10:ヤクザ、降臨
――三嶋先輩が部室に来たとき、彼女は『とある情報屋から買い取った』と言って元極道の老人たちと話している写真を突き出してきた。
思えばこの時から疑問に思うべきだったんだ。老人ホームという学外での出来事を撮影されているなんておかしいって。
もうその時点で誰かが意図的に俺を貶めたがっているのは明白だった。
しかも誤解を招きそうな写真を風紀委員長である先輩に売り渡すとか最悪だ。どう考えても、俺と風紀委員会をひと悶着させようという思惑しか見えてこない。
結果的に三嶋先輩が話の分かる人だったから問題は起きなかったが、一歩間違えばもっと大きな騒動になっていただろう。
俺は三嶋先輩に導かれ、例の情報屋というヤツを訪ねることにする。
どうやらその人物は写真部に在籍しているらしい。
「シャメ子、いるか?」
そう言って写真部の部室をノックもなく開ける三嶋先輩。
夕日に赤く照らされた室内では、一人の小柄の女生徒がいくつかのビデオカメラをいじっているところだった。
「およっ、三嶋パイセンじゃないっすか~! 一体なんの用で……って!?」
俺のほうを見て固まるシャメ子。妙に気の抜けるあだ名だが、まぁ今そんなことはどうでもいい。
俺は無言で前に出ると、彼女を見下ろすように立った。
「ひっ、な、なんですか一体……!?」
「おまえ、『アイツ』から俺の立場が悪くなるような写真を撮ってこいと命令されたらしいな」
そう言って俺は、彼女の前に一枚の布を取り出した。
――ぐっちょりと赤い液体で濡れた、『修道服』を思わせる黒い生地の切れ端だ。
それを見た瞬間に、シャメ子がガクガクと身体を震わせる。
「ひぃいいッ!? こっこれ、血ッ!? まさかアナタッ――剣崎先生を殺したんですかッ!?」
「……はぁ、やっぱりかぁ」
推測通りの結末に俺はガックリと肩を落とした。
そうして、シャメ子の顔面に濡れた生地を適当に投げた。
「うべぇっ!? ちっ、血が口に入ってッ……って、あれ、この味は……トマトジュース?」
「あぁそうだ、ただのハッタリだよ。おまえから、俺を追い込んだ犯人を聞き出すためのな」
「なぁッ!?」
愕然とするシャメ子。ここでようやく自分がハメられたことに気付いたらしいが、もう遅い。
はぁ……予想通り、俺の印象を悪くしていたのは剣崎フィアだったようだ。
ひっそりと憧れていたのに本当に残念だよ。あの優しさは嘘だったんだな。
――俺は溜め息を吐きながら、シャメ子が持っていたビデオカメラを二つほど奪い取った。
どうやらどちらも高級機種らしい。ボタンがいっぱいあってカッコいいなぁ。
「ってあぁッ、私のマイカメラたちーッ!?」
「これ使うからもらってくぞ。たぶん悪い噂のほうもおまえが間接的に流してたんだろうしな、まぁ慰謝料だと思ってくれ」
「ちょっ、それはそうなんですけどっ、でも……!」
何やら喚く女がうるさい。さて、どうすれば黙るだろうかと思ったところで――、
「ストップだシャメ子ッ、カメラのことは諦めろ! 今の一ノ瀬は、キレている……ッ!」
三嶋先輩が騒ぐシャメ子の口を塞いだ。あぁ、静かになったようで何よりだ。
――あたりが夕闇に染まる中、俺はうっかり銀紙のように握り潰してしまった片方のカメラを投げ捨てた。
「なッ、ひぃいいいいいいッ!? ごごごごごっ、ごめんなさいでしたぁあああああーーーーッ!」
「いいってことよ」
謝罪も貰えたし何よりだ。
俺は決着をつけるべく、教会へと足を向けるのだった。
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