ何をやっても恐がられるんだからなぁ。三嶋先輩もいつの間にか俺の性奴隷だとか愛人だとか言われている手前、周囲の反応には一緒に呆れてくれている。

 彼女は部室の椅子にどっかりと座り、不満そうに腕を組んだ。


「よくわかった、おまえは無実だ。むしろ真面目で常識的ですらある。……はぁまったく、一緒に少し過ごしているだけでおまえの女扱いされるとは思わなかったぞ……」


「すみません、先輩には不快な思いを……!」


「あぁいやっ、一ノ瀬が悪いんじゃないんだから謝らないでくれ! それに不快と思うほどでは……ってそれはともかく、何だか少しおかしい気がしないか?」


 ふと、先輩が気になることを言ってきた。

 おかしいってどういうことだ? 不思議に思う俺に代わり、盾持さんが口を開く。


「それはつまり、誰かが意図的に一ノ瀬先輩の悪い噂を流しているとでも?」


「そういうことだ。だっておかしいだろう? 一ノ瀬が校内の清掃や草抜きなどに努めていた光景はそこそこの人間に見られているはずだ。

 しかし噂を集めてみると、そのへんの善行は『以前の暴力事件の罰として指導部から命じられ、嫌々やっている』ということになっており、それを塗り潰すように私たちと淫行しているだの悪い噂だけをぎっしり流されている」


 うげっ、俺の頑張りって指導部からの罰扱いで済まされてたのかよ。そりゃあ誰もイメージの改善なんてしないはずだ。

 三嶋先輩の話にムッとする盾持さん。愛理も机をドンと叩いて怒りを露わにする。


「なによそれっ、情報操作ってやつじゃない! 誰がユズルのイメージを悪くしているのよッ!?

 そんなの絶対に許せないわ……ユズルは正義のヤクザなんだからーっ!」


「ってヤクザじゃねぇよッ!? というかヤクザの時点で正義じゃないだろ!」


 相変わらず頭のネジが抜けてんなぁこいつは……!

 それに愛理がちょくちょく抱きついたりしてくるからこれみよがしに淫行してるとか噂を立てられたんじゃ……ってそのへんはまぁ黙っておいてやろう。

 きっぱりと拒絶しない俺も悪いところがあるしなぁ……男だからしゃーない。


 ってそれはともかく、じゃあ誰が俺のことを悪く思わせているかって話だ。

 元々こっちは顔付きのせいで印象が悪いんだ。悪者をもっと悪者にしたところで、メリットがあるやつなんていないだろうに。


 まったく相手が思いつかず、みんなで「う~ん」と首を捻った――その時、


「――あらあら、みんなで悩み事かしら~?」


 ふと、ドアが開かれるのと同時に温かな声が部室に響いた。

 全員でそちらを見ると、そこには豊満な肢体を修道服に包み込んだ銀髪のシスターが立っていた。

 って、この人は……、


「剣崎先生……!」


「どうも一ノ瀬くん、こんにちは~」


 ほんわかと微笑む彼女こそ、シスターにしてこの学園の生徒指導部に席を置く教員の一人、剣崎フィア先生だ。

 たしかドイツ人とのハーフらしい。年齢はよくわからないが、まぁ見た目的に二十代前半ってとこだろうな。

 ちなみにここ『聖グレイシア学園』はかつてカトリック系女学院だった頃の名残をいくつか残しており、シスターさんが非常勤で生徒指導部を務めることが通例となっている。

 まぁ罪人や迷える子羊を導くことのプロなわけだし適任ってことなんだろう。

 俺も愛理を助けるために暴れ回った時、彼女に長々と叱られたものだ。


 ……それにしても、


「先生、どうしてここに?」


「あらっ、そんなのもちろん一ノ瀬くんが心配だからに決まってるじゃない! 最近は特によくない噂を立てられているそうだし、きっと悲しい思いをしている頃だろうなぁって……!」


 そう言って先生は俺のことを抱き締めてくれた……!

 その温かさに、胸がきゅっと苦しくなる。


「先生……!」


「本当に思い詰めてしまった時には、どうかわたしを頼ってね? わたしは悩める子供たち全員の味方だから――!」


 聖母のように微笑む剣崎先生。その笑顔に、その言葉に、俺は救われる思いだった。

 悪い奴がいれば彼女のような善人もちゃんといるのだ。世の中捨てたものじゃない。


「それじゃ、お邪魔ものになっても悪いし失礼するわね。みんなも何かあったらわたしに話して頂戴ねー?」


 銀色の髪をなびかせながら剣崎先生は去っていく。きっと俺以外の困っている生徒たちにも声をかけに行くのだろう。

 そんな彼女の善人っぷりに三嶋先輩と盾持さんもうっとりとした表情を浮かべた。


「フッ、流石はシスターフィア殿といったところか。あの人がいるおかげで、不安を解消できた生徒も多いという話だ」


「素敵な方でしたねぇあの先生。私もいじめられている時、早くに相談してみればよかったかもです……」


 彼女たちの感想に俺も頷く。本当にあの人は憧れの女性だ。

 たしか近くの教会に住んでおり、そこまで悩み相談をしに行った生徒がそのまま宗教にも関心を抱き、入信することも多いとか。

 はぁ~その気持ちわかっちまうなぁ。あんなに綺麗で優しいシスターさんに救われたら、そりゃそういうこともあるだろう。


 いっそ俺も教会に尋ねてみようか――そう思っていた、その時。

 黙り込んでいた愛理がふと呟いた。


「……いたじゃない、ユズルが困って得をする人が……!」


「は?」


 何を言っているのか理解できず、一瞬俺は呆けてしまう。

 ……しかし、よくよく頭を巡らせてみた結果――俺は衝撃で身体が震えた!


「っ、おいおいおい待て待て待てッ!?」


 思わずそう叫んでしまうものの、一度走り出した思考は止まらない。

 ――悪い噂が立てられた結果、俺はさっきまでドコに向かおうとしていた?

 ――そして何より、俺を『危険人物』に仕立て上げれば、この学園の生徒たちの感情はどんな方向に傾く?


 あぁ、そりゃあもちろん不安に思うだろうさ。

 そうして俺と同じく、『頼れる女性』の下に相談に向かうはずだ。


 ……その推測に、俺たち四人は息を飲むのだった。


 


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