26.森林混浴
精霊の樹海の中にあるだけあって、夜のエルフの里は幻想的だった。
深緑の森を切り開いて作られた里のそこかしこには見たこともない植物や色彩豊かな花々が点在し、中には咲き誇る花の内側がほんのり優しく光るものがあって、その光と月光の複合光に照らされてまるで水彩画のような景色を生み出していた。
風も穏やかに草花を揺らし、さらさらと葉の擦れる音が耳に心地いい。夏の終わりごろの夜のような、外を出歩くには丁度いいくらいの気候だった。
エルフ族の里は2000人の人が暮らすということで歩いて回るにはかなり広いが、どうやら里の中に温泉があるらしく、湯浴みをしに行くついでに言い出したイリスと巻き込まれたクレビオスがレオニスとシャアラに里を案内してくれるということで、その道中だ。
「この光る花は何?」
レオニスも気になった道沿いにちらほらと見掛ける灯火のような花の正体を、シャアラが一緒に並んで歩くイリスとクレビオスに尋ねる。
「あ、それはフィーリアの花だよ。そっか、人族の街にはないんだね」
「見たことないわ。レオニスは?」
「俺も知らないな」
とはいえシャアラもレオニスもそこまで人族の生活圏の隅から隅を知っているわけではないので、もしかしたら人族の集落のどこかには同じ花が咲いているのかもしれない。と、レオニスは思ったが、それは口に出す前にクレビオスによって否定されることになる。
「その花は精霊樹の近くでしか咲かないんだ。同じ品種の植物は人族の生活圏にも生えていると思うけど、フィーリアの花は精霊が霊脈を移動する際に発する僅かな精霊力を吸い上げて、光に変換して放つ為にその花を咲かせるから、おそらくこういう風に咲くのはこの周辺だけだと思うよ」
ほう、と感心する他三人。反応を見るにイリスも詳細は知らなかったようだ。
「それにしても、まさかエルフの里に温泉があるとは思わなかったわ」
「まったくだな。温泉なんて生まれて初めてだ」
「そうなんだ? じゃあレオニス達はいつもどうやってお風呂に入るの?」
「俺の家では井戸から組んで来た水を薪に火をつけて沸かしていたな」
「火をつけるって、精霊術を使えないのにどうやってやるの?」
それはクレビオスからの質問だった。
「火打ち石というのがあって、それを打ち合わせることで火花が散るんだ。それでまず枯草に点火し、そこから薪に火を移して、という感じだ」
「へえ、結構手間の掛かるものなのね……」
と何故か同じ人族のシャアラが重たい表情で呟く。
「シャアラは同じじゃないのか?」
「あ、いえ、多分同じだと思うけど。私の場合城の使用人が全部やってくれていて、お風呂に入りたいときにはもう沸かしてくれていたから。そんな苦労していたなんて、知らなかったわ。恥ずかしい話だけれど」
それはシャアラが王族である以上当然の待遇ではあるのだが、しかし根が真面目なシャアラはそのことを後ろめたく感じていた。自分は王族としての責務を何ら果たしていないというのに、王族というだけで不自由のない生活を送れていたこと、そしてそれに気付いてすらいなかった自分に嫌気が差した。
そんなシャアラの内心など露知らず、イリスが途端に目を光らせて話し出す。
「そういえばシャアラちゃんてお城に住んでるんだっけ! すごいねー、毎晩美味しいもの食べられたりするの?」
シャアラとしてはあまり話したい内容ではないが、しかしイリスに悪意がないのも分かっているので、素直に答える。
「そうね。国の民が献上してくれているものをありがたく食べさせてもらっているわ。本当に感謝してもしきれない。だから早く、皆が平和に暮らせる世の中を作りたいのよ、私は」
「そっか、シャアラちゃんはすごいね」
純粋な笑みでそう言ってくるイリスに、シャアラは動揺した。
私の、何がすごいというのだろうか。
私はまだ、この世に生れ落ちてから何も出来てない。国民を幸せにするために王族として生まれたはずなのに、私はただ兄の背中を見て、国政に携わることもなく、ただいつか役に立つかと知恵と武芸を磨いてきただけだ。後はのうのうと暮らしてきた。
本当は、もっと考えれば私にも出来ることがあったかもしれないのに、私は甘んじていたんだ。
きっと、逃げてもいた。城の外に出て、現実を目の当たりにすることが怖かったんだ。
「私は、全然すごくなんてないわ」
歯噛みしながら本心で答えるシャアラに、それでもイリスは屈託のない笑顔で言う。
「そんなことないよ。だって、シャアラちゃんみたいに考えられる人ってそんなにいないと思う。そんな、世界を平和にしたいなんて、少なくとも私は考えたことないよ」
「まあ、姉さんはそうだろうね」
「ちょっとクレビオスどういう意味!?」
「は? いや姉さんが自分で言ったんでしょ? 僕はそれを認めただけだ」
「自分で言うのは良いけど、人に言われるのは違うの!」
そんな理不尽にも取れるイリスの言い分から姉弟喧嘩が始まる。
その騒がしさの中で、
「私がそういう風に考えられるのは、不自由なく暮らすことが出来ているからなのよ」
そうシャアラが呟いたのを、レオニスだけが密かに聞いていた。
* * *
「はあ!? 温泉て混浴なの!?」
「え、そうだよ?」
なんかまずかった? と言いたげな顔で、イリスは表情を険しくするシャアラを見る。
里の端にある少し傾斜のある小道を5分ほど登ると、そこには直径で25メートルはありそうな楕円形の巨大な露天風呂が湯気を立てて待っていた。
しかしそれが一つしか見当たらないのに気付いたシャアラが、エモーショナルになっていたことさえ忘れて声を上げたのだった。
「わ、私はやっぱり待ってるわね……」
これまで城で暮らしてきたシャアラに誰かと一緒に風呂に入った経験は、少なくとも記憶の範疇ではない。それはつまり清らかな肌を誰かの目にさらしたことがほとんどないということでもあった。
「えー、なんで!? 大丈夫だよ、ほら身体に布巻いてもいいから。本当はあんまり湯船に入れるの良くないんだけどね」
そう言ってバスタオルのような白布をシャアラに差し出すイリス。さすがに自然を司る精霊と暮らすエルフ族だけあって、開放的な性格のようだ。
「いや、でも……」
そう言ってレオニスをちらっと横目でみるシャアラに、イリスは気付く。
「はあー、なるほどね。うーん、じゃあまあ入らなくてもいいけど、本当に後悔しない?」
「どういう意味?」
意味深に言うイリスにシャアラは訝しげな表情で聞き返す。
「私はレオニスと一緒に温泉入るけど、いいのね?」
「う! それは……」
「あ、ほら、もうレオニスとクレビオスは服脱いで入ってるよ? 私も行っちゃうからね」
差し出したままだった白布をシャアラの胸に押し付けると、イリスもポニーテールにしていた長い髪を更に結いあげて、その場で着ている服を脱ぎだした。
エルフ族の着衣は形状が簡易で、するっと数秒でイリスは全裸になってしまう。湯気の中に浮かぶその凹凸の激しいシルエットに、シャアラは女性であってもドキッとしてしまう。
こ、この身体はダメ!
これをレオニスに見せちゃダメだわ!
けどそれを止める手立てが……。
「イリス、あなたは布を巻かないの?」
「え? 私はいらないよ。巻いたことないし。んじゃね。レオニス今行くよー!」
と言うと元気に駆け出し、レオニスの傍らへとじゃぼんと音を立てて飛び込んでいく。
イリスの奇襲に狼狽するレオニス、しかしその左腕に容赦なくイリスがしがみつく。
クレビオスは騒ぎに巻き込まれるのを予見してか、一人対岸でゆっくりと湯に浸かっているようで、その姿は大分遠い。
「や、やめろイリス!」
「えーなんで? 二人で入った方が気持ちいいよー! ほらほら、レオニスの好きなおっぱいだよ!」
「俺は好きなんて言ってな……! ちょっ、イリス! 当たってるぞ!」
「えー、当ててるんだよ? サービスサービス♪」
レオニスとイリスが楽しそうに騒いでいるのを見て、シャアラは心の中で葛藤していた。
あの子、なんであんな恥じらいなく行けるの!?
本当に同じ女の子なのかしら……うー、私もレオニスの近くに行きたい……けど、裸を見られるのは……。でもクレビオスは遠いし、レオニスだけならいいかな? でも、私イリスみたいにおっぱい大きくないし……やっぱり、大きい方がいいのかなぁ……。
あーもう、あんなにくっついて! なんなの!? 私に見せつけてるのかしら!
あー、もう、うーん……行く? とりあえず、ちょっと影で服を脱いでみようかな……。
さすがにその場でバッと脱ぐことは躊躇われて、シャアラは近くの茂みに入ってゆっくりとイリスに借りているエルフ族の装束を脱ぎ始める。やはり簡素な造りなので脱ぎ始めればすぐにシャアラは全裸になっていた。
うわー、私今、外で裸になってる……。
涼しげな風がシャアラの肌を撫で、体温を微かにさらっていく。今まで感じたことのない感覚にシャアラは。
「なんか、ちょっと気持ちいいかも……」
そう無意識に呟き、自分で恥ずかしくなって頬を紅く染める。
うあー、私なんか今すごいはしたないことしてる? ていうか、なんかすごいドキドキするんだけど、もしかして興奮してるの? 外で全裸になって興奮してるって、私変態じゃん……。
そこまで考えて、先刻ローズリーパーの蔓に捕まっていた時のことを思い出す。
そう言えばあの時……私は服を溶かされて、そして身体を蔓に擦られて、なんか変な感じになってた……すこしあの時の感じに似てる。なんか、今すごい、心臓が速い……。
鼓動の速さを確かめようとするシャアラの掌が、外気にさらされた左の乳房を押しつぶす。
やっぱり、速い、よね。なんで? ほんとに私、おかしくなっちゃったのかな……。
身体が震え、鳥肌が立つ。自分がこの状況に興奮しているという事実による背徳感が、さらに興奮を助長する。
な、なに? なんか、身体が熱い……。不思議な感覚、何かが身体の中から溢れてきそうな、なんなだろう、これは。
興味はあった。その先を知りたい気持ちはあったが、しかしシャアラは王族としてその一線を越えていけないと直感した。
そこを越えてしまうくらいなら……!
シャアラは“羞恥”と“興奮”を天秤に掛けて、羞恥を取ることにした。
乙女の大事な部分を腕で隠しながら茂みを出て、未だに騒いでいるレオニスとイリスに目を向けると、シャアラも髪を結いあげながらそこに近付いていく。
「イリス頼むからもっと離れてくれ!」
「嫌だー! レオニスだって本当は嬉しいんでしょ?」
「そ、それは――――」
「隣、失礼するわ」
狼狽しっぱなしのレオニスにとって自体は悪化した。見ようによっては好転とも取れるが、しかし今の状況を楽しむ余裕はレオニスにはない。
「あれ、布巻いてこなかったんだ」
レオニスの腕にしがみついたまま、反対の隣に狙いを定めて温泉に入ろうとするシャアラを見上げ、イリスが言う。
「うん、やっぱり湯船に入れるのはどうかと思って」
それは嘘だ。レオニスの目をイリスから奪うためには布なんて巻きつけていられないと奮起して、シャアラは布を置き去りにしてきた。
「そっか。でもやっぱりシャアラちゃん身体綺麗じゃん」
「レオニスはこっち向かないで!」
イリスの言葉に釣られてシャアラの方を向こうとしたレオニスを反射的に止めて、その後でシャアラは後悔する。
ああああ! 私のバカバカ! レオニスに見てもらうために布を巻かなかったのにこれじゃ意味ないじゃん! うぅ、でもやっぱり恥ずかしいよね……。
とりあえず足先から、ゆっくりと温泉に沈めていく。
体温より高いお湯が、身体に染みていく。
シャアラの無駄のない洗練された肢体が、そのお湯に沈んでいく様子を、レオニスは横目で見ていた。
お湯は乳白色で、沈んだ先は次第にぼやけて見えなくなってしまうのがもどかしい。レオニスの男としての本能はやはり、シャアラの身体を目撃したいと願っていた。
ふう、気持ちい……。あったか。
肩まで浸かったシャアラがひと息ついて、そうしてようやく余裕が出てきたのか、隣至近距離に居るレオニスを見る。すると目が合い、反射的に逸らしてしまう。
「す、すまん」
「あ! うぇっと……いや、その……」
いつも剛毅であり豪気でもあるシャアラがいじらしく、それがレオニスの目には可愛らしく映り、ドキリとする。
「ちょっと、レオニス! 私のことも見てよ!」
積極的なイリスは濡れた両手でレオニスの顔を挟み込むと無理やり自分の方へと向ける。
そうされるとレオニスの目には際どいラインで湯面に浮かぶ二つの球体に釘付けになる。
「えへへー、ねえレオニスもっと見て良いんだよ。私の身体はレオニスの為にあるんだからね! なんなら触ってくれても全然いいよ」
「この淫乱エルフが……」
自分とは対照的なイリスを皮肉るようにシャアラが呟いたのを、イリスは聞き逃さなかった。
「淫乱って言った! シャアラちゃん今私のこと淫乱って言った! 酷い!」
「別に酷くないでしょ。本当のことだわ。男の人にそんな風に言い寄るなんて、エルフの女性ってみんなそうなの?」
「む、種族差別!? これだから人族は嫌なんだよ! 大した能力がないからってそういうところで貶めようとしてきて、性格悪いよね!」
「何ですって!? エルフだって精霊の力を使わせてもらってるだけじゃない! 大体人族が嫌いっていうならレオニスから離れなさいよ!」
「確かにそうですけど! でも人族と違って心が清らかだから精霊は私たちに力を貸してくれるんだよ! それにレオニスは違うの! 私レオニスのことは好きなの!」
「清らかってよく言うわね! これ見よがしに裸体をレオニスに見せつけてるような女が! 私だってレオニスが好きなのよ!」
「ふ、二人とも落ち着け!」
見た目には麗しい女子二人に挟まれ口論を頭から浴びているレオニスには幸せと苦痛が同時に訪れていた。見るに見かねて止めようとしたのだが。
「「レオニスは黙ってて!」」
自分自身が罵声を浴びせられる羽目になった。
そして5分後。
「えへへ、ほら見てレオニスー、レオニスの左手に私の右手ががっしり絡み付いてるよ?」
そう言って右手をレオニスの左手ごと湯面にぱしゃぱしゃさせるイリスは、レオニスの左肩にその頭を乗せてしなだれ掛かっている。
「そ、そうだな……」
「うふふ、ねえレオニス。ほらこっちの手は私の左手がぎゅってしてるの、分かる?」
いつになく妖艶な笑みを浮かべるシャアラは、何度も刻み込むようにレオニスの手をぎゅっぎゅっと握りながら右肩に頭を乗せて寄り掛かっている。
言い争いの末疲れた二人は、もう面倒くさくなってひとまずこの時はレオニスを共有することにしたようだった。止めたがっていたレオニスだったが、実際こうなってみるとこっちの方が精神的に厳しいものがあった。
右半身にシャアラの素肌の感覚が、左半身にイリスの柔肌の感覚があって、それを感じてはレオニスは心拍数を上昇させずにはいられない。
そしてそれを、イリスとシャアラも感じ取っていた。
「レオニス、私の身体、見られるのはちょっと恥ずかしいけど、このまま触ってみる?」
いつの間に羞恥心が消え去ったのか、それとも温泉の魔力なのか。いつになく積極的なシャアラが、上目遣いにそんなことを言ってくる。
レオニスは狼狽えずにはいられない。
待て待て待て待て、それは魅力的な提案だが、しかしそれには色々と問題が――――。
「ふーん、シャアラちゃんも結構あれじゃん」
にやけるイリスに、ばつが悪そうにシャアラが答える。
「う、うるさい。私だって、その、レオニスに触ってもらいたい気持ちはあるから……その、さっきはごめん」
「ううん、もういいよ、私も言い過ぎたね。やっぱり、私とシャアラちゃんは似てるのかもね」
「ふふ、そうね」
非常ににこやかな空気なのはよろしいのだが、二人の落ち着きように反比例してレオニスの余裕は失われていく。
「じゃあレオニス、私たちの身体好きなだけ触っていいよ?」
「はい!?」
大胆なイリスの言葉にレオニスの声が裏返る。
「ね、シャアラちゃん、いいよね?」
「うん……レオニスが触りたいなら、好きにしていいよ……」
それでも若干の恥じらいは残っているようで、シャアラは視線を合わせようとはしなかった。
ど、ど、ど、どうすればいいんだ!?
俺は今この状況で、何をどうすればいいのか分からない。
シャアラもイリスもそれは可愛くて魅力的だ。でもだからといって、二人が良いと言っているとはいえ、女子二人を弄ぶような真似をしていいのだろう?
分かっている、本能では俺はそれを望んでいる。しかし、俺は勇者になろうとしている男だ。
ここで理性を発揮できなくてどうする?
英雄色を好む、とは言うが……。
混乱しながら右を見れば、シャアラの胸元から上の綺麗なデコルテが見て取れ、この身体に手を伸ばしたいという気持ちが湧いてくる。
次いで左を見れば、イリスの豊満な胸がその存在感を誇示していて、その形を変えてやりたいという気持ちが湧いてくる。
我慢、しなくていいのか?
欲望に、レオニスの心が揺れた。
「どうする、レオニス?」
「私達を、触る?」
いつの今にか共同戦線を構築している両側の悪魔のような天使二人の誘惑に、レオニスの理性は崩壊し――――。
レオニス。
好きです、レオニス。
その時急に、頭の中に声が響いた。
それはシャアラでもイリスでもない。
それが誰の声なのかを、レオニスは知っていた。
「アールメリア……」
それはかの城の、魔王の名前。
レオニスが生まれて初めて告白を受けた、少女だった。
彼女の無垢な姿が声とともに脳裏に浮かび、レオニスは失くしそうになっていた理性を取り戻した。
「レオニス?」
「どうしたの?」
シャアラが名前を呼び、イリスが急に雰囲気の変わったレオニスを心配する。
そうか、俺はそうなのか。
レオニスは二人の視線に気付かず、自分の中に芽生えていたある感情と向き合っていた。
そのタイミングで。
「おーい、僕先に帰っちゃうからね。あんまり遅くならない内に帰ってきなよ」
いつの間にか温泉から上がり服を着ていたクレビオスが、呆れた顔で声を掛けてくる。
「あーうん、私達もすぐに行くよ! ……っていうことだから、上がろっか?」
「うん、そうね」
少し残念そうな面持ちの女子二人が頷きあう。
そして湯から上がるのだが、レオニスは何故か動こうとしない。
「レオニスー、行くよ?」
布を身体に巻きつけながらイリスが声を掛けるが。
「あー、いや……俺はもう少し入っていくから、先に行ってくれ」
「え、じゃあ私達も付き合おっか?」
「い、いや! ちょっと一人になりたいんだ! だから先に行っててくれ!」
「そ、そう? 分かった、じゃあ先に行くね」
慌てた様子のレオニスを不審に思いながら、シャアラとイリスは夜風に身体を晒しながら布で水気を取って服を着ると、登ってきた坂道を下って行った。
「ふぅ……」
レオニスは安堵の表情で息を吐く。
「これは、いろいろと落ち着けないと出るに出られないな……」
しかし、先ほどのシャアラとイリスの姿が脳裏にちらつき、レオニスはなかなか収まりつきそうになかった。




