魔王のメイド
私は魔王だ。
この世界を支配している。
最近、メイドを雇った。
ちなみに五十代の女性だ。
メイドと言うと、十代の可愛くて巨乳でミニスカ・ニーハイソックス姿の女の子を想像した御仁もおられるだろう。
残念だったな。
久々に魔王らしい事をしてやった。
ハッハッハ。
まあ、候補者には十代の女性もいたけどな。
最近の色ボケした勇者たちなら、即決で若い女性を選んだ事だろう。
しかし、私は能力主義である。
一番優秀だったのが、五十代の女性だっただけの事だ。
おっと、世の中には熟女マニアという侮れない存在もいるようだな。
しかし、やはり狙いは美熟女だろう。
私が採用したのは、眼鏡をかけた小太りの普通のおばさんだぞ。
残念だったな。
ハッハッハ。
あと、魔王のメイドということで、エッチな話を妄想した御仁もおられるだろう。
私はストイックな性格である。
残念だったな。
ハッハッハ。
さて、私の城は百階建てだ。
地階も百階ある。
食糧庫は一階。
食器棚とかは地下百階に置いてある。
これじゃあ、メイドさんも大変だろう。
魔王の間のすぐ近くに、メイドさん専用部屋を作ってやる。
そのほか、食糧庫、厨房室も新たに作った。
休憩室も作ってやった。
メイドさんのおかげで、私の椅子や机など身の回りはいつもピカピカ。
料理もうまい。
素晴らしい。
まあ、私の人を見る目が優秀だからである。
さすが私は魔王である。
ある日、私が机の上で部下からの報告書を見ていると、メイドさんに注意された。
「魔王様、失礼ながら姿勢が悪いですよ。猫背ですね。姿勢が悪いと、体の調子が悪くなります。背筋をキチンと伸ばしなさい」
メイドさんは毅然とした態度を取っている。
今までの部下でそんな発言をする者はいなかった。
みんなヘイコラするだけだ。
素晴らしい。
まあ、私の人を見る目が優秀だからである。
さすが私は魔王である。
その後も、事ある後にいろんな注意を受けた。
座りっぱなしはよくありません。適度に運動しましょう。ウォーキングがおすすめです。
肉ばっかりではなく、野菜を増やすなどバランスのいい食事を取りましょう。
頬杖はやめなさい。さあ、姿勢を真っすぐに。
スマホ首にならないように注意しましょう。
今までは誰も注意してくれなかった。
素晴らしいメイドさんである。
さて、ウォーキングに挑戦することになった。
私は魔王なんで、上下黒いジャージ。
メイドさんは、赤い上下のジャージ。
どちらも、横に白いラインが付いている。
ところで、ジャージにはなぜ横のラインが付いているのだろう?
わからん。
魔王にもわからないことはあるもんだ。
わたしが考え込んでいると、
「魔王様、どうされました」とメイドさんが言ってきたので、
「ジャージにはなぜ横のラインが付いているのだろう? 単なるデザインですかね」と聞くと、
「デザイン性もありますが、ジャージは使い込むと伸びきってしまうので、ラインの部分に伸縮がない素材を付けて耐久性を良くしているようです」とお答えになった。
うーむ、魔王より物事を良く知っている。
素晴らしい。
まあ、私の人を見る目が優秀だからである。
さすが私は魔王である。
早朝、二人で城の外周を歩く。
鳥のさえずりが聞こえてきて気分が良い。
とは言え、城が馬鹿デカいので、けっこうキツイ。
メイドさんはかっこよく背筋をぴしっとしながら歩いている。
私がダラダラと歩いていると、注意されてしまった。
「魔王様、それでは散歩ですよ。背筋を伸ばし、顎を引いて、肘を軽く曲げて大きく振って歩くんです」
「こうですか」とメイドさんの言う通りにウォーキングをする。
「そうです、そうです。お見事です、魔王様」
メイドさんに初めて褒められた。
嬉しいな、嬉しいな。
最近、私は体調がいい。
あのメイドさんのおかげだな。
いい人を雇ったなあ。
まあ、私の人を見る目が優秀だからである。
さすが私は魔王である。
さて、気がつくと、いろんな部屋を作ったので私の寝室を潰してしまった。
仕方が無い。
年一回休日用の狭い部屋の中、寝袋に入って寝ることにする。
意外と気持ちがいい。
最近あまり見なくなったが、木の枝に一本の糸でぶら下がっている蓑虫というのがいたな。
気分は蓑虫だ。
あの虫も気分が良かったのかもしれん。
ある日、メイドさんが急に辞めると言いだした。
実家の両親が倒れて介護しなくてはならなくなったとのこと。
まあ、それなら仕方が無い。
たくさん餞別をあげてやった。
短い間だったが、それでも居なくなると寂しいものである。
メイドさんが使っていた部屋はそのままにした。
私はまた、あの狭い部屋で寝袋に入る。
蓑虫気分。
寝ていると、
「さよならだけが人生だ」という言葉を思い出した。
しかし、やはり別れというものは、寂寞の思いにかられるものだ。
ひょっとすると、勇者たちがハーレムを作って大勢の女性たちを手元に置き続けるのは、こういう気持ちになるのが嫌なだけかもしれない。
って、そんなわけねーよな。
(終)




