7:ライバル出現!(一話で陥落)
ある日の放課後、この日は雨ということで大人しく部室で読書をしていた。
というか本来ならここは文芸部の部室だしなぁ。俺と愛理もここの部員という形で席を置かせてもらっているし、これが本来の部活スタイルな気がする。
「日本の梅雨は湿っぽいわねー。なんだか本もベタベタしてる気がするわぁ」
そう言って嫌そうな顔をしているのは、文庫本を読んでいる愛理だ。
元気娘なコイツにもジメッとした季節は堪えるらしい。そういえばついこの間アメリカから日本に来たばかりの身だしなぁ。
「嫌ですよねぇ梅雨って。でももう七月ですし、あと少しの辛抱ですよ?」
ぐでぐでとする愛理を恋愛小説っぽい本を読んでいる盾持さんが宥める。
ああ、そういえばもうすぐ夏休みかぁ。この二人がいるおかげで、今年の夏は勉強やゲームだけで終わらずに済みそうだ。
せっかくだからみんなで海とか行ってみたいなぁ。二人の水着も見たいし……っていやいやいや、それは不純だな。自重しよう。
気分を変えるためにも彼女たちが読んでいる本について聞いてみる。
「んで、愛理と盾持さんはどんな本を読んでるんだよ? 見たところどっちもライトノベルっぽいけど」
「あぁ、アタシのは牛を武器にして戦うアホ主人公のギャグファンタジーよ。二人のヒロインがどっちもおっぱいデカいし、きっと作者はおっぱい好きな変態野郎ね!」
「あっ、私のは自己肯定感の低い女の子が勘違いされながら王子様たちに愛されていくお話ですよ。きっと女性の作者さんなんでしょうね~」
へー、二人ともなんかイメージ通りの本を読んでるなぁ。
色々とぶっ飛んでる愛理と自虐気味な盾持さんにピッタリって感じだ。
「そうだっ、ユズルにピッタリのラノベを見つけてきたんだけど読む? 弓使いなのに喧嘩大好きですぐ拳を振るうヤンキー主人公のゲームモノなんだけどね~」
「って俺はヤンキーじゃないっつの!」
相変わらず人のことをヤクザだのヤンキーだのと言ってくる愛理にツッコミを入れる。
そうしてパラパラと雨の音が鳴り響く中、三人で穏やかな放課後を送っていた――その時、
「失礼するぞッ!」
突如、バンッと音を立ててドアが強く開けられた。
驚いてそちらを向く俺たち。愛理なんかは「何ッ!? カチコミッ!?」と本を丸めて武器にしている。
そんな俺たちに対し、いきなり現れた黒髪の少女はフンッと鼻を鳴らすのだった。
ってこの人はたしか……、
「風紀委員長の、三嶋 刀子先輩?」
「ほう、よく私のことを知っているじゃないか。それとも以前から警戒していたのかね? なぁ、学園一の不良である一ノ瀬よ」
そう言って三嶋先輩は豊かな胸の下で腕を組むのだった。
うーん、どうしてこの人がこんなところに?
そう疑問に思うところだが、とりあえず誤解を解いておこう。
「あの、別に警戒とかしていたわけじゃないですよ? 三嶋先輩って毎朝校門前で挨拶活動をされてるし、よく先生たちが教材を運ぶのを手伝っているし、前からすごいなぁって尊敬していましたから」
「なっ、なんだと!? 嘘を吐くな不良めっ、そうやって私をおだててなんのつもりだー!?」
フシャーッと猫のように唸りながら、しかし口元をニヘニヘさせている三嶋先輩。可愛い。
この人、一見ぶっきらぼうに見えるけど結構わかりやすい人なんだな。
「それで先輩、どうしてここに?」
「フンッ、どうしてもこうしてもないっ! 一ノ瀬よ、昔から何かやらかさないか貴様のことを監視させてもらっていたが、暴力事件を起こしてからついに馬脚を現すようになったなぁ! これを見るがいい――ッ!」
そう言って先輩が突き出してきたのは一枚の写真だった。
……そこには、強面の老人たちと親しげに話す俺の姿が写り込んでいた。
「これは……!」
「フッフーンッ、とある情報屋から三千円も出して買い取ったスクープ写真だ! どうみてもヤクザな老人たちと付き合いおって……この写真一枚だけで、貴様が暴力団と繋がっていることは明白ッ! 警察に突き出させてもらうぞー!」
先輩の高笑いが部室に響く。それを耳にしながら、俺たち三人は微妙な顔で見つめ合った。
いやだって、この写真はさぁ……。
「あのぉー三嶋先輩? これってこの前、老人ホームにパンを作りに行った時の写真ですよ?」
「ってふぁっ!? なっ、何を言う! どっからどう見てもヤクザの会合シーンだろうが!」
「いやいや、疑うんならこの近くの老人ホームに確認を取ってみてくださいって」
「むむむむっ……!?」
俺の言葉に従い、スマホから老人ホームの連絡先を調べて電話をかける三嶋先輩。
それから約一分後、彼女は「ア、ハイ、まことに失礼しました……!」と頭を下げながら電話を切った。
「うぅ……どうやら貴様、本当に老人ホームにボランティアに行っていたらしいな」
「でしょう? 写真一枚で暴力団と繋がってるとか言われても困りますよ」
まぁぶっちゃけるとこの老人たちは若い頃ガチでヤンチャをしていた人たちっぽいので、先輩の懸念も当たってなくはないんだがな。
でも彼らからのお誘いはきっぱりと断ったし、やましいところは微塵もない。
「し、しかし一ノ瀬よっ! 貴様には他にも、文芸部の部室を無理やり奪い取ったという噂もあるが!?」
なお食い下がる三嶋先輩。しかし彼女の発言に対し、盾持さんがムッとしながら反論する。
「違いますっ! 一ノ瀬先輩は、いじめられている私を助けてくれたんですっ!
そのお礼としてここを提供しただけですよ。書類上はちゃんと入部申請もしていますし、助けてくれなかったアナタに文句を言われる筋合いはありませんッ!」
「ぬぁーっ!?」
珍しく強気に言い切る盾持さんにショックを受ける三嶋先輩。
風紀委員長として自分が助けてやれなかった罪悪感もあるのだろう。顔を青くして呻き声を上げていた。
さらに、そんな彼女に愛理がさらっと追撃する。
「あのさぁセンパイ? さっきユズルが暴力事件を起こしたとか言ってたけど、アレは男たちに絡まれていたアタシを助けるためにやっちゃったことなんだよ?」
「そっ、そうなのかッ!? 噂では、不良同士で喧嘩を起こしたとしか……ッ!」
「ちゃんとした事情がないと何人もぶっ飛ばして謹慎一か月で済むわけないでしょ。さっきから噂ばっかでユズルをいじめて、ちょっと人として最低じゃない?」
「人として最低ッ!?」
……その一言により、ついに撃沈する三嶋先輩。その場にへなへなとへたれ込み、「風紀委員長のわたしが、さいてー……?」とうわごとのように呟くのだった。
お、おおう、俺の自称恋人と気弱系後輩、いざとなったらめちゃくちゃ容赦ねぇなぁ……!
あまりにも先輩が可哀想になった俺は、泣きそうになっている彼女にそっとハンカチを手渡したのだった……。
◆ ◇ ◆
――そんなことがあった、次の日。
「……三年の三嶋 刀子だ。今日から文芸部こと『お助け団ユズル組』とやらに入らせてもらうぞッ!」
「ってえええええーーー!?」
入部希望届を持って現れた先輩にギョッとしてしまう。
いやいやこの人、何やってるわけ!?
「三嶋先輩、どうしちゃったんすか……!?」
「フンッ、簡単なことだ。噂だけで人を判別するのはいけないことだと自覚したからな。ならば実際に貴様を間近で見て、評価を決めてやろうというわけだ! よろしくな貴様ら!」
「「「えー……」」」
それでいきなり入部って、なんだこの人……。
三嶋先輩の実直と言うか不器用と言うか、ぶっちゃけるとちょっとアホっぽい行動に、俺たち三人はしばし固まるのだった……。
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