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冬の匂い

作者: 城柳 雪


 冬の匂いがした。


今年の冬は暖冬で、なかなか寒くならずいつまでもこのままの日常が続く気さえしていた。

街中はせわしなく行き交う人々。


 僕はポケットに手を入れたまま流れに逆らわず歩く。手袋は忘れていた。


 行くあてなど無い。

年末は嫌いだ、昔から。

この雰囲気がたまらなく憂鬱な気持ちにさせる。

いつからかは覚えていない。クリスマスも正月も、バレンタインも何もかも楽しいと思えなくなった。


 つまらない大人になったと自分でも思う。同年代の友人たちは子供と蕎麦を食べたり、実家に帰省したりしているのだろう。何も無い人間になった僕にはただの休日に過ぎない。休みが明ければまた仕事。そうして一年を繰り返すだけ。こうして歳を重ねていつか死ぬのだろう。ひとりで死ぬのだろう。


 人付き合いは嫌いじゃない。けれど好きでもない。それ故、誰かを愛するという感情を知ることもなかった。


 楽しそうに行き交う老夫婦、家族連れ。

僕はひとり、流されて歩くだけ。

どこへ行くのだろう、どこへ行けばいいのだろう。


 鼻先がツンと痛む。寒い。冬の匂いがする。

好きではないけれど、嫌いではない匂いだ。

カウトダウンが始まるまであと数時間。若者達が集まり始めている。

カウントがゼロになった瞬間、僕は消えてしまいたいと思った。

冬の匂いに掻き消えてしまいたいと願い、澄んだ冬空を見上げた。

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