5:ある日の昼休み ~弓弦くんの評価について~
――姫宮 愛理と出会ってから、俺の生活がとんでもないことになっていくのを感じていた。
ただし良かったこともいくつかある。たとえば、
「せっ、先輩っ! 今日はクッキーを焼いてきましたーっ!」
「お、おう!」
お昼休み、気弱系女子の盾持 二葉さんがお菓子を作ってきてくれるようになった。
自分を慕ってくれる後輩が出来るというのはとてもいい気分だ。
うん、ぶっちゃけると涙が出そう……! 地元のほうだと俺のことを『アニキィッ!』と呼んでくるやつらもちょっといたが、タトゥーまみれな怖すぎる男子後輩とかいりません。
そして、
「あーっ、ユズルがフタバにデレデレしてるぅ~! 正妻のアタシを放っておいてひどいっ、おしおきにギューしちゃうんだからーッ!」
「もがっ!?」
柔らかくていい匂いのする物体が俺の顔面に飛びついてきた!
言うまでもなく愛理のやつだ。こうして所構わず抱きついてくるせいで、俺は学園の生徒たちから『あちこちで淫行をしている』との噂を立てられつつあった。ってちげーから!?
……まぁ俺の評判がアレなことになるのを除けば、ぶっちゃけ悪い気はしていない。
姫宮 愛理は美少女だ。ハーフというだけあって、ベースは日本人ながら肌は白いし目は青いし髪は綺麗な金色だ。
それに体型のほうもトランジスタグラマーってやつだろうか。小柄で細くてお人形さんみたいなのに、一部分の肉付きがやけにいい。今も俺の顔面を挟み込んでムニュムニュしている。
あ、やば、なんかミルクみたいな匂いがする……!
「――って離れろって! 人目に付きそうなところでこういうことはするなって言ってるだろうが!?」
「あらっ、それなら誰も見てないところならいいのー?」
「なっ、それは……!」
ぐぅぅぅっ、咄嗟に否定できない自分が悔しすぎる……!
一体どう返答したらいいものか。『二人のときだけなら』と言おうものなら調子こいた愛理に貞操まで食べられそうだし、かといってきっぱりと断ったらそれはそれで寂しい顔をしそうだからなぁ、こいつ……。それはなんとなく嫌だ。
「ねぇーユズルー?」
「う、うーん……!」
そうして俺が返答に困っていた時だ。盾持さんが「ふふっ」と微笑んだ。
「盾持さん、どうしたんだ?」
「えっ、あっ、いえ! ただその、私みたいなクソザコ陰キャ女子がお二人みたいなすごい先輩たちと過ごせるなんて、なんだか夢のようだなぁって……」
「クソザコ陰キャ女子って……」
自己肯定感低すぎだろ……。
いやまぁそれはともかく、すごい先輩たちってどういうことだ?
愛理のやつは美少女だし元気だしハーフで金髪だし明るいしアニメの話も出来るしちょっと勉強できないところも可愛くてみんなから親しまれているが、俺なんてボロカスな評価だろ?
首を捻る俺に盾持さんは話してくれる。
「たしかに一ノ瀬先輩はかなり……いえ、ちょっと怖がられているところもありますが、でもみなさんたまに言ってますよ? 『ヤンキーのくせに成績がトップ』だとか『タバコ吸ってそうなのに運動もすごく出来る』とか『夜通し乱交してそうなのに無遅刻無欠席で無駄にまじめ』とか」
「ってそれ評価されてるのか!? それとも貶されてるのかどっちなんだッ!?」
罵倒と称賛を同時に食らったのは初めてだよチクショウッ!
「あっ、いまフタバが乱交とか言った~!」
「えっ、あッ、はわわわわわっ!?」
……ニヤニヤと笑う愛理と赤面する盾持さんが微笑ましい。
そんな二人の様子を眺めながら、俺は新ためてみんなからの評価を改善しようと誓うのだった……!
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