15:彼女1号爆誕!
季節は七月、ついに夏休みが目の前まで迫っていた。
ただし乗り越えなければいけない壁が一つあって……、
「――うがーーーーーーっ! 試験なんて嫌ーーっ!」
「こら愛理っ、ウチのアパート壁薄いんだから吼えるな!」
そう、『期末試験』という壁が学生たちを阻んでいるのだ……!
まぁ俺は勉強できるからさほど脅威じゃないんだが、成績がよろしくない愛理には死活問題だ。
そこで、彼女に頼まれて俺の部屋で勉強を教えることになったのだった。
「う〜……! せっかくユズルのアパートに来れたのに、危機感のせいで全然楽しめないわ……!」
涙目で机に突っ伏する愛理。
聖グレイシア学園はわりと厳しいところで、赤点なんて取ろうものなら夏休みの半分以上を補習で過ごすことになるからなぁ。
作ってやった小テストの結果を見ながら俺は溜め息を吐いた。
「うーん、特に国語関係がやばいなぁ。ついこの前までアメリカで暮らしてたんだし、仕方ないっちゃ仕方ないんだが……」
これは本当に赤点もありえるかもしれない。
日本にやってきて最初の夏休みが勉強漬けとか可哀想すぎる……。
「ユズル~助けて~……ヤクザパワーで教師を脅して何とかしてー……!」
「ってヤクザじゃないっつの! まぁ逆に英語はバッチリなんだから、その勉強時間を国語に当てれば何とかなるかもしれないぞ?」
「ホントーッ!?」
俺の言葉にパァッと瞳を輝かせる愛理。
美人は三日で飽きるというが、彼女の場合は表情がころころと変わって本当に飽きない。ぶっちゃけると容姿だけならめちゃくちゃタイプだ。
「気を抜くなよ愛理? たぶん一日でも勉強をサボったら夏休みは補習漬けだぞ?」
「頑張るわよ。だってアタシ夢だったんだもの、仲間と過ごす夏休みってやつが」
そう言ってどこか遠い顔をする愛理。
普段あまり見ない表情と先ほどの言葉に俺は驚く。
「って夢だったってどういうことだよ? 明るいおまえのことだから、アメリカでも友達いっぱいだったんじゃないのか……?」
「ううん、あっちでアタシと仲良くしてくれるような人はいなかったわ。イジメられてはいないけど、みんなから怖がられてた。……言ったでしょ、アタシのパパはマフィアのボスだって」
あっ……そういうことか。
寂しげな愛理の表情に俺は気付く。向こうでの彼女の扱いは、俺と同じようなものだったのだ。
しかも愛理の場合は本当に父親がマフィアのボスらしいのだから質が悪い。
顔の怖さで誤解されているだけの俺と違い、解決策がどこにもない。
「アメリカは銃社会だからねー。アタシを怖がっていたっていうより、アタシを狙った敵組織の襲撃を恐れていた感じかな。みんな巻き込まれて死ぬのは嫌だものね」
「それはそうだが……辛くなかったのかよ? そんなおまえの状況に、親父さんは何もしなかったのか?」
それこそ偽の身分を用意して新しい環境を与えてやるなり、マフィアのボスならば出来る手段はあったはずだ。
しかし愛理は首を横に振った。「パパには相談すらしたことないわ」と呟く。
「くだらないことで面倒はかけられないわよ。だってアタシ、愛人の子だしね。『姫宮』っていうモロ日本人な名字も家政婦だったママのものだし」
「そう、だったのか……」
初めて聞かされた彼女の家庭事情。それはとても重く、現実離れしすぎているモノだった。
ただの学生である俺には慰めの言葉すらかけられない。そんな俺を見て愛理は微笑を浮かべた。
「それでいいのよユズル。見栄を張って考えなしなことを言わないアナタが大好きよ。
一度教師に相談したことがあるんだけど、『気持ちはわかる、辛かったな~』とかテキトーなことを言われて殺したくなったわ」
「ははっ、そりゃ酷いな……」
愛理に対して理解者ヅラできる奴なんて、それこそマフィアのボスと愛人の間に生まれた人間くらいだろうに。
ンなやつがポンポンいたらある意味末期だ。
「そんな感じで、遊び相手もいなかったからゲームやアニメが趣味になっちゃったってわけよ。
それである時、日本の学園ものアニメってやつに出会ったわ。……一気にドはまりしちゃったわよ。見た目で誤解されているけど素敵な男の子と恋愛したり、個性的な仲間を集めて変な部活を始めたり、風紀委員とか悪い教師とかと揉めたり、みんなでダラっと過ごしたり……アタシの求めていた青春がそこにはあった」
楽しそうな表情で愛理は語る。
彼女が理想としていた青春。それはどこかで聞き覚えのあるもので……、
「……そっか。俺を誘って『お助け団ユズル組』なんてものを立ち上げたのも、そんな理想があったからか」
「えへへっ、まぁそんなところね」
「じゃあ、俺に惹かれたっていうのも?」
「――ううん、それは本当。
たしかに日本のヤクザっていう存在には前から興味があったわよ? だってカッコいい映画ばかり撮られているマフィアと違って、ヤクザもの作品って主夫やったり必死こいて一般人ごっこしたり子供育てたり、とってもアットホームなやつばかりじゃない? 冷たくて強いマフィアより、そっちのほうがアタシは好き」
そこまで語って、愛理は俺の手を取って見つめてきた。
「でもそんなのはきっかけの一つよ。――二か月前、日本に来たばかりのアタシを不良たちから助けてくれたのはアナタだわ。その瞬間、アタシは『一ノ瀬 弓弦』っていうこの世で一人だけの男の子に恋をしたの。
――だからダーリン。どうか、アタシと付き合ってください……!」
まっすぐな愛の告白が、俺の胸を貫いた。
真剣にこちらを見つめつつも、断られるかもしれない恐れに愛理はわずかに震えていた。
それは、俺への愛情が本物であることの証拠だ。
あぁ、わかったよ。――だったら俺も、本気の想いを彼女に返す。
「これからよろしくな、愛理」
「っ……それって、オッケーってこと……!?」
「もちろんだ。おまえみたいに可愛くて明るくて話も合って、それでこんなに真剣に好きになってくれる女の子からの告白を、断るわけがないだろう」
「あぅっ……でっ、でもでもっ、アタシの家庭事情、詳しく知ったわよね? すごく可能性は低いけど……もしかしたらパパと敵対する組織の抗争に、巻き込まれるかもしれないわよ!?」
喜んだかと思ったら一転、今度は不安げにあわあわし始める愛理。
本当に見ていて飽きない女の子だ。でもやっぱり笑顔を見ているのが一番だなぁ。
俺は愛理の不安をふっ飛ばすため、不敵に笑って彼女を見つめる。
「安心しろ。なにせおまえの愛した男は、巷じゃ『ヤクザ』なんて呼ばれてるんだぜ? そんな野郎がそこらのチンピラに負けると思うか?」
「ッ――思わないわっ! だってアタシのダーリンは、最強のヤクザだものっ!」
心からの信頼を込め、俺の彼女は華やかな笑顔を見せてくれた。
あぁ、こっちこそこの子と出会えて本当によかった。
愛理と知り合ってからの日々は、俺にとってもまるで夢のような日々だったとも。
そうしてこちらが感傷に浸っていたその時、愛理は握っていた俺の手をぐい~っと引っ張り、そして、
――むにゅぅうううっ!
「んなっ!?」
「あんっ♡ 男の人に胸を揉まれるのって、こんな感覚だったのねっ!」
なんとどっかのシスター教師と同じく、たわわなお乳を俺に揉ませてきたのである!
いやいやいやいや何やっとんじゃーい!?
「よし、これでフィアのアホと同じステージに立ったわ! 正妻として他の女にヤられっぱなしじゃ気が済まないもの!」
「って雰囲気台無しじゃねーかッ!? 過去を語っていた時のちょっとしんみりしてたおまえはどこ行った!?」
「死んだ!」
「殺すな!」
おっぱいを無理やり揉ませながら快活に笑う愛理。
あぁまったく、やっぱりコイツぶっ飛んでやがる……!
俺は自分の彼女に対し、改めてそう思うのだった。
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