8 小さな巨匠達は卓上に図面を広げて話し合う
まだ図面を広げる段階に至ってない件。すみません、本当は図面を広げて、本格的に話すところまで行くはずだったんです。ですが、文字数が・・・・!
「いやあ、予想以上の実入りだったじゃないか」
「そうですね。まさか、魔石の需要がそんなに高まっていようとは」
あの後、本当に一分で金貨250枚を運んできたことに感心したレアルは、またも大賢者であるファルに馬鹿にされていた。またも憤慨したわけだが、しばらくはこれでいじられるだろう。
「でも、それだけで急に価値が百倍以上にもなるのかねえ」
「きっと、他にも何か原因があるんですよ」
なんて言っているが、まさか、原因が自分たち二人にあろうとは、つゆほどにも思っていないのだろう。そう、原因はこの二人なのだ。中隊規模の兵をつれて、ワイバーン狩りにいったり、小隊規模でダンジョンにこもって魔石を狩りまくったり。そしてそれは、ギルドで売る。そんなことをするものだから、この二人がいた国での魔石の価値は暴落していたのだ。ふつうは、これくらいの額になるものなのである。
「なんなんだろうねえ。もしかしたら、乱獲され過ぎて数が減ったとか?」
「それ、あるかもしれないですね。僕たちもあれだけ狩ったわけですから。」
「う~む、謎は深まるばかりか」
「賢者としては、解き明かさないわけにはいきませんね。」
「そうだねえ。賢者(笑)としては、是非とも解き明かしたいだろうねえ(笑)」
「まだ言いますか!もう、ふざけていると、このお金全部お酒に変えてきますからね!」
「嬉しいけど嬉しくない!?」
「まったく!冗談はさておき、家、どうしますか?」
「うん、まあ、この町には凄腕の大工たちがいるから、依頼すればいいんじゃないかな?」
「凄腕の大工?」
「レアル君も聞いたことがあるんじゃないかな?小さい巨匠っていう名前は」
「スモールジャイアント・・・・って、まさか、この国で一番といわれているあの大工集団の事ですか!?」
そう、スモールジャイアントといえば、この国で一番の大工といわれている、ドワーフたちの集まりだ。この国では、知らないものなどいないほど、有名な集団なのだ。その知名度の凄さは恐ろしいもので、子供、商人、貴族、領主・・・・誰でも知っているというものだ。何故かというと、彼らの作る家は、超一級。生活のしやすさはもちろんのこと、しつこ過ぎない豪華さや、頑強さ。土地を取り過ぎないのに、家は広いなどといった、利点だけを詰め合わせた家を創るからなのだ。
「そう、それそれ。その集団って、実は、この町に住んでるみたいなんだよねえ」
「本当ですか!?情報を流したら、貴族からいくら謝礼が貰えるかわかりませんよ!?」
「まあ、そんなことをしたら、小巨匠からだけじゃなく、貴族からも目を付けられるよねえ」
「たとえ話ですよ。本当にやるわけないじゃないですか」
「まあ、その小巨匠がこの町にいるというのは本当の事だよ。さっき、フェヴァールから住所貰ってきた。もうすぐ着くよ」
「え、いいの?そんなにかんたんに」
「いいんじゃね?信用してくれてるみたいだし。誰にも言わなければオーケーよ」
そう、別にあまり知られていない情報を知ったからと言って、それをばらさなければならないかというと、それは違う。どうするかなんて、考える必要はない。どうもしなければいいのだ。
「あ、ここ・・・・だね、うん。あ、ごめんくださーい」
「本当に、ここなんでしょうか。フェヴァールさんを疑っているわけではないのですが、まさかあの有名な小巨匠がこんなところにいるなんて、ちょっと信じられませんよ。」
「まあ、それは出てきてから判断すればいいんじゃないかな?」
「そうですね。よおし、かかてっこい・・・・」
「なんだそりゃ」
「うう~・・・・あい、なんですかね」
「・・・・」
「・・・・」
「おたくら、俺に何か用があるんじゃないんかい?」
「あ~っと、貴方が|小さな巨匠《|スモールジャイアント》の代表さん?」
二日酔いで今起きましたオーラを醸し出しながら登場したドワーフの男性に、スモールジャイアントで合っているかを確認する。
「スモ・・・・なに?」
「ファルさん、やっぱり、違ったんですよ。大体、小巨匠がこんなところに居るわけないですよ」
「オーダーメイドの家を依頼しようと思ったんだけどねえ」
「ん」
オーダーメイドという言葉に、ピクッと反応するドワーフの男性。指定された住所にドワーフという時点でもう怪しいのだが、さらにこういう言葉に反応すると、ますます怪しい。
「広い三部屋の地下室に、また高い塀付きの広い庭、家自体は小さくて・・・・あー庭で家庭菜園でもやれたらいいなあ。薬草育てたら楽しそうだねえ」
「あのな、俺はスモールジャイアントじゃねえし、俺にそんなこと言われても仕方ないんだよ。もう帰ってくれ」
「ん?さっきまで眠そうだったのに、どうしたんですか?急にハキハキし始めて。」
「急に変な奴が来て勝手に自分ちの間取りを話し出したら、誰だって目も覚めるわ。もう帰ってくれねえかな、頭いてえんだよ」
ファルが気になることを指摘すると、ちょっとイラついているのか、大きな声になるドワーフの男性。
「う~ん・・・・『スモ、なんだって?』はよけいでしたねえ。わざとらしすぎる。しかも、そのあと自分ではっきりと言っちゃってるじゃあないですか」
「・・・・」
「まず、眠いふりするなら、そのまま続けないとダメですよねえ。意識してずっとねむそうにしてないと。」
「・・・・アンタなぁ、あんまりしつこいと衛兵呼ぶぞ!」
「もういい、モルガン。入れてやれい。」
奥からドワーフの男性を窘める声が聞こえる。引き留める言葉から考えると、この人たちはそうなのだろう。
「しかし親方」
「いいから。そんなところで怪しいだの嘘のつき方がどうだの言われてても、逆に騒ぎになるだろう。それに、この場所を誰かから聞いているのにそれに確信が持てないということは、自ら進んで調べたわけではないということだ。大方、信頼性の高い場所からの情報ではあるものの、本当かなという少しの疑いがあるということだろう。分かったか?わかったなら、入れてやれい。」
「・・・・入れ」
「おじゃましまーす」
奥から聞こえてくる親方のご厚意に甘え、中に入るファルとレアル。中は外から見た印象とは違い、かなり広いようだ。おそらく、この周辺一、二軒を無理やりにつなげてしまっているのだろう。それも、外からじゃわからないように。恐るべし職人技である。
「ふうん、ここがかの有名なスモールジャイアントの本拠地ですか。噂は間違っていないようですねえ。外観からは想像もつかないような広さ。間違いなく、一、二軒をつなぎ合わせている。奥行きも広いですねえ」
「ふん、広い地下室もあるぞ。高い塀付きの庭はないがな」
「やはり職人としては地下室は必須ですよねえ。湿気がこもるけど、静かに集中したいときや誰にも知られたくない重要な作業をするときは必須だ。」
「その通りだ。なかなか話の分かるおっさんじゃねえか」
「私も一応職人の端くれですので。」
「ほう?なにを修めている?」
「錬金術と魔法陣を少し」
「ほほう」
「最近の趣味は必要魔力量の多い、威力がバカ高い魔法を創ることですかねえ。案外、楽しいもんですよ」
「それは意味があるのか?まあ、いい。で、建築の依頼だな。大体の話は聞いた。」
ファルの魔法趣味は、本当に趣味の領域である。人類のためであるとか、そんな面倒な物はない。大賢者時代は、低コストで威力の高い魔法や、生活に使える魔法などを開発していたが、今は大賢者マファールではなく、ただのオッサンなのだ。