14:一ノ瀬愛理、爆誕。
ちなみにフィア先生、読者様から「主人公に憧れの女性いないの」「銀髪シスター顧問にして」という指摘を受けて叶えたキャラです。
憧れは一話で散った気がしますがまぁ多少はね……
みなさまからのご意見やご要望もおまちしてますぞ~
剣崎先生が顧問になってから数日、彼女はちょくちょく部室に顔を出すようになった。
といってもお茶飲んでダラダラして帰るくらいなんだけどな。
本人曰く、『聖人キャラを保っているのも疲れる』とのことだ。
その点俺たちは彼女の正体を暴いているため、ここでは気兼ねなく羽を伸ばせるらしい。
いつの間にかソファーやティーセットなどを持ち込み、老人ホームに送る用の編み物をする俺たちを横目に今日もダラーっと寝そべっている。なんかエロい。
そんな彼女がメンバーに加わったことで、一つの変化があった。
それは……、
「ユズル~~~っ! アタシの胸も揉みなさいよッ! ほれほれ!」
「って揉まねーよバカ!?」
……以前にも増して愛理がめちゃくちゃアプローチしてくるようになった。
剣崎先生のせいで焦りを覚えたのだろう。気弱な盾持さんや俺に気のない三嶋先輩とは違い、そこのクズシスターは俺をガッツリ誘惑してくるからな。
「なんでよユズルっ! こんなに可愛い女の子がグイグイ身体を差し出しているのに~!?」
「いや愛理、そこで気が引けちまうんだよ俺はっ! やっぱりそういうのはさ、手を繋いだりデートしたりちゃんと告白してキスしたり、そういう段階を踏んでから体を触り合う関係に辿り着くべきかなと……!」
「あははっ……一ノ瀬先輩、見た目ヤンキーなのにそういうところはしっかりしてますよね。どこでも抱きつく姫宮先輩にちょくちょく注意してますし……」
盾持さんが苦笑する。彼女は器用に手袋を一つ仕上げつつ、「でも先輩の言ってることわかります」と頷いてくれた。
「デートからの告白とか、そういうのって素敵ですよね~……。理想的なお付き合いの仕方といいますか」
「だよなぁ。ちなみに盾持さんは、デートに行くならどこに行きたいんだ?」
「えッ……もしかして私、いま誘われてますッ!?」
「あっいや、そういうことじゃなくてっ!?」
顔を赤くする盾持さんに焦ってしまう。そこに「いや、今のは誘っているようにしか聞こえなかったぞ?」と三嶋先輩が溜め息を漏らした。
彼女はこんがらがったマフラーを投げ出し、俺にビシッと指を差してくる。
「いいか一ノ瀬。忘れているかもしれないが、私は風紀委員だからなっ!? 愛理か盾持か、もしくは両方と付き合うのもまぁ自由だが、校内でだけは不純な行為に及ばないでくれよ?」
「ってンなことしませんよ三嶋先輩っ!? いつも立派なアナタの後輩として、そんな恥ずかしい真似しませんって!」
「りっ、立派って……まったく、流れるように褒めるんじゃない馬鹿っ」
と言いつつ口の端をニヘニヘさせている三嶋先輩。かわいい。
そんな彼女に癒されていた時だった。隅っこのほうでグデグデしていた剣崎先生がふと口を開いてきた。
「そーいえばアンタたちって、姫宮以外はみんな名字で呼び合ってるわよね。いい加減に名前で呼び合ったら?」
「「「えッ!?」」」
彼女の思わぬ提案に、愛理以外は固まった!
いやいやいやいや、だって名前呼びってそんな……!
「ちょっ、それはハードル高いっていうか……! 愛理のことはなんか勢いでそう呼ぶことになっちゃったけど、でもなぁ……その……」
「な、名前呼びなんてしたことないです……今までそんなに仲のいい人いませんでしたから……」
「うぐぐっ……私も堅物なせいで周りから避けられ気味だからな……」
一斉にソワソワする俺たち友達いない組。
そんな俺たちに対し、剣崎先生は「揃いも揃って寂しい人生送ってんじゃないわよ……」と肩をすくめた。
「じゃあフレンドリーさを磨く良い機会じゃない。私も付き合ってあげるからさ、姫宮……じゃなくて愛理をお手本にしてみんなで名前で呼び合いましょうよ? ほら弓弦から」
「え……じゃあフィア先生?」
「それでよろしい」
俺の呼びかけに満足する剣崎……じゃなくてフィア先生。
おぉ、突飛な提案かと思ったけどいいかもなぁコレ。何だか一気に親近感が湧いた気がする。
じゃ、じゃあ続けて……!
「二葉さんに、刀子先輩……!」
「は、はいっ弓弦先輩!」
「ななっ、なんだ弓弦よ……!」
ガチガチとしながらも名前で呼び合う俺たち。なんだか壁を一つ乗り越えたような満足感に三人でニヘッと笑い合う。
だがそこで、愛理が「むぅ~!」と頬を膨らませた。
「なによっ、みんなしてユズルと距離が近くなって! アタシももっと距離近づけたい~!」
「いや、おまえの場合はいきなり『ダーリン』とか呼んできたりと最初からゼロ距離だったじゃねえか。これ以上近づきようがないだろ?」
「じゃあアタシの名前を今日から『一ノ瀬愛理』にする!」
「って関係近いの通り越して結婚してんじゃねーか!?」
まだ付き合ってすらないのに人の名字勝手に持っていくな!
相変わらずぶっ飛び気味な愛理の思考に、俺は久々に呆れ返るのだった。
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