3:部室を占領しました。
――俺や愛理の通う『聖グレイシア学園』は国内有数のエリート校だ。
数年前までカトリック系女学園だったらしく、イギリスの庭園みたいにあちこちオシャレだったり女生徒のほうが多かったりする。もちろん校則もかなり厳しい。
まぁそんなところだから当然、
「きぃーユズルーッ! 『暴力団ユズル組・学園支部』の設立が却下されたわー!」
「そりゃされるわボケッ!」
当然の結末に俺は深く溜め息を吐いた。
部活を作るといった日の放課後、このトチ狂ったチワワ系女子は本当に生徒会に突撃し、あの部活名で創部申請を行ったのである。
もちろん却下に決まっている。
それどころか生徒会メンバーから『姫宮さん、あの不良に脅されているんですか? それともヤバい薬でも使われて洗脳を……!?』と心配されたとか。
って脅しも洗脳もしないっつの!
はぁまったく……。
コイツのおかげでボッチは卒業できたのはいいが、代わりに周囲からの恐怖度が上がりまくっている気がする。
このままだとマジで友達が一人も出来ずに高校生活終了とかあり得るぞ……!
そんな絶望の未来に俺が震えていた時だ、姫宮愛理はポンと手を叩き、「いいことを思いついたわ!」と笑顔を浮かべた。
「ねぇユズル、そのへんの地味な部活を支配しましょうッ!」
「ってはぁーーーー!? おまえ何言ってるんだよ!?」
えっ、こっわ! この女こっわッ!? 理性が蒸発してるのもほどがあるだろ!?
俺マジでコイツのこと理解できねーよ……!
「あら、おかしなことを言ったかしら? アタシのパパはよく言ってるわよ、『成功者の割合は常に一定だ。ならば後続の者は、成功者の立ち位置を奪い取ることでしか成り上がれない』って!」
「いやいやいやいや、そりゃそうかもしれないけど殺伐としすぎだろお父さん……。え、おまえのパパって敏腕ビジネスマンとかだったり?」
「ううん、マフィアのボス」
「聞くんじゃなかったッッッ!」
ここにきてすっげー設定出してきたよこの女ッ!?
よし、コイツのことを理解するのを止めよう! これ以上とんでもない闇を知らされても困る!
はぁーマジでビックリしたー……!
「と、とにかく愛理、よその部活を奪い取るのはなしだ。力尽くでそういうことをするのはよくない」
「えー、じゃあどうやって『暴力団ユズル組・学園支部』を作るのよ?」
「いや、そもそもそんな頭のおかしい部活を作るなって話だが……」
はてさて、一体どうやってこの栄養が胸にしか行ってないような脳みそ蒸発金髪チビ女を黙らせようものか。
廊下を歩きながらそんなことを考えていた時だ。ふいに俺の背中がツンツンと突かれた。
一体なんだと振り返ってみると、
「あっ、あっ、あのっ、アナタが一ノ瀬弓弦先輩ですよね……!?」
いつのまにやら、俺の背後にはずいぶんと気弱そうな女の子が立っていた。
俺を先輩と言ったことから一年生の子らしい。ちなみに身体の一部はずいぶんと気が強そうなのだが――ってそれはともかく、
「そうだが、何の用だ?」
「ひぇーッ!? ぁっ、あの、私は一年の盾持 二葉と言いまして……! じつは、その……」
涙目になりながらモジモジとする謎の後輩女子。
やがて彼女は真っ赤な顔で拳を握ると、
「すっ、好きです! わたしと付き合ってくださいッ!」
大声で、そう言い放ってきたのだった――!
……って、
「あぁなるほど……そう言えって言われたんだな?」
「っ!?」
俺の指摘にビクッと身体を震わせる盾持さん。
どうやら図星だったらしい。そうじゃなかったら面識がない上に『学園一の不良』と呼ばれている俺に告白なんてするわけないからな。
そしてあたりをチラリと見れば、廊下の端から顔を覗かせている女子数名が見えた。
ってアイツら……たしか二年の女子共じゃないか。
「っ、やばっ、コッチ見た!?」
俺の視線に気づいたのか逃げようとする女子たち。
だがさせない。俺はポケットから消しゴムを取り出すと、それを打ち出すように親指で弾いた。
――『指弾』と呼ばれる中国武術だ。不良たちを追っ払うために身に付けた技の一つである。
それを使って打ち出された消しゴムは超高速で宙を駆け、逃げようとしていた女子の髪を一房巻き込みながら壁へと突き刺さった……!
「ひぃーッ!? か、髪がっ、ていうか消しゴムが壁にッ!?」
「大丈夫!?」
仲間の一人が縫い留められたことで女子たちの動きが全員止まる。
そこに悠々と近づいていき、消しゴムを外してやりながら声をかけた。
「よぉ……一年の後輩にずいぶんと可哀想な真似をするじゃないか」
「ぁっ、いや、そのっ、あの!?」
あぁ、こんな時に怖い顔というのは便利になるものだ。
立場の低い相手を平気でいじめる輩を、ただ見つめるだけで震えさせることが出来るんだからな。
「――二度と後輩にあんなことさせてみろ、殺すぞ?」
「ひぃいいーーーーッ!?」
俺の一言に女子たちは泣きながら去っていった。
……まぁ正直脅しすぎだったかと思うが、これくらいは言ってやらないといじめってやつはなくならないからなぁ。
というかこれで俺の悪評がさらに広まる気がするが……まぁいいか、代わりに盾持さんが平和な学園生活を送られるなら幸いだ。
そうやって無理やり自分を納得させている俺に、愛理が「ユズルーーーッ!」と叫びながら抱きついてきた。
「ってうわぁ!?」
「やぁんユズルー! カタギの者を守るためなら女子にも容赦しないその男っぷり、やっぱりアナタはヤクザの鑑よっ! パパにだって紹介できるわ!」
「いやっ、おまえのお父さんにだけは会いたくないからやめてくれ!?」
俺みたいな一般市民がマフィアのボスと会うことになったら恐怖で死ぬわ!
それだけは勘弁だと震え上がりながら、俺はほっぺにチューまでしようとしてくる愛理を無理やり引き剥がすのだった。
◆ ◇ ◆
――そして翌日。
「えっ、文芸部の部室を使わせてくれる……?」
「はっ、はいっ! 一ノ瀬先輩への、せめてものお礼として……!」
なんと昨日助けた気弱系女子、盾持さんが俺にそんなことを言ってきたのだ。
詳しく聞いてみると、あの二年の女子たちは盾持さんと同じ文芸部の者たちだったが、俺の脅しにビビりまくって部活を辞めていったとか。
なんか話によると、盾持さんのことを俺の愛人の一人だとか思っているらしい。
そんでインテリ若手ヤクザの愛人に手を出してしまったことを後悔し、二度と近づかないから許してと盾持さんに言ってきたとか……ってどうしてそんな話になったーーー!?
「なんでそんなことに……」
「はいはいっ! アタシがあいつらに『ユズルが目を付けた女に手を出すなんて終わったわねぇ?』って追撃で脅しをかけておいたわ! アタシも後輩助けたいもん!」
「っておまえのせいか愛理ーーー!?」
まーたこいつのせいで俺のヤクザ度が上がっちゃったよ!!!
もう俺の評価やばいんですけどっ!? 通知表になんて書かれるかわかったものじゃないんですけど!?
はぁ、本当にこれからどうしよう……。
そう思い悩んでいた時だ。盾持さんが何やら両手をギュッと握りながら俺に言い放ってきた。
「あのっ、一ノ瀬先輩っ、姫宮先輩! 私、気弱でいじめられっ子な自分がずっと嫌だったんです……っ! そんな自分を変えるためにも、『暴力団ユズル組・学園支部』に入れてくれないでしょうかー!?」
「ってええええ!?」
突然の誘いに俺は声を出して驚いた……!
ぶっちゃけ嘘告白よりもビックリしたわ! 何言ってるのこの子!?
もちろん断ろうとしたのだが、それよりも先にまーた問題児が口を開く。
「きゃーっ! もちろんオッケーよフタバーっ! これからアタシたちはファミリーねっ!」
「はいっ!」
って勝手にオッケーするなー!? そして盾持さんも本当にいいのかよ!
はぁ……どうしてこうなった……。
俺はひょんなことから手に入れることになってしまった部室にて、大きく溜め息を吐いたのだった……!
・暴力で女(愛理)と土地(部室)を手に入れていく系主人公……!(自称一般市民)
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